7年の付き合いの妻に浮気されてたただの剣士の俺はとりあえず旅に出ることにした
蜜衣柑斗
第1話[長年の付き合いでもきついものはきつい]
「…というわけで、貴方の奥さんは浮気をなさっています」
あぁ、どうしてこんなことになったんだろう……今日はせっかくの休日、普段のギルド活動での疲れを癒し、愛する者と共に安らかな時を過ごすための日……だったのだが
「ここまでで何かご質問はありますか?オレオール・シュトラムルさん」
「……えっと……」
名前も知らない人にそんなことを言われていた
ー
ことの始まりは、今朝、何気ない朝だと思っていた今朝のことだった、俺の名前はオレオール・シュトラムル、今年で22歳のどこにでも居るようなごくごく普通の冒険者だ
「ん、んー……良い風だなー」
朝、目が覚めて窓を開けると、空にはどこまでも続く青空が広がっていた、鳥はさえずり、花は咲く、よくあるありきたりな表現だが、そんな表現こそ似合いそうな今日、仕事は休みだし、ピクニックにでも行くかな、なんて考えてた時、後ろから声がかかった
「朝からおっさんくさいよ?」
「おっさんて……おはよう、メリー」
「ん、おはよう」
彼女の名前はメリナ・シュトラムル、旧名メリナ・マーリス、2年前、お互い二十歳の時に結婚した俺の妻だ、初めて会ったのは15の時、俺たちの所属しているギルドで、同い年だからという理由でチームを組まされたのが出会い、その時はまだお互いに剣、弓の扱いは上手くなかったけれど、お互いに励まし合い、俺は剣、メリナは弓がメキメキ上達して行ったこともあり、そのままチームを継続、そのまま何年も一緒にいる間にお互いに惹かれ合い、ついに結婚まで行った
「オレオ、[ピクニックでも行くかな]なんて考えてたでしょ?」
「正解、さすがメリー」
「何年の付き合いだと思ってるの?早速準備しないとね」
「俺もやるよ、メリーにばっかりやらせてらんないし」
「そう?ありがと」
そうして俺の頬に口付けするメリー、メリーというのはメリナの愛称だ、彼女も俺のことをオレオと呼ぶ、なんか遠い異国の地でそんな名前のお菓子があるらしいという話をすると、メリーは面白がってそう呼ぶようになった
「サンドイッチでしょ?飲み物に……」
「ほらこれ、メリーの好きなハイポーション」
「わっ、これどうしたの?まさかギルマスのところから取ってきたとか?」
「なわけないって、きちんと働いて稼いだ金で買ったものですー」
「ふふっ、ウソウソ、わかってるわ、オレオはギルドのエースだものね」
ちなみに別にエースというわけではない、ただ7年前、これからお世話になるギルマスに少しでも恩返ししようと努力を続けてきただけだ
「でも良いの?ハイポーション、ピクニックに持って行っても」
「自分の金で買ったものだし、それに、そういうのもなんか良いだろ?」
「あー、悪いんだー」
そんなどうだって良い、いつも通りの他愛のない話をしている時だった、コンコンと窓を叩く音がした、どうやら鳥がやってきたらしい
「パトね、おはよう、パト」
メリーがパトに挨拶をすると、パトはポロッポーと返した、パトはうちのギルドの伝書鳩、さまざまな連絡ごとをみんなで共有したい時にすごく頼りになるんだ
「んーっと……オレオ宛ね」
「俺か?どれどれ……」
2人してパトが運んできてくれた手紙を読む、そこには[至急・オレオール・シュトラムルのみギルドに来るように]と端的に書いてあった
「俺だけ?っていうか、今日せっかくの休日なんですけど……」
「まぁまぁ、ギルマスがなんの理由もなしに呼び出すわけないし、それに休みの日に呼び出すってことはすぐ終わる仕事じゃない?待ってるから、話が終わったらピクニックに行きましょう?」
「ん〜…わかった、ごめん、メリー」
「オレオは悪くないわ、気をつけてきてね」
「あぁ、行ってくる」
ー
そして、今この現状である
「え、あ、うん?ど、どういう?……というか貴女は……」
