私を追い出したらこの店は潰れますが、本当に良いんですね?

真理亜

第1話

「フウ...やっと終わった...」


 私は凝り固まってカチカチになった肩と、作業に集中し過ぎてショボショボしている目を擦りながら、出来上がった今日の分の刺繍作品を見渡す。


「フワァ...眠い...zzz」


 当然である。時刻は既に深夜だ。普通の人ならとっくにベッド入って夢でも見てる頃だろう。


 私は眠気を堪えながら大きく伸びをして立ち上がった。


「風呂入って寝るか...」


 作業場を出て二階に上がろうとした時、店の裏口が開いて、


「アンナぁ~! たっだ今~! お姉ちゃんですよ~!」


 酒臭い息を吐きながら姉のカンナが帰って来た。


「姉さん、また酔ってるのね...」


「あによ! 悪いっての! しょうがないでしょ! これも付き合いってもんよ、付き合い! 営業活動の一環なんだからぁ! ウィ! ヒック!」


「はいはい、分かったからいい加減静かにして。こんな時間にご近所迷惑よ?」


「そんなことより、アンナ! 喜びなさい! また仕事が取れたわよ! これも私の営業力の賜物よね! 感謝しなさい!」


「なんですって!? ちょっと姉さん! 仕事量は今で限界なんだから、これ以上は増やさないでってあれほど言ったじゃないの!」


「五月蝿い五月蝿い五月蝿~い! あんたは黙ってシコシコ刺繍してりゃいいのよ~!」


「シコシコって...ちょっと姉さん!?」


「...グワァ~...zzz」


 私は酔いが回って寝落ちした姉を見下ろしながら、大きなため息を一つ吐いた。



◇◇◇



 刺繍のお店『エンブロイダリー』は、この街でも一番と評判の高い店である。元々は私達姉妹の両親が起こした店だ。


 だが両親は私達がまだ学生の時に揃って流行り病に罹かり儚くなってしまった。突然の両親の死に打ち拉がれた私達だったが、いつまでも悲しんでばかりはいられない。


 私達は学校を辞めて店を継ぐことにした。姉が17、私が16の時である。正直不安しかなかったが、二人で肩を寄せ合ってなんとか頑張って両親の残した店を守ろうと心に誓った。


 自分で言うのもなんだが、私は昔から手先が器用で刺繍するのも好きなので、店を継ぐのに抵抗は無かったのだが、姉のカンナは昔から手先が不器用で刺繍も下手くそだった。


 だが私と違って社交的な姉には営業の才能があった。なのであまり目立つのが好きじゃない私はお針子として裏方に徹し、姉が店の顔として営業に精を出す。


 すると次々に新規顧客を獲得し、店は両親が経営していた時よりも利益が上がるようになった。


 順調だと思っていたのだが、更なる顧客の獲得を目指した姉が貴族と付き合いだしてから、段々と雲行きが怪しくなって行ったのだった...

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