第12話 狐の嫁入り 1/6


───西暦2025年(令和7年) 10月 12日  17:30

───富士の樹海 



先月現れた複合怪異。

この日、なぜ複合怪異がカヨコのもとに現れ、襲ったのかを調査すべく、ラーゼロンと九十九つくもは、片桐千代子(人間)とかつて親しかった人達に聞き込みを行った。


その帰り道。


「とんでもない子供だったのだな…。片桐千代子という人間は…」


「そうですわね…。まさか、複合怪異からふんだくった人形を材料にして人体模型ちよこさんを作っていたなんて…。複合怪異は奪われた人形を取り戻そうと、娘のカヨコさんを襲ったのでしょう。まあ、片桐千代子さんは霊峰学園の生徒の中でも、特に変わった子でしたから…」


「片桐千代子の他にも、怪異から物をふんだくれる程の力を持った生徒はいたのか?」


「ええ、時々いますわ。特に強い力を持った生徒は、生徒でありながら七不思議になったりする例もあります。それこそ、テンシアさんのように」


「そうなのか…」



少し間を空けてラーゼロンが尋ねた。



「それにしても、九十九よ」


「はい?」


「お前は人に化けられたのだな…」




霊峰学園七不思議・第二節『口裂け女』

稲荷川いなりがわ 九十九つくも


霊峰学園の保健医を務める狐の妖怪。

妖術と医術を組み合わせた妖医術よういじゅつを得意とし、更には鍛え抜かれたフィジカルを持ち、万治郎に次ぐ戦闘力を有する。

普段は白衣を纏い、二足歩行の獣人の姿をしているが、今日は美しい人間の女性に化けてラーゼロンと行動を共にしていた。




「はい。外に出張する時はいつもこの姿です。教員免許と医師免許もこの姿で取ったのですよ。まあ、私以外の七不思議は外じゃ目立ちますから、学園外の活動は主に私が担当しているのです」


「確かに、石像やら人体模型やらは注目を集めるだろうからな…。…それと、九十九よ…」


「はい?」


「我、なんか身体の調子が優れんのだが…? 頭がぼーっとするというか、倦怠感があるというか…」


「ラーゼロンさんは幽霊ですもの。それが本来の状態ですわ。七不思議の加護は学園内のみに作用します。学園の外じゃ、ラーゼロンさんはただの一般的な亡者ですもの」


「成る程…七不思議バフが掛かってないとこうなるのか…。だが、九十九は普段と変わりないように見えるが…?」


「私は生きてますからね。七不思議の加護が無いと妖力は半減しますが、体調を崩したりはしませんわ」


「そうなのか…。色々あるのだな、七不思議にも…。ちなみに生きていると言ったな? 今、歳はいくつなのだ?」


「あら、女性に歳を聞くなんて感心しませんよ、ラーゼロンさん?」


「よくある返しだな…。七不思議は入った順に節番が埋められる。第二節ならばもういい歳だろう。子はおらぬのか?」


「もの凄くセクシャルハラスメントな質問ですわね…」


「お前の子なら、かなりの逸材になると思ってな。未来の七不思議候補にもなり得るのではないか? で、子はおるのか?」


「…子供はいません。私を好いてくれるケモナーが見つからなくて…」


「けもなー?」


「獣に性的興奮をおぼえる人間の事ですわ」


「普通に狐同士で交配すれば良いのでは?」


「嫌です。私、好みのタイプが人間なので」


「はえー…」


「…さあ、ラーゼロンさん。学園が見えてきました。もう一踏ん張りですわ」



─────────────────────────────────────


───ラーゼロンが七不思議になる70年前


───西暦1955年(昭和30年)

───富士の樹海



「…おや、こんな所に子狐が。…怪我をしているね。大丈夫かい?」


「………」



霊感の有る人間がいるように、霊感の有る狐もいる。

それが私だ。


親の顔は知らない。

生まれた時から一匹で生きてきた。


捕食するか捕食されるか。

殺るか殺られるか。


そんな野生の世界を、私は一匹で生きてきた。

時には低級霊をも喰らい、私は一匹で生きてきた。


だから、わかる。


私は、もう助からないのだと。


獲物を仕留める時は、喉か腹を狙う。

今の私は、そのどちらにも深手を負っている。


だから、もう助からない。



「じっとしていて…。さあ、この薬を…」



あぁ…、これが私の終わり…。

私の最後は……この人間に……捕食…されるの……か……。


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