第65話 サメ術師は間合いを詰められる

「まったく、ヒヤヒヤしたな……」


 地面に転がる俺は、息を吐きながら立ち上がる。

 急に素早く動いたせいで足腰が痛む。

 明らかに運動不足であった。

 この世界ではサメによる移動ばかりだが、たまには自分で歩くべきかもしれない。


 とりあえず双子の勇者はウォーター・シャークに食わせておく。

 一度に二人の勇者を始末してくれたのだ。

 これくらいの褒美は必要だろう。


 ウォーター・シャークは嬉しそうに死体を貪る。

 ものの三十秒とかからずに二人分を平らげてしまった。

 その食いっぷりに思わず苦笑する。

 よほど腹が減っていたらしい。

 或いは高レベルの勇者は味が違うのかもしれない。

 ステータス至上主義な世界だし、そういうこともありそうだ。


(まあ、どうでもいいか)


 双子勇者の捕食によって、インビジブル・シャークを召喚できるようになった。

 言うまでもなく透明なサメである。

 周囲の光景に溶け込めるため、乱戦で活躍しそうだった。


 大量のサメの中に不可視の個体が紛れて、しかも噛み付きだけで即死クラスのダメージなのだ。

 敵からすれば厄介極まりない。

 アサシン・シャークなんかに付与すれば、恐ろしい性能になるのではないか。


(検証は後でいいだろう)


 残る二人の勇者と国王はガン・シャークと戦っていた。

 防戦を敷きつつも少しずつ移動して、着実にガン・シャークの数を減らしている。

 人数が少ないなりに上手く立ち回っているようだ。


 フィードバックのダメージを負った女勇者も回復していた。

 魔術か何かで治癒したらしく、再び巨人の手を行使している。

 三人の見事な連携により、ガン・シャークは全滅しそうだった。


(さすがは戦闘のプロだ)


 俺はウォーター・シャークに命じて、彼らに遠距離から攻撃させる。

 高圧で噴射された水が薙ぎ払うようにして放たれた。


 いち早く察知したサムライ勇者が動く。

 目にも留まらぬ速さで刀を振るって、ウォーターカッターを両断してみせた。

 そこから女勇者に国王を任せると、こちらに向かって突進してくる。


(一気に仕掛けに来たか)


 有利な間合いで片を付けると決めたらしい。

 確かにあまり近付かれると面倒だ。


 俺はガン・シャークにサムライ勇者を狙わせる。

 残り少ない個体から銃撃が行られるも、サムライ勇者は最低限の防御で振り切った。

 弾を食らいながらも突進を止めようとしない。


 あの刀は持ち主のダメージが蓄積するほどパワーが上がる。

 その性質を限界まで引き出すつもりなのだろう。


 俺は鮫銃を連射した。

 追尾爆破式のバレット・ボム・シャークだが、サムライ勇者は刀で切り裂きながら強引に詰め寄ってくる。

 爆風を受けながらも、ギリギリで致命傷を避けていた。

 あえて負傷しながら強くなるのが、彼の常套手段なのだろう。


 さらにウォーター・シャークが援護射撃を加えた。

 全身各所を穿たれながらも、サムライ勇者は速度を落とさずに接近し続ける。

 もはや互いの距離は十メートルを切ろうとしていた。

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