第37話[忘れられない夢、突き進むべき道]
あれから数年の時が流れた……夢で見たような不幸なことなんてまるで起きずに、幸せな日々がずっと続いているのだ、正直ミルクとの毎日は楽しいし、平和な世界で母さんやミルクと共にこうして生きていられるのはとても嬉しい
ただ一つの問題点と言えば、毎日のように見ていた悪夢がまだ続いているということか、同じ夢をなんどもなんども繰り返すように毎日見ている
「……」
正直に言えば、物足りなさを感じていないわけではない、ミルクと遊んで暮らす毎日は本当に幸せだ、けれどそれだけじゃダメだと、それじゃあいけないんだという思いが胸の中に溢れている
それにやはりまだ時々声が聞こえてくる、最初の方は幻聴じゃないかと思って無視していた俺の名前を呼ぶこの声……この声には聞き覚えがある、なのにそれをどうしても思い出せない
「レーオ君!おはよー!」
「あぁ、ミルク、おはよう」
今日もミルクがうちへとやって来た、そしていつものように一緒にご飯を食べ、いつものように街へ繰り出し、いつものように二人で遊ぶ、街を駆け抜けたり、公園で遊具に乗ったり、毎日のように楽しい日々……だというのに、いつの間にか俺の心にはぽっかりとした穴が開いてしまっている、それは一体なぜなのか……考えたところで答えが出てくるならばこんなにも悩んでいないが、それでもモヤモヤするものはモヤモヤする
実は、数日前にミルクに提案したことがある、[今日は本を読みたい気分だから、ミルクとは一緒に遊べない]という内容だ、すると彼女は焦ったようにそれを止めて来た 母さんが[本を読むだなんてミルクちゃんと遊んだ後でもできるでしょう?]と言って来たので俺はそれを受けいれてしまい、結局一緒に遊ぶことになったけれど……
(なぜミルクは、あぁまでして俺を止めてきたんだ?)
俺にはそれが引っかかってしょうがなかった、別に何か違和感があるわけじゃない、いつも一緒に遊んできたんだからそれを変えるのは……待てよ?それっておかしくないか?毎日一緒に遊んでるわけだから、1日くらい別々に過ごしても……あれ、俺、前も似たようなことを気にした気がする……そうだ、確かに気にした、不思議に思った、疑問に感じた、なのになぜ俺はそれを忘れてしまったんだ?
オレ……ル……‼︎
オール…ン!
やはり聞こえてくるこの声……どうやら、街の図書館の方から聞こえて来ているみたいだ……
「どうしたの?レオ君」
「なぁ、今日は図書館で本を読まない?」
「えー?本ー?やだー!本なんてつまんないよー!」
口ではわがままを言うように拒絶するミルクだが、その様子は明らかにおかしい、まるで見られたく何かを隠そうとしている子どもだ
「それよりもさ、向こうのほうで遊ばない?まだあそこのお店には行ったことないしさ!」
「あぁ、そうだ……」
まただ
「えっと」
また俺は、自分の意思に反してミルクに従おうとした
「どうしたの?レオ君…もしかして…私と一緒に来てくれないの?」
「いくにきまっ」
手で自分の口を押さえる、頭じゃもう理解し切っているんだ、俺がここで過ごして来た数年間はおかしいってことに……だって明らかに時間がおかしい、この前まで俺たちは幼い子どもだったはずなのに、今の俺はもう大人の姿をしている、数年?嘘だ、俺は数年どころか24時間も[ここ]にいないはずだ
だから
だから
「ごめん、ミルク」
俺は図書館に向けて走り出す、後ろからミルクの俺を静止しようとする声が聞こえてくる……それに呼応するように体が止まろうとするのを頭で振り切り走る……走って、走って、走って…………そして
「……これ…は」
図書館に駆け込む、俺を呼ぶ声が聞こえる方に向けて走り……ふとこれだと思った本を手に取り、それを開くと……中は、白紙だった、どのページを何回見ても、それは白紙で、文字などは一つもない
「ゔっ…」
『…というわけで、貴方の奥さんは浮気をなさっています』
『まぁた告白か?いつもの事ながら諦めないねぇ男性諸君は』
『うん、これ使って色々と作ってみる!良いのができたらオレオールに一番に使ってもらうからね!』
『はっはっはっ!!そりゃないっすよオレオール先輩!』
