第2話 私立霊峰学園
───西暦2025年(令和7年) 7月 7日 15:30
───私立
(…………………………)
(………………………む?)
(…勇者に倒され、消えたはずの体の感覚が、ある?)
『ピンポンパンポーン』
『第3運動場で、未登録の霊気反応が検出されました』
『生徒の皆さんは職員、
『第3運動場付近の
「……はっ!?」
そんな放送の音で、ラーゼロンは目を覚ました。
目覚めたラーゼロンの目に真っ先に飛び込んできたのは、人間の子供達の姿だった。
「…えっ?」「…わ!?」「なに?」「ほら、あそこ! あそこにいる霊!」
「…なっ!? 人族の、子供…?」
山梨県に広がる富士の樹海。
そこに切り拓かれた広大な土地にそびえ立つ、小中一貫校、『私立
その校庭(第3運動場)でラーゼロンは意識を取り戻した。
「え、幽霊?」「お化け?」「外国の人?」「今、日本語しゃべった?」「新しい七不思議じゃね?」
そこには笹に七夕飾りを取り付けている霊峰学園低学年の生徒達。
と、一緒に飾り付けを手伝っている明らかに異質な存在、『筋肉質な初老男性の石像』がいた。
その『石像』は生徒達とラーゼロンの間を遮るように前へ出ると、石造りの口を開いた。
「ほぉ、今回はまた随分と唐突に現れたのぅ。お前さん、自分の意識をはっきりと保てとるか?
「何の話だ…? 此処は何処だ? 我は勇者に倒され、死んだのではないのか?!」
「今のお前さんの体は霊体じゃ。間違いなく死んどるよ。そこは安心せえ。問題なのは、霊と成ったお前さんがここに現れた理由じゃ」
石像は右手を引き、左手を前に出し腰を落とすと、武闘の構えのようなポーズを取った。
「ここの生徒の霊気に惹かれて現れたのか。それとも、新たな七不思議として現れたのか。返答次第じゃ、お前さんを
「霊体? 霊気? 七不思議? 何の事だ? 何者なのだ、貴様は!?」
「一応、名乗っておこうかのぅ」
一呼吸開けて、石像は名乗りを上げた。
「儂は、霊峰学園七不思議・第一節、『歩く
「……ふむ? その、れいほう…なんちゃら…じろう、というのが貴様の名か? 長すぎて憶えられん。…だが、名乗られたからには名乗り返そう!」
漆黒のマントをなびかせながら、ラーゼロンは胸を張り名乗り返した。
「我が名は魔王ラーゼロン! アルマリアの魔界を統べる魔族の王にして最上級魔法の使い手であr…」
ピロロロロ…
ラーゼロンの名乗りを遮り、携帯電話の音が響いた。
万治郎は石造りのポケットからスマホを取り出した。
「あ、ちょっと待っとってくれ。『
そう言って万治郎が通話を始めたのと同時だった。
風に乗って、無数の桜の花びらがヒラヒラと舞い落ちてきた。
と、思ったら、花びらは結合していき、4体の『ピンク色の人型』になった。
その4体のピンク色の人型に、ラーゼロンは四方を取り囲まれてしまった。
ラーゼロン「な、何だコイツらは!?」
ラーゼロンの問に生徒達が一斉に答える。
「
「…」「…」「…」「…」
4体の
「やる気か? 魔王たるこの我と…!」
ラーゼロンも戦闘態勢に入った。
「
「我がこのピンクの塊に劣ると? 見くびるでないわ!!」
そう言うとラーゼロンは魔法の詠唱を始める。
「煉獄界の炎神ボルグカムラよ。ここに汝の領界へ通ずる門を開放する…」
「スゲー、本場の詠唱だぜ!」「魔王本気か?」「やめといた方がいいよー」
「黙っていろ、人族の子らよ…。今更後悔しても、もう遅いぞ……」
(む…? むむ…? おかしい…。『マナ』が、収束できない…?)
「オレ魔法見たい!」「なんか魔王の様子、ヘンじゃね?」「ふえぇ…ケンカしないでよぉ(泣)」
「門より出でて煉獄の業火を以て…」
(そういえば、目覚めてからマナの気配を感じない…。もしや、この場には
焦りの表情を見せるラーゼロン。
と、その時、
「ハイ、そこまで!」
パンッ、と手を鳴らし万治郎が全員の注意を引き付けた。
「えー、ラーゼロン君…じゃったかな? 確定した、お前さんは新たな七不思議じゃ」
そう万治郎が言った直後、
『ピンポンパンポーン』
『先程の第3運動場での霊気反応は、新規の七不思議のものと確認されました』
『生徒の皆さん、及び、職員は警戒を解除し、通常の生活に戻ってください』
そんな放送が流れた。
「やっぱりだ!」「今度の七不思議は魔王だ!」「ちぇっ、いいとこだったのに」
生徒達は、はしゃぎながらラーゼロンの周りに集まってきた。
その様子を見て、
「…待て、話が見えんのだが?」
(歓迎されているのか? 戦わなくて済みそうだな…)
ラーゼロンは密かにほっと胸を撫で下ろした。
そんなラーゼロンに、万治郎はニコやかに歩み寄り、歓迎の言葉を述べた。
「ようこそ、ラーゼロン君。世界で唯一の、
こうして異世界魔王ラーゼロンの、日本での最初の一日が始まった。
───七人の悪霊 復活まで 後 169日
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