第10話 母の模型 2/3


───同時刻

───私立霊峰学園 学生寮 ひまわり荘



「どこへやった…! どこへやった…! 私の『人形』…!」


「ぁぐ…! い゛…や゛あぁ……!」



都市伝説や怪談話は、時代背景によって容易に複合・別解釈される。

・捨てた人形が現在位置を連絡しながら近づいてくる『メリーさん(別名:リカちゃんの電話)』

・体の部位を探させて、見つけられないと殺される『ソウシナハノコ』

・謎解きを仕掛けてそれが解けなければ身体の部位を持ち去る『カシマさん』


今、カヨコの首根っこを掴み掛かっているのは、その3つが複合した怪異、


『複合怪異』である。


黒いモヤがかかった大柄な女の姿をしている。



「お前は知っているはずだ…! 返せ…!! あれは私の人形だ…!!」


複合怪異はさらに力を込め、カヨコを締め上げる。


「んぎぃっ…う゛…ぁ…!」


「返さないなら、お前の手足をいで人形にしてやる…!!」



その時、



「待ちなさい…。私が相手してあげる。その子から離れて…」


駆けつけた千代子が複合怪異の後ろに立っていた。


「あぁ?? 誰だ、私を止めようとす…るの……は………!!!?」


振り返った複合怪異は、千代子の姿を見て驚愕した。


「お前は…!? そんなはず無い!! お前が死んだって聞いたから私は…!」


「……何を言ってるの?」


一人で勝手に驚いていた複合怪異は、そのうち一人で勝手に納得した。


「…ああ! そうか! お前は人形! アイツじゃない! きゃははは! 偽物! 偽物! お前はただの人形だ!」


その様子に千代子はため息をついた。


「…あなたも片桐千代子の? はぁ、もう、本当にうんざり…」




「…千代子!! どういう状況だ!!」


そうこうしているうちに、ラーゼロンも駆けつけて来た。


「む、これが怪異という奴か…!」


「良い所に。ラーゼロン、アレにファイアボール」


そう言って千代子は複合怪異を指差した。


「良いのか?! あんなに近いと、カヨコに当たってしまうやもしれんぞ!!」


「当たらないから…早くやって」



複合怪異はカヨコを手繰り寄せた。


「何をする気だ…!? こいつがどうなっても良いのか!?」



「ラーゼロン、早く…!」


「ええい!! お前を信じるぞ、千代子!!」



ラーゼロンは手のひらに霊気を込めて、


「ファイアボール!!!」


複合怪異に向けて放った。



「くぅッ!!?」


複合怪異は咄嗟にカヨコを持ち上げ、前に突き出し盾にした。



(不味い! 既にファイアボールは放たれた! もう止められん! カヨコに当たってしまう!)




「ありがとう。その子を差し出してくれて」



ザシュッ!!!



それは一瞬の出来事だった。


千代子は凄まじいスピードでファイアボールを追い越し、

複合怪異の腕を手刀で切断し、

そのままカヨコを抱きかかえ救出した。



「えっ…? ウワギャッ!!?」


複合怪異は遅れて飛んできたファイアボールに当たり、火だるまになった。



「わっ…! あ、あの…、ありがとう…ございます…! 千代子さん…!」


「いいから…離れてなさい」


「は、はい…!」


救出されたカヨコは感謝の言葉を述べつつ、この場を走り去って行った。



ラーゼロンは千代子のとんでもないスピードに面食らっていた。


「ハハッ……はやすぎて何も見えなかったぞ……! 流石は七不思議! 強いんだな、千代子も!」



「ラーゼロン…」


小さく、囁くような声で千代子は言った。





「ごめん……ちょっと油断した……」





ボトッ…




と、千代子の両腕が離れ落ち、




ボッ!




と、身体が炎に包まれた。




「なっ!?? えっ!??」


狼狽えるラーゼロンに千代子は言った


「アレ…条件発動系の呪術を持つ怪異だ。受けたダメージを相手に転写うつす系の…」


「ダメージを……転写うつす……?!」




「ああああ…!! 足りない…!! 足りないの…!! 私の……両腕ぇぇええええええええええ!!!!」


絶叫しながら、複合怪異が突進してきた。



「チィッ…!!」


ラーゼロンは燃え盛る千代子を抱き寄せ、複合怪異を躱した。


そして、そのまま抱きかかえながら走り出した。



「離して…。ラーゼロンまで…燃えてしまう…」


「なんの……アイスニードル!!」


ラーゼロンは前方の四方数メートルに氷針を出現させ、


「ファイアボール!!」


それを溶かし、シャワーのように浴びながら駆け抜けた。

お陰で千代子に引火した炎は鎮火した。


「フッ…どうだ千代子…! 火は消えたぞ…!」


「………」


千代子はラーゼロンに抱えられたまま、複合怪異を真っ直ぐに見据えた。



「ああああぁぁぁあああ…!!! 足りないぃ…!! 足りないのぉ…!!」


「はぁ…はぁ…しつこい奴だな…」


懸命に走るラーゼロンを、複合怪異は、追って来ている。

先程まで走っていたのに、這って。


それを見た千代子はラーゼロンに言った。



「ラーゼロン、私をアレに投げて」


「えっ…?!」



「足りないぃ…!! 足りないのぉ…!! ……!!」



「早く…あなたの前に」



ぃぃいいい!!!」



「……ッ!!? うおおおおおおおおおおお!!!!」


ラーゼロンは全力で千代子を複合怪異に向かって投げた。


次の瞬間、



ボトッ…



と、ラーゼロンの左足が胴体から離れ落ちた。


「いっぅ…! 奴め、自ら左足を引き千切って呪いを掛けたな…! …そんな事より…千代子は…!?」




ラーゼロンは見た。


千代子は複合怪異の上空でクルクルと回転し、



「ダメージを転写うつされるなら…」



ドスッ!!!



「!!!??」



踵を複合怪異の頭部に突き刺した。



転写うつされる前に、破魂ころしちゃえばいいよね」




シュウウゥゥゥ……



と、複合怪異は黒い塵になって霧散していった。


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