其ノ参 お隠れ遊び

今日の私はいつもの友人が経営している喫茶店ではなく、自宅のPCで某音声チャットサービスを利用し取材していた。


相手はイヌイさん(仮名)という男性。

出身はかんな町とのことだったので私と同郷になるらしい。

かんむ町出身と言っても地区によって特殊な風習があるので今回の取材をすることになった。


「イヌイさん今回はお時間を取っていただき大変有難う御座います。早速で申し訳ありませんが今回の応募内容の確認をさせていただきますね」


「はい、今回私が持ってきた話は【御隠れ遊び】というものです」


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まず初めにお隠れさんとお隠れ遊びってご存知ですか?

私の住んでいた地域では有名だったんですが…


知らないですか? ではまずお隠れさんについて説明しますね。


お隠れさんとは私の生まれた地区で有名な妖怪みたいなものです。


普段は簡単に見つけられるような場所に隠れているそうなんですが、実際に見つけたという話はないみたいなんです。


というのもお隠れさんは隠れてるものの形に体を変化させれるので、物の陰に隠れると正面からは全く見えなくなるらしいのです。


そういったこともあってお隠れさんを見た人は昔から誰もいないんですよ。


もし見つけたならそれはお隠れさんじゃなくて、別のなにかだって言われています。


次に【お隠れ遊び】についてです。

この遊びは簡単に言うとかくれんぼです。 ただいくつか違うルールがあるんです。


まず1つ目は隠れる場所は出来るだけ見つけやすい場所であること。分かりやすい例だと電柱や空き地の土管の裏とかですかね。

そして隠れる際はできる限り体が見えないようにしなければなりません。


2つ目は全員が見つかった場合です。この場合も「お隠れさん お隠れさん お姿見せて わらしと遊ぼ」と言い終になります。


違う所を説明するならこんな感じですかね。

あとは普通のかくれんぼです。


さてそんな遊びなんですがこの遊びには少し不気味な噂がありまして…


気絶すると本当にお隠れさんになってしまうという噂なんです。


隠れてる最中に気絶なんてどういう状況だろうって思うかもしれませんが、こういう遊びをするときって大体夏とかの暑い時期が多いんですよ。


ご察しの通り熱中症やら脱水症状で肝と悪くなり気絶してしまう子も偶にいました。


でも大体は見つかったあとに鬼と一緒になっての日差しが強い場所にいるときに倒れる人が多いので、隠れている最中に気絶するひとは殆どいませんでした。


はい。ほとんど居ないと言っても稀に倒れる人はいました。私もその中の1人です。


小さいときは私は友達と一緒にこの遊びをしていました。鬼を決める為にじゃんけんをして無事隠れる側になったので私は急いで隠れる場所を探し始めました。


友達は人んちの塀の裏に隠れたり、車の陰に隠れたり、まあよくある隠れ場所ですね。


みんな続々と隠れる場所を見つけ出し後は私だけになってしまいました。すると離れた場所から、


「もういーかーい」


と鬼の声が聞こえてきます。


「まーだーだよー」


私はそう答え急いで近くのも電柱の裏に隠れました。


「もういーかーい」


そう鬼の声が聞こえてきました。今度は皆で


「もーいーよー」


と返事を返しました。


すると早速近くで


「〇〇くんみーつけた」


という声が聞こえ始めます。


ひとり、またひとりと見つかっていきますがなかなか私は見つかりません。


先程説明した通りこの遊びは見つかりやすい場所に隠れなければいけないので基本的にすぐ見つかってしまいます。ですので見つかるまで時間がかかると少しみんなに自慢できるんです。


実際に当時の私も「もしかしたらお隠れさんになれるんじゃないか!」と思っていましたから。


そんな事を考えて隠れていると次第に鬼が子を発見した声が聞こえなくなり始めます。もう大体の人は見つかってしまったようです。


大体のこのあたりから鬼の人が「お隠れさん お隠れさん お姿見せて わらしと遊ぼ」って言い始めるんですが、その時は何故かいつもより時間が長いかったんです。


そこで私は今回の鬼は誰だったか思い出しました。その子は負けず嫌いな子で探すのを中々諦めない事で有名でした。


この遊びで子は見つかるまで隠れてなければいけないので、私はじっと電柱の裏で隠れていました。


何やら友達が喧嘩をしています。もう諦めなよとか、絶対諦めないとかそんなことを言ってた気がします。


私もなんだかんだ負けず嫌いだったので見つからないように、電柱の陰にどうにか隠れようと体を前に折りたたむ感じで縮めます。


脚と脚、腕と腕をできる限りくっつけて。

エジプトのミイラみたいに包帯でぐるぐる巻きにされてる感じって言えばわかりますかね?


