サメ召喚 ~勇者失格で捨て駒にされたけど、外れスキルが覚醒して世界最強になった~
結城からく
第1話 サメ術師は蹂躙する
曇り空の下、俺は荒野の只中を歩いていた。
くたびれたローブを羽織り、ねじ曲がった杖をついて進む。
「おっ」
前方に変化が生じた。
目を凝らして確認する。
地響きを立てて迫るそれは、まさしく異形の軍勢であった。
大盾を構えた黒ゴブリン。
狼に乗ったスケルトン。
整列して歩くリザードマン。
樹木のような棍棒を持つ巨人。
他にも多種多様な魔物が勢揃いしている。
総勢数百のモンスターパーティーだ。
きっと俺を始末するために魔王が解き放ったに違いない。
随分と豪勢なことである。
「いいぜ、やってやるよ」
向こうから仕掛けてきたのだ。
話し合いで解決できそうにないし、迎え撃つのがベストだろう。
戦闘は未だに緊張する。
死ぬかもしれない恐怖はある。
しかし、俺には頼れるチートスキルがあった。
だから負ける気はしなかった。
魔物達との距離は百メートルほどだ。
接近される前に片付けた方がいい。
そう考えた俺は、さっそく両手を持ち上げた。
魔物の軍勢に向けてかざす。
すると、目の前の地面に赤黒い魔法陣が生成された。
地面を割るようにして、魔法陣の中心からグレーの背びれが生えてくる。
じっとりと湿ったような質感で、ぴくぴくと小刻みに動いている。
魔法陣が薄れて消えるが、背びれは残ったままだ。
「行ってこい」
俺が命じると、背びれが高速で移動を始めた。
地面を進んで魔物の軍勢へと突っ込んでいく。
魔物の軍勢から光が発生した。
カラフルな色が瞬いて発射されて、山なりの軌道を描きながら、魔術の雨となって背びれに降り注いでいく。
次々と炸裂して地面を耕すも、背びれは上手く蛇行しながら回避していた。
「う、わわっ」
流れ弾が飛んできたので退避しつつ、俺は背びれの行方を確認する。
魔術を躱した背びれは、全体像を覗かせようとしていた。
土を押し退けて現れたのは、灰色の巨大なサメだ。
サメは地面を泳ぐように進み、大きな口を開けて魔物の軍勢へと突進する。
そのままトップスピードで喰らい付いた。
次の瞬間、大爆発が巻き起こった。
激突の衝撃によって、前衛の黒ゴブリン達が宙を舞う。
スケルトンもバラバラになって吹き飛んでいた。
遥か上空に打ち上げられた彼らは、落下で全身が粉砕されることになるだろう。
急旋回したサメは、残る魔物達から距離を取る。
その口は何かを咀嚼しているようだった。
よく見ると毛に覆われた半身と鱗付きの腕がはみ出している。
どちらも血みどろだ。
あれは狼とリザードマンだろう。
突進のどさくさでつまみ食いしたらしい。
一つ目の巨人がサメに駆け寄って、棍棒を振り下ろす。
華麗に躱したサメは、巨人の片足に齧り付いた。
そのまま地面へと引きずり込む。
両者の姿が見えなくなって数秒後、鮮血が大地から噴き上がった。
そして真っ赤になったサメが地上に顔を出す。
サメの胴体が異様に膨れている。
巨人はもう出てこないので、地中で八つ裂きにされてしまったのだろう。
鮮血を浴びたサメは、陣形の乱れた魔物達に続けて襲いかかる。
その後もサメは、遠目にも分かるペースで魔物を虐殺していった。
種族も何も構わず無差別に次々と喰い殺す。
逃げ惑う黒ゴブリンが轢き潰されて肉絨毯にされた。
スケルトンがスナック菓子のように噛み砕かれる。
他の魔物も踊り食いされる始末だった。
荒野が赤黒く染まって、むせ返るような臭いが漂ってくる。
まさに無敵の死神だった。
しかし、強靭なサメにも限界がある。
魔物による反撃を受けて徐々に傷付いており、出血しながらも奮闘していた。
敵はまだまだ残っている。
あの分だと、相手を全滅させる前に死んでしまいそうな気がした。
(危なそうだな。追加しておくか)
俺は地面にいくつもの魔法陣を展開すると、頼りになる仲間達を呼び出した。
それぞれの魔法陣から背びれが生えてくる。
すなわち俺の召喚したサメ部隊だ。
赤い背びれは、炎を纏うファイアー・シャーク。
青い背びれは、高圧水鉄砲を放つウォーター・シャーク。
黄色い背びれは、雷撃を放散するエレキ・シャーク。
鈍色の背びれは、優れた防御力を誇るアイアン・シャーク。
輪郭しか見えない透明の背びれは、隠密行動が得意なインビジブル・シャーク。
他にも何種類かいるが、いずれも頼りになるサメであった。
これこそが俺の能力だ。
異世界召喚で得たチートスキルである。
俺は魔物達を指差すと、増援のサメ達に命令を下す。
「そら、存分に喰い散らかせ」
俺に命じられたサメ軍団は加勢に向かった。
土煙を巻き上げながら嬉々として突き進み、絶好の餌へと跳びかかる。
その瞬間、破滅的な蹂躙が始まった。
ファイアー・シャークは縦横無尽に泳ぎ回り、接触した魔物を無差別で火だるまにした。
ウォーター・シャークは口から水鉄砲を飛ばして、直線上の魔物に穴を開ける。
エレキ・シャークの雷撃は、半径二十メートルの魔物を感電させていた。
痺れて倒れたところを別のサメが喰い殺していく。
アイアン・シャークに特殊な攻撃方法はない。
しかしその頑丈な外皮により、魔物の攻撃をものともせずに活躍していた。
巨人の殴打すら通じないのは反則気味だろう。
インビジブル・シャークは暗殺が得意な個体である。
厄介な魔物を的確に始末している。
急所を噛み千切ることで静かに抹殺していた。
色とりどりのサメ軍団が、魔物達を一方的に屠っていく。
そこに慈悲など欠片もない。
悪逆非道と恐れられたモンスター達が、さらなるモンスターの獲物となっていた。
「よし、問題なく勝てそうだな」
俺は腰に手を当てて頷く。
相変わらずのスプラッター具合だった。
敵からすれば悪夢そのものだが、こういった光景も既に見慣れている。
異世界に召喚された俺は、サメ術師となった。
これには複雑な経緯があるわけだが、発端を語るには、もう少し時を遡る必要がある……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます