第1章 第06話 アーネスト 3歳 初めてのお買い物。
アーネスト 3歳
「はっ、俺は……転生者?」
夜中にこっそり寝顔を見に来た育ての親アイルス。
「アーネスト?」
「……おばあさま。だいすき。むにゃむにゃ。」
「この子は!」
育ての親をタウマチン(砂糖の3,000倍くらいの甘さらしい)の化身にする。
この星の大部分は海であり、地球によく似ている。
この星の住人の多くは、自分たちが住んでいるのが星であると云う概念は無い。
そして、大きな大陸が四つ。その他、小さな島国がいくつか。
大陸の一つ〈ハスプ・リングル大陸〉は四季はあるものの気候の穏やかな日が多く、
春の大陸とも呼ばれている。
大きな国は四つ。
その中で一番大きな国がアーネスト達が住む〈バックアード王国〉である。
同じ大陸の一つの国とは同盟を結んでいるが、他の二つの国と、
別な空間にあると思われている魔国と戦争をしている。
他の三つの大陸、〈ナ・サマー・ツ大陸〉、〈アオータム・ウキ大陸〉、〈フウ・イン・ターユ大陸〉も
似たり寄ったりである。国どうし戦争しているか、内乱しているかの違いしかない。
地球とよく似ているのはゲーム設定に都合がいいからであり、争いが多いのも
そんなゲームの転生者が多いからである。
兄神様が滅亡するかもと心配しているのも、あながち間違いではないよね。
俺は"アーネスト・アガーベック・アーマンジャック(仮)"、3歳。今のところ生きてる。
〈アーマンジャック(仮)〉なのは、何か誰もが認める手柄が無いと名跡を継ぐのは認められない,と
いう事らしい。逆に言うと手柄があればいいんだ。
前世の記憶や兄神様とのやり取りも、少しづつ思い出してきているよ。ところどころ虫食いの様だが。
今の自分の置かれている立場というのは、薄氷を踏むどころか、首まで使っている様なものだ。
嫌われ、蔑まされ、命を狙われ。この国の女神教の教えにより"加護無し"の俺の許に敬虔な信者がよく訪れる。
俺を殺しに。迷惑だ。クレーム入れたい。
生まれた直ぐこの別館に移り住んだのもその為だ。本来守ってくれる騎士達が率先して殺しに来る。
救いはおばあ様や身内始め、少ないながら味方がいるという事。それと、人族以外の女神教だと
"全ての種族に優劣は無い"ので、魔力が無いと云うだけで殺される事が無い事。
引っ越したいけど他の種族とは戦争中なので、無理なんですよ。
転生するとき、「力はいらない!」なんて言わなきゃよかった。前世の記憶があろうとも
3歳児に身を守る術があるわきゃ無い。なので、アイルスおばあ様に相談だ。
「身を守るために奴隷を買いたいと。」おばあ様は困り顔だ。それでいて
きつく睨まれている。暫くして、ふっと力を抜くと、俺の親たるアガーベック辺境伯に話してみると言った。
久しぶりに要塞城に上がり、代官のアガーベック辺境伯に面会をもと求める。
直ぐに応接の間に通された。人払いの後、口を開く。
「『奴隷が欲しい』とアーネストが言ったのですか。」
ジューダスト・アガーベック辺境伯も困り顔をした。我が子を守るために対策が必要なのは
分かっているが、奴隷だと?なぜ3歳児がその様な事を考え付く?
「『その場にぼくも連れて行ってほしい。』とも言っていました。」
「あの子は普通の愛くるしい3歳児なのですが、誰も知らない知識があり、時々突拍子も無い事を言います。
それが魔力無しから来るものなのかは、分からないのですが。」
「普通に愛くるしい上に誰も知らない知識迄あるのですか?」
誰も知らない知識を持つ3歳児など、気持ち悪いと思うのが当たり前だろう。
しかし、二人共アーネストの対する愛情が勝っているので、思わない。〈親ばか〉だ。〈親ばか〉がここにいる。
「あんなに愛くるしいのに不思議ですね。」
「不思議だとは思います。あんなに愛くるしいのに。」
二人は考え込んだ。
そこは〈不思議〉じゃなくて〈不気味〉だろ!一般的に!
