第1章 第10話 帰ってまいりました。

明け方過ぎに〈アイルス公爵夫人の華麗なる慰安(ぢゃない)旅行〉もしくは〈アガーベック辺境伯の家族旅行もどき〉もしくは"アーマンジャック(仮)一味の新人研修〉ひょっとして〈暁の夜明け団の珍道中〉は終わりを告げた。


カロリーナ伯爵領に帰って来ただけなんだけどね。


〈カロリーナの要塞城〉の少し手前でアガーベック辺境伯と別れた。

おばあ様にはこちらの馬車に乗ってもらって、住処(別館)を目指す。


ホント、要塞城の若造どもには気を使ってるよ。

魔族がやってくる〈逢魔ヶ森〉と接しているカロリーナ公爵領は、バリバリの最前線だ。

したがって、ベテランの軍人による強い軍隊が駐屯しているはずだが、はずなんだが!……。

今は魔族との戦争も小康状態が続いていて、たまに小競り合いがある程度。


なのでベテランは次々と他の現場(他の国との前線)に送られてしまい、新たに

配属されるのは、戦争未経験の新人ばかり。


前にも言ったが、ホント、プライドばかり高くて、全く役に立たない。

女神教の薫陶宜しく俺を殺しに来るので、鬱陶しい事この上ない。

まあ、僅かながら、ホントに僅かながら、好意的な人たちもいるんだけどね。


さて、住処(別館)を仕切っている3人のメイド達(熟練)から熱烈歓迎を受けて、

有無を言わさず、全員風呂に連れていかれた。


素直に従ったのは先生だけで、あとは全員文字通り叩き込まれたYO。


俺は不覚にも眠くて沈没した。

だってしょうが無いだろう?徹夜で名前考えてたんだぜ?

生まれたままの姿を見られてしまったよ。3歳児だから別にいいけど。


さすがにお風呂上りはみんなピカピカだよ。

支給された服は、まぁ、ブカブカだったり、キチキチだったりしてるけど。

採寸して新しい制服が出来るまで、我慢して。


そしてみんな集めて、名前を付けると云う大イベント(俺にとって)が始まった。

父上と母上と兄上もやって来たよ。兄上は獣人達に興味津々だよ。


さて名前発表です。ドルルルル、パフパフパフ。あっ、冷たい目で見られた。

まずは狼の獣人から。

焦げ茶に少し薄い茶色と黒が混ざった毛並みを持つリーダー格のこいつは〈ケン〉だ。

狼…イヌ科だからと云って、ポチやタロと名付けない位の分別はある。

で、犬…イヌ…ケンと云う訳だ。意見(ツッコミ)は受け付けません。


次に弟分らしき灰色の毛並みのこいつは〈ギンジ〉。灰色なんで"ハイジ"かなと思ったが、それだと

だと〈クララお嬢様〉も連れて来ないと。


3人目は同じ灰色だけど、〈カリオ〉。なに、狩る男だよ。意見は以下同文。


続いて獣人は。

まず一人目、こいつもリーダー格で〈ショウ〉。豹、ヒョウだとそのままなので、

ちょっと変えてみました。

お次も豹の獣人で…〈ショウ〉……ショウワの次なら〈ヘイ(ヘイセイ)〉か〈レイ(レイワ)〉、

それとも〈ショウ〉…小学校として〈チュウ(中学校)〉、〈コウ(高校)〉……、よし、こいつは〈コウ〉だ。

勿論、以下同文。


二人とも、黄色と云うよりオレンジに近い色で、黒い模様が入っている。同じでは無くて、微妙に違う。

ショウに至っては、左目の下に泣きボクロみたいな模様がある。ちょっと色っぽいか?


人魔の少女は〈エリ〉。花のエリカから。何もない荒野にポツンと咲く花だそうな。

この世界、貴族の女性は花の名から名前を付けることが多いし、紅一点と云う意味で。


ドワーフ親子は、親父が〈イワオ〉、女房が〈テツコ〉、息子は〈ガンテツ〉でどうだ!

あれ?、なんか睨んでるよ……適当に付け過ぎたか?


「流石だな、今迄の名前より、ワシらしい名前だ。」

「私も気に入りましたわ。」

「オレ、ガンテツって、か、かっけー!!」

気に入ってたのかーい!せめて朗らかに話せよ!!


最後は先生。難問だ。非常に難問だ。いろいろ候補は考えたが、実は決めていない。ちゅーか、

決められない。


取り敢えず片っ端から言ってみようか。


「え~と、〈レオンハルト〉……。」

恐る恐る口にした。もっといいのが無いでもなかったが。

美池蘭十郎とか、ウマヤードゥとか、アイーンシュッタンとか、エルフ太郎とか。


「はい。宜しくお願いします。」

先生はまたニッコリ笑った。


いいのか?ホントにいいのか?自分で言うのもなんだけど。

……まぁ、本人が良いなら良いか。

ネタは科学から化学まで、信じられない程多才な人物、

"レオナルド・ダ・ヴィンチ"から。

レオナルド……レオン…、で、ハルトはなんか高貴っぽい感じがするんでくっ付けてみました。


あっ、なんか先生が生暖かい目で見てる。ご、誤魔化すんだ!


「みんな気に入ってくれたみたいで、何よりだよ。」


さあ、上手く誤魔化したぞ。みんな笑顔だよ。ホントかよ。


そして、ケン達は早速剣術や格闘術のお稽古に連れていかれた。

おばあ様と父上が張り切ってらっしゃる。

母上と兄上も付いて行った。参加するのか?みんな部門の出だから。


エリはメイド(熟練)に一人に連れていかれ、イワオ達は別のメイド(熟練)と一緒に出て行き、レオンハルト先生は"美味しいお茶"の伝授に残ったメイド(熟練)と出て行った。


……わ~ん!置いてかないで!誰か連れてって!



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