啓馬視点③
「ごめん、起こしちゃった?」
次の日、目を醒ますと一花が講義の為に部屋を出るところだった。
「大丈夫。俺も起きるよ」
「そう……じゃあ、私は大学へ行くね」
いつもと同じ一花だ。
でも、少しだけ嬉しそうにしている気がした。
もしかしたら、俺がそう思いたいだけかもしれない。
「ん?」
早朝の告白の時は徹夜で頭が働いていなかった。
それに比べて、今は寝起きだけど、頭が働く。
だから、徹夜明けの朝には何も思わなかった不審点に気が付けた。
「なぁ、一花?」
「な、なに?」
一花は少し不安そうな表情になる。
「も、もしかして、今朝の告白、無かったことにしよう、とか言わないよね」
「言わない」
これは俺も望んだことなんだ。
今更、無かったことにはしない。
それとは別で気になることがあった。
「一花って、サークルに入っていないよな?」
「入ってないよ。そんなの知っているでしょ?」
そうだ、一花がサークルに入っていないのは知っていた。
「じゃあさ、大学の後輩と接する機会ってどこであるんだ?」
「えっ? 私が後輩と接する機会なんてないよ?」
そうだ、その通りだ。
だからこそ、おかしい。
「間抜けが見つかったな」
「どういうこと?」
一花は俺の言葉の意味が分かっていないようだった。
「……一花、昨日、俺たちが付き合うきっかけになったのは、お前が〝後輩から恋愛相談を受けた〟って言ったからだったよな?」
嘘を指摘すると一花はハッとした表情になる。
「それに俺のことが好きな後輩がいるとも……」
「さ、さてと早く出ないと講義に遅れちゃう」
一花の声は震えていた。
「待て、まだ時間があるから話し合おうか?」
俺は一花を逃がさなかった。
一花の眼をジッと見たら、視線を逸らされた。
「はい、嘘をつきました……」
一花は観念して自白した。
「そうか……」
「お、怒った?」
一花は恐る恐る俺と視線を合わせた。
「いいや」と俺が言うと一花は「良かった」と言い、ホッとする。
「そこまでして俺と付き合いたかったなんてな」
俺は勝ち誇ったように笑って見せる。
「…………え?」
「だって、そういうことだろ? わざわざ、嘘の話を作ってまで、付き合う話をしようとしたなんてな」
言った瞬間、一花の顔が真っ赤になった。
「はっきりとそれを言う!? 言葉にされるととても恥ずかしいんだけど!?」
「自業自得だろ。それにしてもさ、ちょっと悪趣味だろ。付き合うことになったから、問題無かったけどさ、俺のことが好きな子がいるなんて嘘を言うなよ」
「いや、後輩の話は完全に嘘だけど、そっちは……」
「ん?」
「とにかく、仮に啓馬のことが好きな子がいたとしても、もう啓馬は私と付き合うんだから、浮気は駄目だからね」
「するはずないだろ」
俺が即答すると一花は「そっか」と言い、微笑んだ。
「それよりも一花の付いた嘘についてもう少し話そうか?」
「それ以上、私の傷口に塩を塗らないでよ!」
一花はそう言い残して、部屋から出て行った。
俺は一人になった部家の中へ戻る。
「なんだか一花はまだ嘘をついている気がするなぁ」
さっき、俺が「好きな子がいるなんて嘘を言うなよ」と言ったら、否定はしていなかった。
それに今までの関係をこのタイミングで変えようとした理由が分からない。
中学や高校の卒業式、大学入学、二十歳になった時、誕生日、成人式。
区切りになる行事は今までもあった。
だけど、俺たちの関係は進展しなかった。
それなのに昨日みたいな普通の日にいきなり付き合うことになるなんて……
「まぁ、その内、話してくれるかな? さてと俺は出かけるか」
今日は講義もバイトも無い。
でも、今日も一花はここへ来るだろう。
冷蔵庫の中には食料が無いから買ってこないといけない。
それに…………
「少し離れた普段は使わないドラックストアに行こうかな?」
俺は多分、浮かれているんだろうな。
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