第47話[元夫婦の話し合い]
夜、月明かりに照らされ、少し離れたところからは仲間達が楽しく話し合う声が聞こえる……そんな状況の中、俺とメリナは2人で比較的静かなところへ移動していた
「……こうして2人で夜空を見上げるのはいつ以来かな」
「たしか、オレオがカヌレちゃんとの距離感が掴めなかったあの日以来じゃない?」
「あぁ……もうそんなになるか」
数年前、俺とメリーとモナのチームにカヌレが新人として入ってきた時、どうにも年下の女の子との関係をうまく築く方法がわからなくて、ギクシャクした状態が続いたことがあった、そんな時に相談に乗ってくれたのがメリーだったのだ…彼女は当時からプライベートでも仕事中でも最高の相棒だったのだ
「懐かしいね……あんなにオドオドしてたオレオはあの時以来だよ」
「俺が一つ、記憶を取り戻したあの日?」
「そ、あの時は本当に焦ったよ…オレオが真っ青になってたからさ」
「よく覚えてんな」
「お互い様じゃない?」
「そりゃそうか」
ははは、と軽く笑ってしまう、やはりメリナといると楽しい気持ちが湧いてくる…けど、やはり俺の中で変わってしまったものは、真実を知った後でも変わらなかった
「……オレオ、ちょっと変わったね」
「え?」
「なんと言うか、前よりも元気じゃなくなった気がする」
「……前よりも…?」
「うん……もしかして…思い出したの?昔のこと」
「……全部じゃないとは思うけど、三つくらい」
「三つ?」
「しかもぜんっぶ悪い記憶、思い出す記憶偏りすぎだろ」
「あー、そりゃドンマイ」
そのまま俺は思い出したことをメリーに伝えた、まぁ一つは真実とは別の物がごちゃ混ぜになってたけど、そのおかげで思い出せたものがあるし、それも含めて全部教える
「はー…結構大変な人生歩んでるんだね…いやあの、本当に私が言えたことじゃないんですけど……」
「そりゃもう良いって、俺も、理解はしきれてないけど納得は出来たからさ…メリーは、俺の知ってるメリーのままだってわかったし」
「オレオ……改めて、本当にごめんなさい…許してくれだなんて言えないけど、せめて……」
「ん、赦します、だからもっと堂々としてろって、メリーはもっと堂々としてた方がらしいからさ」
「……いやぁ、無理だって、洗脳?みたいなことされてたとは言え、オレオを裏切ったのは確かなんだしさ」
「まぁ…無理に飲み込めとは言わないけど……」
そう言うところは昔からだな、自分の間違いをいつまでも引きずってしまうところ、まぁそのお陰で助かった場面も幾らでもあるからその性格もありがたいって物なんだけど
「……あの3人、良い仲間達だね、優しいし仲間想いだし、何より深い絆で結ばれているのがわかる」
「まぁカゼイチはこの前仲間になったばっかりだけどな……どっちかと言うと俺もまだブレイブの姉として見てる側面が強いよ」
「そうなんだ…で?オレオ、あの3人?の中で好みの人とかいるの?」
「いやー、しばらく恋愛は良いかな……今はどっちかと言うと、自分探しの方が大切だし」
「おー、なんかかっこいいこと言ってる」
「かっこいいのか……?言っとくけどなんか特別な意味があるわけじゃなくて本当にそのまんまの意味だぞ」
よくある[自分に何ができるのか!]みたいなかっこいい理由じゃなくて、本当に[昔の自分ってどんな人間だったの?]っていうことを探す旅…もはや今の俺の旅はそれが目的になっている、と言っても思い出したのは景色だけで自分がどの国のなんて街に住んでいたのかは思い出せていないから、やはり手探りで探していくしかないわけであって…それの手がかりになるのが…
(暗い光……か)
暗い光を見るたびに、俺は昔の記憶を思い出していく、特に触れるとより深い記憶に関係することを思い出す……のかはわからないけどあの時は結果的にはそうなった
「……ってことはやっぱり、帰ってきてはくれないんだね」
「あぁ、ごめんな……俺の今の居場所は…」
目線を仲間達の方へ移す、美味しそうに肉を頬張るカゼイチに、慌てて水を用意するエクレ……そして、そんなカゼイチに心配そうに話しかけながらも肉を焼くブレイブ…俺の今の居場所は、あそこだ
「ま、わかってたけどさ」
「あそうなの?」
「ほら、これ」
そうしてメリーが見せてきたのは、旅に出たあの日、俺が地面に埋めたあのロケットペンダントだった
「それ……なんで」
「嗅覚が鋭いカヌレちゃんが掘り返してくれてさ……ほんと、あの子には敵わないなぁ」
そう呟くとメリーも仲間達の方を見る、3人しかいないとは言え彼女はあのチームで一番年上のお姉さんだ、他人に洗脳されてしまった自分と、どれだけ向いていないと言われても自分の進みたい道を切り開いてきたカヌレを比べて、劣等感に近いものを感じているのだろう
「昔から真っ直ぐで、眩しくて……そして、とてもお兄ちゃんっ子なんだよね」
「?いや、カヌレは確か兄弟の長女だろ?第一子って話だったし、兄は居ないんじゃないか?」
