第41話 サメ術師は一人目を探す

 俺はサメに乗って草原を移動し始めた。

 手に持ったサーチ・シャークの針に従って進んでいく。

 僅かな揺らぎを参考に方向を調整する。

 精度はかなり高いようだった。


 特に速度に関する属性を足したわけではないのにサメは高速で突き進む。

 尾びれに掴まる俺をどんどん引っ張ってくれていた。

 ちょっとした乗用車くらいのスピードは出ているのではないか。


 それでいて乗り心地は悪くない。

 悪路だろうと問答無用で移動できるので便利だ。

 かなり優秀な移動手段と言えよう。


 俺のレベルアップに伴って、召喚できるサメのスペックも上昇していた。

 もちろんわざと弱くしたりサイズ調整等も可能である。

 巨大ザメくらいの規格外でなければ、魔力消費もあって無いようなものだった。

 実質的に使い放題といった状態であった。


(まあ、浮かれている暇はないけどな)


 俺は厳しい目で前方を睨み付ける。

 これから勇者召喚の関係者を始末するのだ。

 気を抜かずに遂行するつもりだった。


 まず最初のターゲットは王国の大臣である。

 国内有数の権力者で王の側近らしい。

 大臣としての歴もかなり長いという。


 その実態は汚い悪党であった。

 とにかく自己利益の追求が第一で、他人を平気で蹴落とす外道だ。

 権力に任せて犯罪行為にも手を染める男である。


 この辺りは城内に潜入した際に盗んだ資料から知った。

 厳重に保管されていたが、そう簡単にシーフ・シャークの目は誤魔化せない。


 勇者召喚も、大臣にとっては臨時収入の一環であった。

 実施にかかるコストを率先して調達するのが役目だ。

 非合法的な手段も躊躇わずに行使していたらしい。


 国王に忠誠心をアピールすると同時に、自分の傘下の組織に利権を与える。

 そうすることで報酬や横流しで懐を温めてきたのだそうだ。

 実に上手くやっていると思う。

 それをもっと有効活動できなかったのかと考えざるを得ない。


 大臣は典型的な悪党だ。

 同情の余地はない。

 こいつがいなければ、勇者召喚の頻度はもっと少なかったはずだった。

 俺が異世界に呼び出された遠因とも言える人物である。


(絶対に逃がさない。さっさと仕留めてやる)


 一人目に大臣を選んだのには理由がある。

 それは彼自身の戦闘能力があまり高くないからだ。


 交渉や商人、陰謀系のスキルに恵まれているようだが戦う力はない。

 しかも放っておくと、各種スキルの力で形勢逆転されそうな気配があった。

 後回しにすると厄介なので真っ先に仕留めたかった。


 王都から逃げ出したばかりなら、彼の策略も上手くいかないはずだ。

 大臣にはサメ達の餌になってもらおうと思う。

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