第2話
姉が付き合い出した貴族の名はダリル。
男爵家の嫡男ということで貴族の中では低位に属する。だが私達平民からすれば、曲がりなりにも貴族であることは間違いない。
なので頭ごなしに怒鳴り付けられても文句を言えない。
「おい! アンナ! 今月の売り上げが落ちているのはどういう訳だ!?」
「申し訳ございません...今月はパートの方のお一人にお孫さんがお生まれになったとのことで、お休みをさせておりましたので、その分が」
パシィッ!
「平民風情が言い訳するなぁ! だったらその分は貴様が働けばいいだろうがぁ! なんのために貴様を責任者にしてると思ってる! この役立たずがぁ!」
ドカッ!
「も、申し訳ございません...」
このようにちょっとでも気に入らないことがあると殴る、蹴るといった暴力を振るう。
オマケに好色で若い女と見るやすぐに手を出す。そのせいで従業員だった若く優秀なお針子さん達はみんな辞めてしまった。
今働いてくれているのは、全て年配のパートのおばさん方である。家庭がある方ばかりなので、あまり遅くまで働かせる訳にはいかない。
その分の皺寄せは全て私に回って来る訳だが、私一人が睡眠時間を削ってまで働いたって限度というものがある。
だがこの男にそれを説明した所で、更に暴力を振るわれるだけなので泣き寝入りするしかない。
私がこんな辛い状況に陥っているというのに、姉は見て見ぬ振りを決め込んで助けようとしない。
姉はすっかり変わってしまった。両親が突然儚くなり、二人身を寄せ合ってこの店を守って行こうと誓った姉はもうどこにも居ない。
今じゃ貴族相手にちやほやされていい気になっている。だからこんな男に店の経営に口出しさせて平気でいられる。
だが姉は気付いていない。この男も他の貴族共もこの店の上げる利益に集っているだけなのだということを。
利益が出なくなれば捨てられることになるとも気付かず、まるで貴族にでもなったかのように振る舞う姉の姿はいっそのこと滑稽に見える。
そんな過酷な状況ではあるが、それでも私は両親の残したこの店をなんとか残そうと必死に働いている。いつの日か姉が目を覚ましてくれることを信じて...
◇◇◇
「えっ!? 今なんとおっしゃいました!?」
「聞こえなかったのか! 全く! これだから薄汚い平民は! 耳まで悪いと見えるな! 貴様は今日限りでクビだと言ったのだ! 分かったらとっとと出て行け!」
それなのにある日、私はいきなり解雇通告を受けたのだった...
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