そうしてじっと見つからないように隠れていると少し違和感を感じ始めます。


何だか体が伸びてるような…細くなってるような感覚。 熱のときに腕を伸ばすと近くにあるか遠くにあるかわからなくなるやつあるじゃないですかあれに似た感覚が全身に広がっていくんです。


次第に目の前もぼやけてきて、さっきまで聞こえてた声もくぐもった感じになっていきました。


あっこれはやばいと思い電柱の裏から出て休もうとしました。


でも体が動かないんです。

同じ姿勢のままずっと身動きができない。まるで何かに抑え込まれてるみたいに腕も足も離れないんです。


それでも体が伸びるような感覚はまだ続いています。それどころかぼんやりしてる視界はどんどん高くなって言ってる気さえします。


そこで私はの意識は途絶えてしました。


目を覚ますと近くの病院のベットで寝かされていました。


あたりを見渡すと両親や看護師さん達がいました。どうやら熱中症で倒れてしまったみたいです。


友達が倒れてる私を見つけ近くの家に助けを呼んでくれたみたいでした。


すぐに病院へ運ばれた結果症状はあまりひどくはならなかったようでその日のうちに退院できました。


家に帰ったらうちの親にはこっぴどく叱られてもうそんな遊びはするなと怒られました。


確かに今考えると見つかるまで出てきてはいけないなんて隠れ場所が悪ければ死んでいてもおかしくないですからね。 実際にその可能性があったわけですし。


それ以降は学校側がこの遊びを禁止したので友達もこの遊びをする人はいなくなりました。


でも私今でも思うんですが、もしあのまま気絶しなかったらどうなってたんだろうって…

もしかしたら私は本当にお隠れさんになってしまっていたのでしょうか?


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「以上が私が体験した不気味な出来事です。ただ熱中症になって不思議な感覚になっただけかも知れませんが…」


そう言ってイヌイさんは少し苦笑いを浮かべる。


「確かに体調の不良で不思議な体験をすることはあると聞きますが、体が伸びたり細くなったりするなんて聞いたことがないので大変興味深かったです」


「それなら良かったです。今じゃあこんな話をする人なんて周りにはいませんからこうやって過去の話を出来るのは少し新鮮で私も楽しかったです。」


「そうなんですね。少し気になったのですがイヌイさんのご友人似た経験をされた方とかはいらっしゃるんですか?」


「いやぁ…お恥ずかしながらあの遊びをして隠れてる側で気絶をしたのは自分以外聞いたことがありませんので…」


「なるほど。他に不思議なことが起こった経験などはありますか?」


そう聞くとイヌイさんは少し神妙な顔をして


「実は今回この募集に応募したのには理由がありまして」


「理由ですか?」


「私この年齢になって実はまだこの遊びをしているんです。」


「先程この遊びはしていないと仰っていませんでしたか?」


「それは皆とやるお隠れさんです。私が言っているのは、鬼が居ない状態で何かに隠れる遊びなんです…」


「はぁ…それは…まあ迷惑をかけていないのであれば問題はないとは思いますが」


「自分がおかしいのは重々承知なのですが、何故か隠れるのがやめられないんです。親しい人にこんな話をするのは恥ずかしいですし」


「でもこう言ってはなんですが赤の他人であればこの悩みも打ち明けられるんじゃないかなぁと…もしなんかの呪いとかだったらお祓いに行ったほうが良いんですかね?」


「私はこの遊びについて詳しくはわからないのですが、もし気になるのでしたらそうしたほうが良いかもしれませんね」


「そうですよね…すみません取材が目的なのにこんな話をしてしまって」


イヌイさんはそう言って申し訳無さそうにしている。


「いえ。そう言う内容も小説の内容に組み込めるかもしれないので、全然構いませんよ」


そう私が言うと幾ばくか安心したように


「有難う御座います。これで私が話したかったことはほんとに終わりです」


「そうですか。今回は貴重な体験談をお話しいただき有難う御座いました」


そう言ってイヌイさんとの取材は終わった。

少ししたらまたイヌイさんに取材をしてみるのも良いかもしれない。もしかしたら本当にナニカに憑かれてるのもしれないのだから。


そう思いながら私は今回のイヌイさんの体験談をノートにまとめる作業へと移った。

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