第6話 家庭訪問・前編

今日は担任の先生がうちに来るらしい。


なにしに来るんだろう?



「トラちゃん、先生はどんなお菓子が好きかしら」


「いやそんなこと知らないよ」


「そうよねー。困ったわ。それじゃあ全部用意しておきましょう」


「どうしてそこでパートのママじゃなくてお姫様っぽくなっちゃうんだろう」


「トラちゃん、ママはお姫様なのよ」


「おい、この服でいいか?」


「あなた、かっこいいわ」


「父さん……騎士服はダメだと思うよ。母さんもドレスはやめよう」


「姫さま、きれいだよ」


「まああなた」


ピンポーン。


「はいはーい。先生来ちゃったじゃん」


ガチャ。


「お、参内。ご両親は在宅か?」


「在宅。イチャイチャしてるから落ち着くまで待って」


「お、おう」


「こっち座って。はいお茶」


「どうも。なんか普通の家だな」


「どういう意味??」


「変なツボとか水晶玉とか剥製とかあったら怖いからよ」


「変なツボ見たいの?」


「見たくない」


「そっかー」


「あら、先生、こんにちは」


「え?! あ、こんにちは、どうも。(おい、参内、なんかパーティーでもあるのか?)」


「これが普通だよ」


「そ、そうか」


「先生、よくぞ参られた」


「ふぇ?! キラキラ貴族? なにごと?!」


「先生、これ父さん」


「えぇ……先行き怪しくなってきたぞ」


「先生、今日はようこそ参内家へ。こちらにティーセットを用意いたしましたわ」


「え? ここじゃないんですか?」


「ここは控え室じゃん。あっちが本番」


「へえ……おまえんちなんかすごい……な……すご」


「先生こちらへ。お好きなものがあるといいんですけど」


「先生ぼーっとしてないで座って。どれが好き?」


「あ、ああ。どこのホテルのケーキバイキングかってくらい豪華なんだけどなにごと?」


「先生に出すお菓子どれがいいか迷ったから全部出したみたい」


「富豪か」


「好きなだけ食べていいよ」


「こ、これください」



すっとメイドが出てきて取り分ける。



「え? ええ……」


「お茶はどちらがお好みかしら? そのケーキだとこれかこれが合うと思いますけど」


「ふぇ? お茶にこんなに種類があるの? じゃあこれで」



すっとメイドが出てきてお茶を淹れる。



「ああ……ヤバい。想像よりずっとヤバい」


「先生……しっかりして。まずは一口食べて心を落ち着けて」


「おう。うっま。なにこれうま。お茶もうま。なにごと? はっ」


「お口に合ったみたいでよかったわぁ」


「あの、ところでお父さんはなんでずっとお母さんの後ろに立っているんでしょう?」


「護衛騎士だから? 来客のときは大体そうだね」


「警戒されてる?!」


「儀礼として接客の際は後ろに控えるのが俺の立場なのでね」


「それはどういうご関係で?」


「わたくしの勇者様ですもの」


「俺の姫さま」



先生が一瞬で砂に埋もれた地蔵みたいな顔になった。



「参内、これなにごと?」


「毎日やってる」



そうかー。とため息をついた。



「本題に入りましょう」



お、先生が再起動した。



「えー虎彦くんの卒業後の進路なんですが、高校に進学せずに冒険者になると言ってるんですけど、お二人はご存じですか?」


「ええ、トラちゃんのむかしからの夢ですもの。十五歳になったら冒険者登録できますから」


「ああ、トラは日本にいるより向こうで自由に過ごしたほうが成長できると思っている」


「向こう? どこかに留学される予定で?」


「留学? わたくしの母国ですのよ。トラちゃんにとっても母国ですわ」


「まさかの二重国籍?! そしてお母さん外国人?」


「こちらの世界での国籍は日本になっていますわ」


「こちら? あ、二次元とかの話ですか?」


「二次元? 次元は変わらないと思いますけど……?」



あ、通じてない。



「先生にも向こうの様子見せたら安心するんじゃない?」


「虎彦、そういうわけにはいかんぞ。だれでも向こうに連れて行ってはならん」


「そうねえ。一生向こうで暮らすならともかく、ただ見せるだけってのはよくないわ」


「一生『向こう』で暮らす?!」


「あ、こないだの写真見せようか?」


「あら、それならいいかもしれないわ」


「城下の写真か。なら機密もないしいいか」


「先生、これこないだ行ってきた城下町の写真。オレたちと向こうにいるいとこ」


「どこのテーマパークだ? みんなコスプレとか」


「あとこっちは辰巳と騎士団長のおっさん」


「辰巳?! あいつまで巻き込まれてるのか?」


「オレといっしょに冒険者になるんだ」


「家庭訪問案件増えた!」


「これが城下町から見たお城。母さんはここの先代王の娘。このいとこがいまの王様の娘ね」


「VRとか進化すげーな。ゲームの話だろ?」


「ゲームではない。現実の話だ。俺は向こうで人食いドラゴンを倒して姫さまと結婚したんだ」


「倒すまえにさらったくせに」


「うふふ」


「あ、そういう感じ」


「先生現実逃避はやめてよ。これはゲームじゃないよ」


「あれ? 俺が現実逃避してることになってる?」


「わたくしもこちらに初めて来たときはいろいろ驚きましたわ。異世界を渡ったおかげで言葉には困りませんでしたけど」


「え? ちょっと待って。父さんも母さんも辰巳も異世界人だからチート持ってるってこと? ずるい!」


「ああ、おまえはハーフだからどちらからも異世界人と認識されていないんだったな」


「あ、それなら魔法使って見せれば先生も納得するんじゃない?」


「なるほど。そうね。わたくしの魔法はこれよ。光あれ」



ペカーっと光って周りのものがきれいになった。



「お掃除に便利よねえ。アンデッドにも効果あるし、あと少しなら傷の治療もできるわ」


「俺は身体強化だけだからな」


「あなた家のなかで強化しちゃダメよ」


「わかってる。こっちで身体強化使うと大変なことになるからな」


「強化なんてしなくてもあなたはすごいもの」


「姫さま……」


「あ、オレの使える魔法はさいころの魔法だよ」



さいころを振ってずっと1のゾロ目を出し続ける。



「イカサマか? マジックか?」


「先生、現実を見ようよ。たねも仕掛けもないんだよ」


「マジックにしてはショボいな」



ズーン。オレの魔法がショボいのなんて異世界人チートがないハーフなんだからしょうがないじゃん。



「トラちゃんになんてこというの! マジハラよ!」


「母さん、そんな言葉どっちの世界にもないから」


「だってトラちゃん派手な魔法使えないの気にしてるでしょ?」


「いいんだよ。辰巳がすごい魔法使えるから」


「ん? 辰巳が魔法を使えるのか?」


「そうだよ。魔法使いのじいちゃんがめっちゃほめてた」


「そうだわ。たっくんを呼んで見せてもらえばいいのよ」


「どっちみち家のなかじゃムリだと思うけど」


「辰巳の家は近いのか? ついでに家庭訪問しようかな」


「隣だよ」


「近っ」

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