「申し遅れました、私、特別調査員のセツナと申します」
「セツナ……さん」
「ギルドマスターさんからの依頼を受け、貴女たちの調査を行なっていました」
ギルマスが…?それ、一体どういう……
「悪いな、オレオール、前々からメリナが怪しい行動を何度かしててな……まさかとは思ったんだが……」
「そんな…だって俺たちはずっと一緒に……」
「……オレオールさん、どれだけ違うと思っていても、奥さんが浮気をしてきたという事実は…」
「だとしたら、なにか理由があるんだと思います、メリーが……メリナがなんの理由もなく浮気をすることなんてあり得ません、俺に理由があるのか、それとも俺に飽きたのか、はたまた別の理由なのか」
「……オレオール…」
「……わかりました…調査をしたとはいえ、これからどうするかはオレオールさん次第ですから」
そう、俺とメリナはもう7年の付き合い、もし浮気のようなことをしていたとしても、きっと何か考えがあるはずだ
「それじゃあ俺、行ってきますね」
「あぁ……何かあったらすぐに言えよ」
「ありがとうございます、ギルマス」
そうして俺はメリーの待つ家まで帰ることにした
ー
「メリー、ただいま」
「おかえりオレオ、なんの話だったの?」
「ん?あぁ、なんかメリーが浮気してるって話」
「え」
「ギルマスが怪しんで調査員に調査してもらってたらしい」
「あー、そっかー…」
「うん、にしても、メリーって結構迂闊なんだなぁ、結構早めにボロ出したみたいだったし」
そう言ってケラケラ笑ってると、メリーが不安そうな顔をしてこちらを覗き込んできた
「……何にも言わないの?なんで、とか、裏切ったのか、とか」
「?そりゃ理由があるのは当たり前だろうし」
「え」
「何年の付き合いだと思ってんだよ、ただの快楽目的で浮気をするような奴じゃないってわかってるっての、あとはまぁ……衝撃ではあったけどさ、悲しくもあるけど、でも、だからってヒステリックに攻めるようなことはしないよ」
「……あはは、オレオには敵わないな」
「で?聞かせてくれるか?[相棒]、その男との話し」
「……うん、わかった」
メリーの話はこうだった、その男と出会ったのは俺が単独で仕事をしていた時らしい、ギルド内で臨時で組んだチームのリーダーで、身体の関係を持ったのはつい最近のことだとか、ちなみに脅されてたとかじゃないらしい
「脅されてたとかじゃないんだ…良かった〜…」
「良かったって、これでも私、最低なことしてたつもりなんだけど……」
「相棒が傷ついてないなら良いさ」
「……相棒…か」
メリーのことを相棒と呼んだのは久しぶりだ、最後にそう呼んだのは結婚式の日かな
「……で、これからどうする?」
「え?」
「相棒の望むようにするけども」
「…意地悪だなぁ……」
「ま、決めるのはゆっくりで良いさ、とりあえず予定通りピクニックにでも行こうぜ」
「え、う、うん……」
「んじゃあ俺、着替えてくるな」
「わかった」
そうして自分の部屋へと戻る、休みの日用の服に着替えるためだ
……
「……あれ…」
気がつくと、目から涙が流れていた……おかしいな…相棒の思いを尊重しようと、思っていたはずなのに……
「……嫌だなぁ…」
この繋がりが消えてしまう事が、どうやら俺は恐ろしいらしい
「……なんとか、いつも通りを演じないと…」
感情を押し隠すことは得意じゃないか、今回も押し隠せ、他人に見せるな……俺は普段の、おちゃらけた俺のままでいれば良い…相棒と別れることになったとしても、あいつが罪悪感を感じなくて済むように
自分の言っていることがおかしいのはわかっている、でも、俺はこの辛さを隠そうと思う、だって俺は、メリーのことを愛しているから、彼女の幸せを祈っているから
ー
月見草の花言葉[無言の愛情][移り気]
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