第66話 サメ術師は罠にはめる

(しぶといな。こいつはゾンビか?)


 俺は小さく舌打ちする。


 サムライ勇者のタフネスは、高レベルだとしても異様だ。

 固有の能力の他にも、生命力を上げるようなスキルを持っているに違いない。

 侍というよりバーサーカーのような戦い方だった。


(一発でも食らえば終わりだ。俺のステータスでは耐えれない)


 サムライ勇者の持つ刀に注目しつつ、考えを巡らせる。

 状況的に追い詰められているが、俺が平常心を失うことはない。

 対策は既に考えていた。


 互いの距離は残り六メートル。

 俺は胸元のポケット内に小さなサメを召喚した。

 そのサメの口から水色の液体が放たれる。


 先ほどまでのウォーターカッターとは違う。

 まるでシャワーのように噴き上がり、前方一面を覆い尽くす形で拡散した。

 サムライ勇者は微塵も怯まず、液体の壁を突き破ってみせる。


「諦めろ! 毒なんて効かない!」


 叫ぶサムライ勇者が刀を掲げた。

 大上段からの振り下ろしだ。

 やはり一撃で仕留めるつもりのようだった。


(やられるかよ)


 俺は鮫銃を捨てて両手を前に出す。

 そこに反射効果のある盾を備えたリフレクト・シールド・シャークを召喚した。

 サメは斬撃を遮る軌道で身構えている。


「無駄だッ!」


 サムライ勇者が容赦なく打ち込んできた。

 必殺の刀が、そのままリフレクト・シールド・シャークに触れる。


 甲高い金属音。

 刃は盾を大きく陥没させているも、切断には遠く及ばなかった。

 斬撃はしっかりと受け止められている。


 思わぬ結果にサムライ勇者は狼狽する。


「なん、だと……?」


 彼は刀を引いて再び斬りかかってくる。

 横薙ぎの一撃に対し、リフレクト・シールド・シャークは滑るように動いて防御する。

 変形した盾はまたしても刀を受け止めた。


 今度こそサムライ勇者は焦る。


「なぜだ! 絶対に防御できるはずがないのに……!」


「自分の身体を見ろ」


 俺は淡々と指摘する。

 サムライ勇者はそれに従ってようやく気付く。


 先ほどまで満身創痍だった彼の身体からは、傷一つなくなっていた。

 割れた鎧の隙間からは、綺麗な肌が覗く。

 たぶん古傷も残らず消えているはずだ。


(作戦通りだ)


 先ほど俺が胸ポケットに召喚したのは、回復特化のキュアー・リカバリー・ウォーター・シャークだった。

 吐き出したのは毒ではなく回復液である。

 それをまともに浴びたので、サムライ勇者の怪我は無くなった。


 つまり傷付くほどに威力を上げる固有スキルの刀は、ほぼ完全に力を失っていたのであった。

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