現代の必修科目

河伯ノ者

現代の必修科目

 処世術、なんて言葉がある。世の中をうまく生きる為のすべというやつだ。

 私は多分それが上手だったんだろう。

 今の世の中を生きていくならコピー&ペーストが出来ればいいだけだ。

 宿題だってそう、大学のレポートだって『CTRL+C』と『CTRL+V』を知っていれば、楽に終えることができる。

 だって、その方が効率がいいでしょ?

 わざわざ用意された答えがあるなら、それを写して移しまえばいいだけだ。

 丸々コピーしたらダメ。それじゃあ怒られちゃうもの。

 コツは何個かコピーしたり、間違えておくこと。そしたら誰も気づかない。

 友人関係だって一緒だ。必要なのは自分の意見じゃなくて、空気感に着いていくこと。

 自分の意見の上に、上書きした他人の意見を話せばいい。

 誰が誰を好きとか、私がどんな曲が好きかなんて、彼女たちは知りたくない。自分と同じ目線で話してくれる友人Bなら誰だって親友だと思ってくれるのだから。

 親にだってそうしてきた。

 親が描く理想の娘。成績優秀で、多すぎない程度に友人のいるどこにでもいる少女。聴いたこともないバンドのCDを父が買ってきた時も、お兄ちゃんが選んだ誕生日プレゼントのよくわからないブランドのトートバックも私はわざとらしいくらいに喜んだ。

 私の部屋にあるものは、そんな周りが喜んでくれる私で覆い尽くされている。

 スマホの中身にも私はいない。

 YouTubeのおすすめは、私の興味のない素人芸人しかいない。

 でも、私はソレを嫌だと思ったことはなかった。

 だって私自身も私が何を好きで、どこに行きたくて、どんな人が好きで、どういう風になりたいのかわからないんだから。

 貼り付けられたコピーの中にうずもれた私を掘り起こすのは億劫だから、そういうことにしておいた方が楽なんだ。

 皆だってそうでしょう?

 さっきまで友達のフリをしていたはずなのに、いなくなったら陰口を言って共感を求めてくる人。

 賢そうな有名人が言っていたことをなんでも鵜呑みにしてる人。

 サビしか知らない曲に感動したとか言える人。

 特に知らないクセに、炎上してる人を見たら袋叩き。

 流行りのコンテンツにとりあえず乗っかって、好きのバーゲンセールをしていれば誰でも一般人様になれるんだ。

 アナタ、私のこと嫌いでしょう?

 きっと私のことが自分を賢いと思っているマセたガキに見えてるでしょうね?

 だって、アナタそう思うように言っているもの。

 ほら、私とっても上手でしょ?

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