五寸釘マン
カオスマン
赤い靴を履いた女の子 1
水銀温度計をみると、摂氏三〇度の目盛りを突き破りなお上昇を続けていた。
階下からはミシンの音が規則正しく聞こえてくる。
ただそれを観察しながら、カーテンから差し込む朝日を浴びてると、眼球が火だるまにされそうな気がしてくる。
ようやくベッドから起き上がり、のそのそと洗面台に向かった。
蛇口を捻ると生ぬるい水が出てくる。
眠気をもの足りない程度に洗い流しても結局、猛暑日の予感と時間の経過そのものに不満がつのり、現実逃避をしたくなってしまうのだった。
顔を拭きながら言う。
「まだ朝だっていうのに……」
なんでみんなこう働き者なんだ?
だいたいおかしいじゃないか。
なにがおかしいって分らないけどとにかくおかしいはずだ……。
そう考えていると、今日を過ごすためにはもう一度リセットすることが正しい行いのように思えてくる。
よし。やはり二度寝しよう。そうしよう。
半分くらい夢見心地のなか、ふらふらベッドに戻りながら気づく。もはやそれは叶わぬ夢だった。
すでに先客者がいたからだ。
六〇cmほどの少女……に似ている。
かたどっているんだから当たり前だけど。
モノトーンゴシック調の衣装。ミステリアスな雰囲気とは裏腹に、分りやすく険しい表情で屹立し、腕を組みこちらを見ていた。
つまりその人形──ルナに話しかける。
「……どうした? なんか用事?」
ルナはおもむろに、懐から畳まれた紙を取り出し、寄越してきた。
読むと【話があるので降りてきて。メリーより】と書いてあった。内容は簡潔なのにところどころ筆跡が震えていて恐ろしい。
「な、ナルホドね……。伝言ありがとう」
暑さとは違った汗が垂れてくる。
心当たりなど腐るほどあったが、無理に刺激するのは得策ではない。どれのことだろう?
「あの、ひょっとして、昨日勝手にプリン食ったのって相当マズいことだった?」
聞くと、ルナはゆっくりと頷いた。
そのあと、両手の人差し指を立てて側頭部につけ、鬼のジェスチャーで威嚇をしてきた。
これは……結構なレベルなのか?
「一緒に降りよっか」
彼女(人形だが)は「当然ね」と言わんばかりに勢いよく肩に飛び乗ってきた。
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