第1章 第08話 初めての外泊。しかも野営。前編

街道から外れて、そう遠くない場所に馬車は止まった。

森のちょっと開けた所で、いかにも野営に相応しい場所だ。


止まって暫くして、外から馬車の扉が開いた。

開けたのは革の簡易鎧を身に纏った男で、30歳前後のいかにも精悍な男だ。


ジューダストに恩があると云う6人組の冒険者のリーダーで名をサンゾックと云う。

ちなみにパーティー名は〈暁の夜明け〉だ。ツッコミたいが、今はその時では無いだろう。


今回の遠出で護衛件御者を買って出てくれたのだ。有難い事に。

騎士達には頼めない。理由は以下略。


サンゾックを始め、〈暁の夜明け〉のメンバーはかなり緊張していた。

魔力無しという訳の分からん子供と、危険な獣人達だ、当然と言えば当然である。


しかもその訳の分からん子供は獣人に護身用のナイフを渡している。


「アーネスト?何をしている?」


「晩御飯の為の狩りをしてもらうのです、父上。」


みんなびっくりだよ。そりゃそうだ。どこに奴隷にして半日も経っていない獣人達に

武器を渡すバカがいる。


ここにいたよ。


ナイフを渡された狼の獣人は、ちょっと眺めてからアーネストにナイフを返した。


「いらねェ。こんなん無くても、うまい肉取ってきてやる。ちょっと待ってろ。」

二人の狼の獣人に声を掛けて、暗い森へと消えて行った。


「じゃあ、俺達も行ってくる。」

続いて豹の獣人二人も暗い森へと消えて行った。


「私も行ってきます。」

美形エルフも歩き出した。


人魔の少女がアーネストを見た。自分は何をしたらいいか、指示を仰ぎたいようだ。

「みんなが帰るまで待っていようよ。そうだ、火を起こしてお茶にしよう。」


アーネストが石を積み上げて竈もどきを作る。人魔の少女は適当な木片を集めに行った。

ドワーフの母子も木片を集めに続いて出て行った。。


アーネストが大きい石を抱えてヨロヨロしている。うまく形に出来ない様だ

「ヘタクソめ、ワシにかしてみろ。」

ドワーフの手で〈ただの石を積んだもの〉は立派な〈竈〉に変わった。


アイルスやサンゾック達は暫くアーネスト達のやり取りを見ていたが、はっと我に返っると、のろのろと野営と食事の準備に動き出した。



アイルスとジューダスト、それに冒険者パーティー〈暁の夜明け〉の6人は考え込んだ。

今、見ていたものは何だ?大人と子供が混ざった11人。

種族もバラバラで10人は奴隷。


しかも出会ってから半日も経っていない。それなのに、まるで古くからの友人みたいな信頼関係が感じられる。有り得ない。有り得るはずがない。種族もバラバラな奴隷が10人もいるんだぞ。それも奴隷同士、殆どが半日前に会ったばかりだぞ。

一体何なんだ!


今迄常識だと思っていたことが、さらっと覆されたのだ。戸惑うのも無理はない。

しかも、奴隷にした獣人や亜人達の連合国家とは戦争中だ。こんな短時間で

仲良く等、なれる筈が無い。


冒険者たちの疑問はごく真っ当なものであり、それがこの世界の世界観だ。

それなのに、アイルスとジューダストの親ばか二人は、あっさり立ち直ってしまった。


「ホント、不思議ねェ。あんなに愛くるしいからかしら。」

「流石は我が息子だ。愛くるしさ世界一だ。」

あんたらもうちょっと考えた方がいいぞ!目の前の光景は不気味を通り越して異常だぞ!

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