第48話[それぞれの道を進め]

「あ、オレオールさん、メリナさん」

「よ、ブレイブ、肉うまい具合に焼けてるか?」

「焼けてるどころか姉さんがどんどん食べちゃいますよ…お二人の分もちゃんと残して置いてますけど」


そう言って別の皿に取り分けて置いてくれた分を差し出してくれた、こういう気遣いができるところを見るとブレイブは歳よりも大人びて見えるな


「ありがとうねブレイブくん、それと、これからもオレオのことよろしくね」

「はい!オレオールさんにはまだ恩を返せてないですし!」

「……恩?」

「この旅を始める際、必要なものをオレオールさんに全て奢ってもらったんです、なので僕はオレオールさんにその恩を返そうと思っているんですよ」

「……オ〜レ〜オ〜?」

「い、いやだって……道端で倒れてて大変そうだったし……それにほら、ブレイブが言ってるのは一宿一飯の恩ってやつだよ」

「それとこれとじゃ意味自体が全然違うでしょうが!」

「デスヨネー!?」

「全く……昔からお金への関心がないというかなんというか…」

「い、いやぁ……」

「わかりますその気持ち」

「え」


うんうんと肉を焼きながら頷くブレイブ、お前にまで俺そんな風に思われてたのか


「いやもちろんお金も大切だと思ってるぞ?お金があると大抵のものは買えるし、暮らしも安定するしさ」

「旅でその日暮らししてる人とは思えないセリフなんだけど」

「うっせ、でもまぁ、お金は大切だけど……それよりも大切なものがあるってわかってるからさ」

「オレオールさん…」

「ま、今はそんな話も置いて置いて、飯を楽しむとするか、焼くの俺が変わるよ、焼いてばっかりで食えてないだろ?」

「ダメです、僕はまだ平気ですから、オレオールはちゃんと栄養のあるものを食べてください」

「おぉぅ、わかった…でもま、すぐ交代するからな、ブレイブみたいな若者はちゃんと食べないと」

「あー…は、はい、ありがとうございます」


ブレイブの返事がちょっと微妙だった…かな?でもまぁ、俺は気にせずに肉や野菜を食べることにした…すごい米が欲しくなってくるよな、こういう時って……ちゃんと炊飯しとけばよかったか?


「本当に僕は食べなくても大丈夫なんですけど…」


ボソボソと何かを呟くブレイブ、何を言ったのかは聞こえなかったが気になるワードがあったような…


「ん、これんまいな」


焼いて置いてもらった肉を食べると、柔らかいかみ心地に溢れてくる肉汁が舌の上で踊りはじめる……っていうか、ブレイブ肉焼くのうまいな……!メリーも驚いたように目を見開いて頬張っているし、よくよく見ると他の仲間達も食べたことがないほど美味しいものを食べているかのような顔をしている…こういうの慣れてるんだなぁあいつって


「母さんは料理がとっても上手だったんです、その母さんに時間をかけて教わりましたから……オレオールさんの手際の良さには敵いませんけど」


タハハと恥ずかしそうに笑頷く彼に、俺は「そんなことない」と声を出す


「俺の方は教えてもらったことなんてほとんど忘れちったし、今となっちゃほとんど独学の料理方法だから、ちゃんと教わった通りにできてる分ブレイブの方がすごいと思うよ」

「そ、そうですか?えへへ」


若干嬉しそうな顔をしている……カゼイチのあの時の発言といい、ブレイブの過去は俺たちの想像を絶するものなのかもしれない、それでも兄弟と母親と力を合わせて成長してきたからこそ、ブレイブの人の良さは生まれてきたのかもしれないな、自分と他人との境遇を比べて「なぜ自分ばかり」と考えてしまうこともあるだろう、それでも家族と、そしておそらく周りの環境が彼を、そして姉のカゼイチを支えてきたのだと俺は思う


「〜♪」


楽しそうに肉を焼く彼の姿に、俺は彼の言葉を思い出していた


『あはは、朝起きてから鍛錬しないと、体がうずうずしちゃって』

『なるほどな、習慣になってるってことか』

『まぁそういうことです』


彼の毎朝の習慣、それは自分の持っている刀を振るって鍛錬すること……なぜそれが習慣になっているのか…それは、彼が俺と出会う前にも様々な戦いに巻き込まれてきたからじゃないのか?母親や家族を守るために刀を取り強さを求めた、だから毎日のように鍛錬することが習慣になっていた…そういうことなのだろうか


(って、考えても仕方ないか…)


パクッと一枚の肉を口に含み、俺はブレイブに肉奉行の交代を申し出た



「……ん、んん」


次の日、いつも通り誰よりも早く目が覚めた……いや、誰よりもというのは語弊がある、彼を除いてだ


「ふっ!はぁぁっ!やっ!……やぁぁぁっ!はぁっ!………………ふぅ」


昨日考えていた通り彼は鍛錬を積んでいた、かなりの時間鍛錬を積んでいたのだろう、彼の顔は赤くなっている……声をかけて中断させよう、そう思い身を乗り出すと


「……よいしょと」


彼はペタンと床に座り込んだ、きちんと痛くないように平らな場所で……ではなくて、思いっきり尖った岩が近くにあるところでだ


「そろそろ皆さんが起きる時間ですね…今のうちに…」


ブレイブがそう呟くと、彼の体からブワッと光り輝く何かが出てくる…その様子に驚いていると、その光り輝くナニカがひとつになって、小さな石になった


「これを使わないと本気を出せない、というのは、まだまだ不甲斐ないですね……」


個人的にはそれどころじゃないわけだが、まずなんで体そんな光ったの?性別変えたわけでもないのに…その次にその石何?そんでもってなんでその石体から出てきたの?


