第7話 家庭訪問・後編

「それでうちに来たのか」


「うん。魔法見せて」


「ここでか? 街が消し飛ぶぞ」


「あら、たっくんそんなに上達したの?」


「まあチートなんで。上級に差し掛かったとこです」


「まあすごい。王宮魔法師になれるわよ」


「いや、冒険者になるんで」


「お前もか!」


「あ、先生。そういうわけで俺も冒険者になるんで進路希望変更します」


「お前は成績いいんだから高校行ってくれよ」


「オレは成績悪いから勧めないんだよね」


「そうじゃない。いまどき成績とか関係なく高校くらい行くだろう」


「先生、そういう思考停止はよくないですよ。現実を見て」


「なんでお前ら俺が現実逃避してるみたいに言うの?!」


「まあとりあえず先生目つぶってください」


「ん?」


「そのままで」



辰巳は先生を抱えてひょいと屋根に飛び乗った。



「先生周り見て」


「んなっ! え? なに?」


「あそこから軽くジャンプしただけですよ。身体強化して」


「えぇ……辰巳ぃ……」


「俺ならここから見える限りの範囲を一瞬で焼き尽くしたり水浸しにしたり竜巻で粉々にしたり土で覆ったりできますよ」


「なんでお前まで常識枠から外れちゃうんだよぉ」


「面倒くさいなぁ。降りますよ」


「うぇっ?! うわぁっ!」



先生をつまんで降りてきた。



「辰巳、お前身体強化の調整うまいな」


「勇者ほどの力は出ませんからね。調整も楽です」


「父さんは完全に人外と戦う力だもんね」


「勇者様すてき」


「姫さま」


「先生、この世界の普通の中学生にこんな力はないですよ。あきらめてください。それに身体強化だけじゃなくて全属性魔法中級まで完全マスターしてますから。王族に出せるくらいの料理もできますし。ちゃんと異世界でがんばるんで安心して」


「え? あ、え? あーうん」


「うちに戻ってお茶しない? 辰巳も来いよ。いっぱいケーキあるぜ」


「おう。あれ? 家庭訪問はいいのか?」


「肝心の先生が使い物にならない」


「それもそうか」



このあと辰巳の両親も呼んでパーティーを開いた。



「ジュリちゃんいらっしゃい」


「姫ちゃん~お招きありがとう~」


「ケンさん、今日は仕事早かったみたいだな」


「ああ、今日はたまたまね。帰ってみたらパーティーとかいうからびっくりしたよ」


「虎彦と辰巳から話があるそうだ」


「先生もいるようだが」


「家庭訪問のついでだ」


「ほう。うちもついでに済まそうってことか?」


「あ、いえ、ついでとかではなくてですね。そのぉ込み入った事情が……」


「それはあとでゆっくりと聞かせてもらおうじゃないか」


「ひゃいっ」


「えーと、辰巳のお父さんとお母さん、ご報告があります」


「あら~なぁに~? 結婚でもするみたい~」


「そんなわけないだろ。中学校卒業したら俺冒険者になるから」


「冒険者? なんだそれは」


「あのね、クマモトで旅するんだ」


「辰巳、説明しなさい」


「虎彦のお母さんが異世界出身なのは知ってるよな? そこを旅していろいろな経験を積みたいんだ」


「姫ちゃんのふるさとね~。わたしも行ってみたいわ~」


「ふむなるほど。ビジョンがあるなら問題ないが、子どもだけで旅に出るのか?」


「向こうでは十五歳で成人だからオレたちもおとなだよ」


「そちらでいう成人とはなんだ?」


「十五歳以上になると国に登録して庇護を受けることができるんだ。十五歳未満では登録できないし、十五歳以上でも登録しなければ国民になれない。その代わり納税義務が発生する」


「なるほど。登録には資金とかなにか必要なのか?」


「普通は階級に応じて拠出金が必要なんだけど、俺の場合は王族の直接の口利きだから無料で最高位の階級になった」


「ふむ。それならば応じた働きをせねばな。行ってこい」


「え、え? そんなあっさり?! 『こら! バカなこと言ってないで勉強しろ!』とか『危険じゃないのか?』とかそういうのなにもなしなの?!」


「そんなことは検討済みだろう。バカじゃあるまいし」


「姫ちゃんのふるさとって危険なの~?」


「魔王はわたくしの勇者様が倒したし、魔物や盗賊もたっくんなら敵じゃないと思うわ」


「たっちゃん~大丈夫~?」


「問題ない。中級魔法はマスターしたし、剣術も近衛騎士団長に認められた」


「あら~たっちゃん強いの~?」


「たっくん近衛騎士団長に認められるなんてすごいわ」


「あのおっさんに認められるなら上級だな」


「それなら安心ね~」


「いつでも帰ってこられるんだろう? こうして話を聞くかぎり行ったきりでもあるまい」


「毎日通ってるよ」


「まあ旅に出ている間は戻れないけど、城からはすぐ帰れるな」


「一度ご挨拶に伺ったほうがよいだろうか。それとも王族にはむしろ無礼に当たるだろうか?」


「あら、お二人が向こうへ行ったらみな歓迎しますわ。たっくん人気ですもの」


「そうだな。お二人ならセキュリティ上もまったく問題ないだろう。都合を調整しようか」


「ええ……なんで隣の県の親戚に会いに行くみたいなノリなの……」


「先生、現実を受け止めきれないの、先生だけだよ」



パーティーの後半は先生が父親たちに囲まれてなにやらぐったりしていた。

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