第1章 第12話 アーネスト 5歳 変わらない日常。
ぽかぽか陽気に、大地に寝そべっている。のんびりしてるように見えるか?うん、立てない。
「どうしたのです?まだ始めたばかりですよ?」
凛としたおばあ様の声が響き渡る。今は剣のお稽古だ。さすが部門の出。強い。5歳児に容赦なし。
もう4~5時間稽古してるでしょう。という言葉を飲み込んで、フラフラと立ち上がる。
生まれてすぐ死ぬところを助けてもらったおばあ様には感謝しかない。が、おばあ様に殺されそうです。
基礎訓練は3歳の頃から、で、5歳になった記念に本格的な訓練へ。
今おばあ様に倣っているのは、片手剣だ。それも左右に一本づつ。理由はカンタン、両手剣はでかい上に
重たいので、5歳児に扱えないからだ。繰り返すが前世はニホン人の5歳児だ。戦士とかなんぞや。
心構えもないし、腕力も体力もない。誰かタスケテ。
もう何度空を眺めたろう。マジもう無理。多分骨も折れてる。
「おう、坊ちゃん、頑張れ!!ゲラゲラ。」笑いながら声を掛けて来るのは狼獣人の〈ケン〉だ。
門番を交代して来たらしい。身体は人で、顔が狼の獣人だ。この野郎!他人事だと思って!!
こないだ迄、おばあ様のシゴキで死屍累々だったのに、流石は獣人と云ったところか、今では
おばあ様といい勝負をしている。父上にはまだ敵わないが。
タオルと薬箱を持ってメイドの〈エリ〉がやって来た。7~8歳程度の女の子に見えるが、
頭に捻じれたツノがある。珍しい魔族と人のハーフだ。人魔と呼ばれている。因みに俺の
護衛も兼ねるお姉さんだ。魔力も多く、魔法使いとしても優秀。
勿論、胸はまだペッタン……ハッ!殺気?!
この世界、怪我も病気も治療魔法とか快復魔法で治すのが普通だが、〈加護無し〉の
俺の所には誰も来てくれない。
仕方が無いので薬で治す。レオンハルト先生のお手製の薬で。
材料は植物が多く入っているので、〈ニホンの漢方〉に近いと思う。
途轍もなく染みるシップ薬とか、胃がひっくり返るほど苦い飲み薬とか。
するとどうでしょう。効果テキメン。折れた骨も短時間で元どうり。
先生曰く、それ程の効き目は無いそうだが、実際治ってるもん。
「ただいま。」豹の獣人である〈ショウ〉が帰って来た。みんなで5人、みんな泥だらけだ。
「それは〈飛びトカゲ〉のたまごか?」ケンが声を掛ける。
「ああ。明け方巣に忍び込んで一個かっぱらって来た。」
「食う訳でもねェのに、御苦労なこった。」ケンがジョーの背中をバンバンたたいている。
本来は仲が悪い狼の獣人と豹の獣人だが、じゃれ合っているようにしか見えない。
アーネストの頼みで取って来た卵も、もう20個になる。アーネストに考えがあるみたいなので、
誰も疑問に思わない。
アイルスの所にメイドの〈ゼルダ〉がお茶を持ってやって来た。
後ろにはパラソルとテーブルにイスがセットされてる。いつの間に?侮れない人だ。
「休憩にしましょう。」アイルスの言葉を受けてエリがお茶を入れ始めた。こちらもいつの間に
用意したのか。
アイルスはそのにぎやかな光景を、おだやかな気持ちで眺めていた。
騎士として獣人が10人。メイドは今の所エリ一人。あと職人としてドワーフが5人。
みんな奴隷である。首に隷属の首輪がある。
加護無しのアーネストを嫌って人が寄り付かないので、苦肉の策として獣人を購入した。
契約はアーネストの父のジューダストの名だが、アーネストが無理やり付いて来て、
全員アーネストが選んだ。
不思議なのは、奴隷全員がアーネストを主と認めている事。本来なら敵意をむき出して
従わないものなので、主人は苦痛か恐怖によって支配するのが一般的だ。忌むべきことだが。
みんな仲がいいのは、それがアーネストの魔力が無い事のによるものなのか。別な理由があるのか、
アイルスには分からない。
只、アーネストは普通の子供では無い、と確信している。
飛びトイカゲの卵集めも、新たにドワーフに作らせている棒のようなものも、理由があるのだろう。
アーネストは一息つきながら、まったりと考えていた。
要塞みたいなお城がカロリーナ公爵家の本宅であり、そのまんま〈カロリーナの要塞城〉と呼ばれる。
この館は別宅でる。アーネストが生まれてすぐにアイルスおばあ様と移り住んだ。
要塞城には代官である俺の父を始め母、兄。それに騎士達(まあ、戦闘員だね)が200名程。あと、文官や生活雑用をこなす
使用人、職人、メイド等がこれも80名位いる。勿論、全員人族だ。そして、若者が多い。
此処に来てくれるのは4人だけ。カロリーナ侯爵家の家令であり、要塞城を全て仕切っている"ゼービク"、
父上、母上、兄上の家族3人。人目を忍んで夜中に会いに来てくれる。
父上のアガーベック家、母上のアビエマ家、それにカロリーナ家のメイド達もアーネストに好意的だが、
いろいろ気を使って、会いには来れない。事情は理解してるが、ちょっと寂しい。
この春は、兄上が今年10歳になるので、帝都の学校へ行く事になってる。全寮制なので、長い休みとかじゃないと
帰って来れない。
ささやかな送別会をこの別宅で開く予定だ。勿論、おばあ様をはじめ、獣人達も全員参加だ。
会えなくなるのがつらくて泣いてしまうだろう。しょうがないんだ。だって5歳なんだから。たとえ前世で
29歳迄生きていたとしても。
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