「……それ本気で言ってんの?」
「え、うん」
本気も何もカヌレからは兄がいるなんて話聞いたことないし
「はぁ……まぁ良いけどさ…ま、あんまり無理しないでよね」
「無理?」
「オレオが傷ついたりしたら、悲しむ人がたくさんいるんだから、ガナッシュさんに、モナ君、カヌレちゃん、ギルマスに……それに、私も…ま、まぁ?私みたいな女に悲しまれても嬉しくないだろうけど…」
「卑屈だなぁ」
「……ま、自分の責任ってものを感じてるのかな…オレオの苦しみに比べたら、このくらいなんともないと思うけど…それだけのことをしちゃったからね」
後ろを向いて肩を振るわすメリー、その背中姿から見て、メリーは泣いているのだろう……感情が離れてしまった俺は今のメリーを抱きしめるわけにはいかない、けどまぁ…泣いてる人は放置してられないってことで
「あ、そうだ、安心して、これは私の方できっちり処理して」
「メリー」
「ん、ん?な、なに?」
涙を拭いて、あたかも泣いていないかのように振る舞うメリー、その右手に持ったロケットペンダントを、俺はサッと取る
「これ、また俺が持っとくよ」
「え……?」
「俺がこれもっとけば、メリーももう気にしないだろ?」
「えいや、それとこれとは話が……」
「あーあーあー、良い良い話の整合性なんて…これで俺とお前は、また繋がりを取り戻した、前とはつながり方は違うかもしれないけれどさ」
「オレオ……」
「な、良いだろ?」
「……うん、ありがとう」
「どういたしまして」
そのまま俺はロケットペンダントをつける、久しぶりの感覚になんだかむず痒くなるけど、それもそれで良い気がした
「ほら、みんなのところに戻ろうぜ、早めに戻らないとあいつらに全部食い尽くされるからな」
「あ、それはそう、モナ君たくさん食べるもんね」
「いや普通にそうなんだよな……さすが若いと言うかなんと言うか…」
「オレオ、夜なのにおっさんくさいよ?」
「お、その会話なんだか懐かしい」
「オレオが私の浮気を知った日だね……」
「いや重い重い重い」
わざわざ自分から重い空気に持ってくなぁ、いや確かに俺のパスが悪かった気もするけども
「あ、そう言えばオレオ」
「ん?」
「えーっと…なんと言うか……」
「えいや、はっきり言ってくれよ」
「その……なんでペンダントをもう一度持とうと思ったの?」
「え?」
「オレオにとって私なんて、切り捨てても問題ないような女じゃない、なのにどうして…」
「……んー、そう、だな……ま、メリーの本意じゃないってわかったし、だったらこれくらい良いかなと思ったんだよ、浮気の事実自体は変わらないけど」
「ゔっ、そ、そうだよね、申し訳ないことをしました…」
「それとは別に…さ、やっぱり繋がりって大事だなと思って」
「繋がり?」
「……1人で旅をしようとして、ブレイブやエクレと出会って気が付いたんだ、俺を前に進ませてくれたのは、いつも誰かとの繋がりだったって」
「……」
「ギルマスとの出会いがなかったら今頃俺はのたれ死んでた、ブレイブがいなければ俺は今でも自分を責め続けていたかもしれない、エクレがいなかったら前に進むことを思い出せなかった……メリー、お前がいなかったら俺はこうして仲間に恵まれていなかった、あの日のメリーの言葉が俺の背中を押してくれたんだ、確かにメリーが浮気したのは変わらない、確かに裏切られたといえばそうだ、全部が全部納得のいったのかと言われたらそうじゃない、今でも恨めしい気持ちや心の奥に黒い感情はあるのは間違いない、言いたいことだって山ほどある……でも、やっぱり繋がりなんだよ、繋がって、時々切れて……そうしてまた繋がる、それが[絆]だって、そう思ったんだ」
クラフティにマカロン、ガナッシュ、モナ、カヌレ……俺がギルドを去った後も、彼らは俺との繋がりを忘れていなかった…それはもちろんメリーもそうだし……ミルクもそうだ
「だからさ、繋がりを、絆を大事にしたいんだよ、一度離れた絆も、きっと繋ぎ直せるってわかったから……もちろん、俺とメリーのように繋がり方が変わる可能性もあるけどな」
「オレオ……プロポーズの言葉が、[同棲やめない?]だった人とは思えないわね…」
「やめてくれそれは黒歴史だ」
[同棲]は結婚してないカップルに使う言葉だが、[同居]は家族と共に住むことを指す、だからそういう意味で「同棲やめない?」と持ちかけたわけだが、今考えるとクッソダサい
「あはははっ、良いの良いの、私にとっては特別な言葉だし!」
「ったく……」
(……オレオ、そうやって、裏切ったも同然の私を許してくれる貴方は…きっと…いや、間違いなく)
「?何してんだよ、置いてくぞ」
「今行くってば!」
ー
黄色いスイセンの花言葉[もう一度愛してほしい][私の元へ帰って]
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