第7話

 午後から撮影があって、プロのカメラマンが機材をあれこれしながらアンブレラを置いたりフラッシュをぱちぱちやっていた。私は眼が痛くなりつつ笑顔をつくったり演技っぽい大げさなポーズをとってみたり、視線をころころ動かして、OKが出るまで耐えた。

 今時のカメラはフィルムじゃなくてデータだから、何枚撮ってもコストは同じなので、ひとつのポーズに数十回も平気でシャッターを切ったりする。そんなに試行回数を重ねたら、誰でも良く見える瞬間はあるだろう。

「今のいちばん良かったですね。はいOKです」

 まあ後から加工したりとか、そういうズルはしてないんだけど。普通に生きてたらあり得ない角度からあり得ない強さの光を浴びせて、キレイに撮れたらそれが私だって言われてもね。

 結局のところ、美とは生き方なんだと思う。写真には写らないもの、切り抜けばほとんど流れ落ちてしまう部分、それが美しさ。同じ時間、同じ空間を共有した人にだけ伝わるもの。

 だから出来上がって使われる写真の私がアレな感じでも気にしない。というか毎回ほぼ確認してない。知らない子ですね。

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