残念なことにツッコむ人はこの場に誰もいなかった。この親ばか振りは歴史に残るだろう。
この世界に奴隷制度があるのは、人族だけである。そして奴隷は人族以外に限られる。
また、人族を奴隷にするのは禁じられている。他の種族にとっては、迷惑以外の何物でもない。
まあ、何事にも例外はある。戦争相手の国の住人や犯罪者は人族であっても
奴隷にしても良いらしい。全くもって、迷惑な話である。これもゲームの設定か、それとも、元々そんな世界なのか。
カロリーナ公爵領には奴隷商はいないので、隣のヒットメッツ伯爵領にやって来た。
ヒットメッツ伯爵はジューダスト・アガーベック辺境伯と仲が良かったが、加護無しのアーネストが
生まれたからは疎遠になっている。挨拶は入れたが、会ってはいない。
カーマギル奴隷商会に異様な3人が現れたのは、店が開いて間もない頃だ。
一見して高貴と思える夫人と、細マッチョの偉丈夫な男(イケメン)、それと子供。深いフードを被っている。
魔力の有る無しなど、一般の人には分からないが、万が一バレたら命の危機がある。
大人二人は気が気でない。
一見して訳有りなのはバレバレだが、奴隷商は気にはなっても詮索しないのが、この商売を続けるコツである。
少しの会話の後、実際に見て選ぶ為に店の奥へと進んだ。異様な雰囲気と
異様な匂い。俗悪な環境であることは間違いない。
「力と体力がある者をお求めなら、この辺ですかね。」奴隷商の店員は言う。薄暗い檻の中に
鋭く光る眼がいくつもこちらを見ている。もろ殺気だらけだ。
幾つかの檻を覗いた後、折り返してまた檻を覗いて歩く。アーネストがジューダストの
袖を引っ張る。アーネストが選んだのは5人。身体つきは人族とあまり変わらないが、
顔は野生の獣に近い。獣人と呼ばれる種族だ。
狼の獣人三人と豹の獣人二人。いずれも10歳位に見える。
暴れて逃げようとしたが、薬を香がされておとなしくなった。
あと、生産の職人としてドワーフが三人。こちらは家族だと思われる。
アイルスが支払いをして、奴隷契約はジューダストがした。ジューダストが主人となる。
貨物用の大型の馬車に乗せて帰ろうとした時、アーネストが馬車に乗らずに走り出した。
慌てて後を追うが、スルリスルリと逃れて、別な奴隷商会に入っていった。
その看板にはタガメリ奴隷商会とある。いろいろと、評判の悪いところだ。
アーネストは捕まえようとする店員も逃れて、奥へ奥へと進む。止まったところで
店員に捕まった。「このガキ!」と言いかけて、追いついたアイルスとジューダストを見て
黙った。賢明な判断だ。
そこにはボロボロの服を纏った7~8歳位の少女がいた。汚れていても美少女だと分かるが、
その頭には捻じれたツノが2本あった。魔族と人のハーフだろう。亜人に分類されが、
人魔とも呼ばれる。
一悶着の後、法外な金額で取引された。すると、アーネストがまた走り出した。
そして別な檻の前で止まる。そこにはやはりボロボロの服を纏った青年がいた。
一目でエルフと分かる、イケメンと云うより綺麗と云った方がしっくりくる青年。
こちらも一悶着の後、法外な金額で取引が終わった。
ニコニコと機嫌の良いアーネストがまた無理を言って奴隷達と同じ馬車に乗り、
すっかり草臥れたアイルスとジューダストが、並んで違う高級な馬車に揺られて
帰途に付く。
帰りの道のりがとても遠く感じられた。
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