異世界魔王と七不思議 ~現代日本最強の七不思議 vs かつて江戸を壊滅させた最強最悪な七人の悪霊~
ぽにちっち
第1話 二つのプロローグ
───プロローグ・1
───西暦1786年(天明6年)
───江戸城
この七霊、
この七災、記すべからず。
この七害、弔うべからず。
江戸幕府・第十代将軍『
中から出て来たのは養子として迎えられた『
その様子を見ていた老中『
「
「
「……うっ!?」
チラッと見えた寝室の中は、壁、天井に至るまで赤黒く染まり、凄惨な有様だ。
「…
覚悟していた事とはいえ、自分を重用してくれた
「…くっ、…承知致しました」
家臣達が広間に集まった頃、
(生き残っている者は…、たったの…これだけか…)
家臣達を見回した
かつて広間を埋め尽くす程にいた家臣も、今は指で数えられる程にしか残っていない。
その僅かな家臣達の前で、
「知っての通り、前将軍
家臣達は涙ぐみながら聞いている。
「『
そう呟く家臣もいた。
「今より亡き
広間に緊張が走る。
「先の『七人』。
生前、
そして遂には念願叶い、
しかし死後、呪いと成り、
すなわち、
『
『
『
『
『
『
『
「ひぃっ…!」と何人かの家臣が声を漏らす。
その七人の名を聞いただけで、恐怖で顔を引きつらせ体を震わせた。
途方をない数の人間が死んだ。
生き残った人間も、この世が現実なのか地獄なのか、判別が着けられる精神状態ではなかった。
最早この国で神や仏を信じている者は居ない。
いや、生き残って居ない。
日本中の坊主や僧は、呪いの鎮静化を試みたが為に、一人残らず狂い死んだ。
宗教に携わる人間が死滅した事で、この時の日本は、完全なる無神国家と成っていた。
「この『七人』が存在したという痕跡を
過去に記した『七人』に関する記録は全て燃やせ。伝聞にも
そして、死者の数を出来るだけ少なく見積り改竄せよ。
『七人』に殺されたのではなく、飢饉や浅間山の噴火、悪政により死んだと捏造せよ」
「そ、それはあんまりに御座いまする!」
義に厚い家臣達が、悪政という捏造内容に反発して声を荒らげた。
「それでは
「あの糞芥にも劣る外道七人を討伐できたのは、
「
「……後の世の為だ」
「
家臣達は涙ぐみながら押し黙った。
「後の世の民が、此度の件を知り、興味本位であれに接触してしまえば、再び呪いが世に溢れ出る可能性がある…!」
「それを防ぐには…! 未来の
「うぅっ…!」
「
家臣達は泣き崩れた。
この七霊、
此度の呪い、祓えるものにあらず。鎮まるものにあらず。故に祠や塚にて形に残してはならぬ。
この七災、記すべからず。
此度の災い、書き記してはならぬ。言い伝えてはならぬ。後世に知る機会を与えてはならぬ。七人に関するあらゆる痕跡を残してはならぬ。
この七害、弔うべからず。
此度の犠牲者、被害者に対し祈ること、崇めること、慰めることを禁じる。死者への詮索から、後世に七人の存在を悟られてはならぬ。
最後に、生き残った民よ。
子を産み、育てよ。
荒れた農地を耕し、
再び文化を起こし、笑いあえ。
未来に希望を持て。
そしていつの日か、
「悪政の全責任は、老中であるこの
後に、
日本史上最大の死者を出したこの事件は、『天明の大飢饉』である、とでっち上げられた。
途方もない死者数は、可能な限り少なく見積もられ、死の原因は飢饉、浅間山の噴火、一揆、
こうして『七人』の存在は、当時の江戸幕府と国民により、歴史の闇に葬られた。
……令和7年の、その時まで。
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───プロローグ・2
───剣と魔法の世界・アルマリア
───アルマリア歴4079年 魔王城
勝負は決した。
勇者の放った渾身の一撃は、魔王『ラーゼロン』の胸を深く貫いた。
「がはっ…! どうやら…、此処までのようだな……」
勇者はラーゼロンの胸から聖剣を引き抜くと、勝者とは思えない悲痛な表情を浮かべた。
「魔王ラーゼロン……。本当に、こうするしかなかったのか…?」
どこか後悔しているかのような声色で尋ねる勇者に対して、ラーゼロンは慰めるように応えた。
「そうだ…。人族と魔族、互いに手を取り合うには、憎しみの刻を重ね過ぎた…。どちらかが亡びるまで、この戦争は終わらない…。ならば、もはやこの手しかあるまい…。我が死ねば、魔界へのゲートは閉ざされる…。これで人間界と魔界は完全に断たれる…。そうなれば、いくら憎しみが深かろうが互いに干渉できまい…」
「だからって、お前が犠牲にならなくても…!」
バッ! と、ラーゼロンは漆黒のマントを
「誇るが良い、人族の勇者よ! 貴様は見事、この魔王ラーゼロンを打ち破り、世界に安寧を
「くっ……!」
「…これで良いのだ。人族は魔族の脅威が去った人間界で、魔族は人族が存在しない魔界で、それぞれ平和に暮らすだろう…」
「…それでも俺は。俺はお前と…、友達になりたかったよ…」
「……ならば最後に、我の頼みを訊いてくれるか?」
「…っ?」
「魔界のゲートが閉ざされたならば、人間界に取り残される魔族も少なからず居るだろう…。どうか、その者達を保護してやってくれ…。迫害せずに、手を差し伸べてやって欲しい……」
ラーゼロンの最後の願いに、勇者は力強く応えた。
「…ああ、任せてくれ! 勇者の誇りと、創生の女神アルマリアに誓って、約束するよ!」
「…ふっ。頼んだ…ぞ……」
ラーゼロンの体が、光の粒子になり、徐々に崩壊していく。
「さらばだ……。勇者…よ……」
ラーゼロンは静かに瞳を閉じた。
光の粒子は霧散し、遂には一つ残らず消えてしまった。
こうして魔王ラーゼロンは、剣と魔法の世界・アルマリアから完全に消滅した。
…
………
………………
『ピンポンパンポーン』
『第3運動場で、未確認の霊気反応が検出されました』
『生徒の皆さんは職員、
『第3運動場付近の
そんな放送の音で、ラーゼロンは目を覚ました。
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