なんて聞くわけにもいかず、俺は少し時間を置いてからブレイブの前に出ることにした



「それじゃあ俺たちは街に戻りますね、後輩達を待たせてますんで」

「あぁ、会えて嬉しかったよ、今度は俺の方から街に戻るから」

「おぉ、楽しみにしてます!」


全員が目覚め、共に朝食を食べ終わった後、俺たちはそれぞれの道に進むことになった、メリーにカヌレにモナは街に戻り、俺やブレイブ、カゼイチにエクレは予定通り獣人の街に行くことにした


「後輩達の指導頑張れよ、カヌレ、モナ」

「はいっす!」

「任せて置いて」

「メリーも、あの男について調べるのは良いけど無理だけはするなよ」

「もちろん、オレオこそ自分探しの旅、とか言って無理して帰ってこないでよね」

「当然」


そのまま少し会話をして俺たちは分かれる、それぞれの道を歩むために……このまま俺は旅を続け、かつての仲間は街へと戻りいつも通りの日々に戻る…メリーは除くことになるけど


「さて!次は獣人の街ですね!」

「あぁ、なんだか色々あって遅くなっちまったけど、ついにだな」

「なんか私、とってもドキドキです!」

「ドキドキですって何…ま、気楽にいこーよ、いざとなったら私もいるからさ」

「お前自信満々だな」

「頼りにしてます、姉さん」


そんな話をしながら街への険しい道を歩いていく、道はさらに険しくなって行くが仲間達と共に歩む道はとても楽しい


「なんか不思議な人たちだったねー」

「確かに、まぁあの先輩が信用してる人たちだし、それに話した感じも全然悪い人じゃなかったから俺はなんでもオッケーだけどな」

「気楽すぎでしょ……あそうそう、言っとくけど次からは寝坊しても起こしに行かないからね」

「えぇ!?そこは助けてくれよ!」

「嫌だよ!何が悲しくていい歳した男の朝のアラーム役やらなくちゃいけないのさ!」

「お、アラーム役?良いなそれ」

「全然良くないから!」

「ま、まぁまぁ2人とも、落ち着いて、ね?」

「はーぃ」

「流石メリナさん、あのカヌレが一瞬で落ち着いた…」

「あ、あはは…」

「でも先輩、なんだか嬉しそう、やっぱりオレオールに会えたからですか?」

「え?う、うーん、それもあるけど……」


『これで俺とお前は、また繋がりを取り戻した、前とはつながり方は違うかもしれないけれどさ』


「彼との繋がりが戻ってきたことが、嬉しかったのかも」

「???」


そのまま首を傾げる2人を背に、私は先を歩くのだった


ー?サイド


「クソォッ!!!!」


ある男が机を強く叩く、その力があまりにも強すぎたのか、机は真っ二つに割れてしまった


「オレオール・シュトラムル…!アイツがクレディスブレイブとさえ出会わなければ…!忌々しい!忌々しいィィィィィィィィ!!!!!」


絶叫しながら頭をガリガリとかく男は、先日クレディスブレイブによって致命傷を与えられた男だ


「荒れてるねぇ〜、No.4〜?」

「……No.5…なんのようだ…!」

「それは〜、これまで任務を完璧に遂行してきたエリートがついに失敗したっていうものですから〜」

「煽りに来たのか、今の私は虫のいどころが悪いぞ」

「や〜だ〜、違いますよ〜ぅ、数年前から仕込んでいたあの作戦も無駄になってしまった人に〜…そんなことするわけないじゃないですか〜」

「貴様……」

「上手い考えだと思ったんですけどね〜、彼の好きな人を[結婚する前から]洗脳して置くあの方法!」

「チッ…」

「じわじわと回収はできてましたけど〜、最後の大花火は〜、なんというか、期待外れでしたもんね〜、あの2人の結婚初夜の方が面白かったですよ〜」


そう相手の少女が告げた瞬間に、彼女へ向けて男がナイフを投げつける、そのナイフは彼女に突き刺さることなくそのまま壁に垂直に進み突き刺さる


「虫のいどころが悪いと言ったはずだが?」

「あらら〜、ごめんなさ〜い、でもでもぉ、愛し合っていた夫婦を利用するような人にぃ、そんなこと言われる筋合いはないと思うんですけどぉ?」

「……」

「あっはは♪次は私の番だからね〜♪」

「……フン、食えないやつだ…」


少女はその場から、姿を消した



ダイヤモンドリリーの花言葉[また会う日を楽しみに]

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