『今度は私達のところに来ないかい?』
『このままこの街にいても、オレオール様達が死の風の力で飢餓状態になってしまうだけです、だからどうか、早く……』
『あぁ、こいつはオレオール、今日から指導することにした!』
『ありがとう、は、僕のセリフなんです』
『とっても、とーっても大事な物です、でも、オレオールさんなら、大切に使ってくれると思って』
「!……思い出した…」
思い出した、俺が記憶喪失になっていること、ギルマスはそんな俺を鍛えてくれて来たこと、メリナと出会い恋に落ちて結婚したこと、そんなメリナに浮気されて、俺は旅に出た、そしてブレイブやエクレといった仲間たちと出会って……
「思い、出しちゃったんだ」
「!……ミルク…」
いつの間にか、辺りの景色は図書館でも街でもなくなっている、その代わり無限に続く謎の空間が広がっていて……俺は、[現実の俺の姿]になっていた
「あーあー、失敗か…貴方が傷つく要因をできるだけ排除したんだけど、それが良くなかったかな…」
「だから、妹がこの世界にはいなかったのか」
「もちろん、あの男たちの目的は、どちらかと言うと妹ちゃんを陥れることだったから、母はそのついでだったみたいだしね」
なんでそんなことまで、なんて思っていたら、俺の体が光り輝く…淡い、そして弱い光だ
「……行っちゃうの?」
「あぁ……ごめん…ミルク」
「私には……今の私には、レオ君しかいないんだよ?それなのに、行っちゃうの?」
「……」
そう、思い出したのはここまでのことだけじゃない、記憶から無くなっていたミルクのことも思い出した……俺はあの時、目の前で彼女が殺されるまでずっと一緒にいた、子どもの時だったからさほど違和感は感じなかったんだ……ここで過ごした時間は楽しかった、もう一度ミルクと一緒に遊べる日が来るだなんて思っても見なかったし、本当に嬉しい……でも、彼女はもう死んだ人間なんだ…だから
「ごめん、ミルク…俺は行かなくちゃいけないんだ」
「このまま向こうに戻っても、レオ君はずっと辛いままなんだよ?それだけじゃない、もっと辛い現実がレオ君を待っている、それなのに、レオ君は行っちゃうの?」
「……確かに、辛いことはまだまだあるかもしれないよ」
「……?」
「俺だってまだ自分の過去を完全に思い出せたわけじゃないし、もしかしたら、俺の過去はもっと辛いことが起こっているのかもしれない、その度に絶望して、どうにかなってしまうかもしれない」
「だったら」
「でも……俺は止まってちゃいけないんだ」
「……」
「俺は自分の過去を受け止めなくちゃいけない、それが自分に起こったコトだから、どれだけ逃げたくなっても、これは俺の、俺自身の人生だ……それに」
「オレオールさん!」
「オールくん!」
「俺には、帰らないといけない場所があるから」
「……そっか…」
「……ごめんな、ミルク」
「んーん、良いの、レオ君が前を向いているなら、それで」
プイッと、後ろの方を向くミルク……その小さな背中は震えていて
「……ミルク…」
「…良いんだってば!それに、レオ君をこっちに引き込んだのは私のエゴだったんだもん…そうだよね…生きてるレオ君をこっちに引き入れるなんて………」
「……」
「ごめんね、レオ君……それと……ありがとう」
そう笑った彼女は、俺の記憶にある姿ではなく……もっと成長した姿をしていて…
「うわっ……!」
その瞬間に、強い光に包まれた
ー
「……っ!っはぁ!?」
ガバっと起き上がる……状況が理解できずにキョロキョロしていると、泣きそうな顔をしたブレイブとエクレがこちらを眺めていて
「あ、あー……えっと……スンマセン、心配かけて」
そういった瞬間に腹に突撃された、二人して突っ込んできたもんだから、痛い……痛い、けど
(あぁ、これだなぁ……)
俺は帰って来たんだと理解した
その時……マジックポーチの中で…何よりも大きく輝く[ソレ]に気が付かぬまま
ー
ハナミズキの花言葉[永続性][返礼][私の想いを受けてください]
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