第19話 改めての告白
「こんなに素敵な場所がすぐ近くにあったんですね。気がつかなかったです。今日連れてきてもらえて良かったです!」
「それなら良かった」
にっこりと笑うレオが繋いでる手を少し強く握りしめた。さっきまで手を繋いでいることを忘れていたのに、嫌でも意識してしまう。
「あの……手を」
「うん?」
「もう到着したので離しても大丈夫です、よ?」
「そっか、もう少し繋いでいたいけど仕方ないなあ」
レオはパッと手を離して私の方に向き直った。
離された手が少し寂しくてもう片方の手でギュッと握りしめた。
(って、私ったらなんで寂しがっているの? ただエスコートされていただけじゃない)
今日はなんだか気分がおかしいみたい。レオの言動にいちいちドキドキし過ぎだ。
軽く首を振って変な気持ちを振り払う。
レオは私のことをじっと見つめていた。
「ねえ……さっきの話、俺は本当にソフィアが好きだよ。付き合ってくれないかな?」
急に声色が変わったレオに驚いたが、少し前とは全く違う真剣な表情に冗談ではないと分かる。
だから私も慎重に、覚悟を決めて口を開いた。
「えっと、私もレオのことが好きです、多分。……でも恋愛なんてよく分からないんです。どうせ親が決めた相手と結婚するのだと思ってたし、好きになるだけ無駄だって……それに……」
レオに好きだと言われてはっきりと自覚した。私もレオが好きだ。いつも優しくて頼りになるところはもちろん、私の過ちを知った上で態度を変えないでいてくれた。そんなレオの考え方が好きだった。でも……
「うん?」
レオの優しい相槌を聞いていると涙がポロポロと溢れてきた。
「……ごめんなさい、怖いんです。レオのことが好きだから、いつか誰かに関係を壊されてしまったらどうしようって。だって私は、それだけのことをしてきたから……」
言葉に出すと余計に怖くなってしまった。どんな理由であれ、私はマリアと王子の仲をかき乱したのだ。誰かから同じことをされるかもしれない。因果応報というし、何をされても文句は言えない。
「……俺はハプレーナの頃のソフィアを直接見た訳じゃないけど、モユファルに来てからのソフィアは本当に頑張ってる。お客様からも感謝されているだろう? 過去の過ちは消せないけれど、善行だって消えないよ。だから誰かに壊されることなんて考えないで」
レオの言葉が少しずつ私の不安を溶かしていく。
「あ、ありがとうございます」
「まだ不安ある?」
「えっと、ないですけど……」
「じゃあ付き合う?」
「えぇ……でも私の好きってレオの好きと同じか分からないですし」
「違っててもいいよ。っていうか好きの気持ちなんて人それぞれでしょ」
私は重要な問題だと思っていたのに、レオはなんでもないことのように言う。でもレオが言うと、そうなのかもと思えてくるから不思議だ。
「……レオ、なんだか性格が変わってませんか?」
「そうかな? だって好きな子と付き合えるチャンスは逃したくないでしょ。ソフィアは俺のこと好きみたいだし、こういう時は押した方が良いかなーって」
「なっ!……そ、うですけど! ……分かりました、よろしくお願いします」
ちょっと意地悪そうに笑うレオにこれまでとは違った一面を垣間見た気がする。でも、全然嫌じゃなかった。
「うん、よろしくね」
再び差し出された手をしっかりと握りしめる。さっきまでとは違ってドキドキに安心感が追加された気がした。
レオと付き合うことになってからも、日常が大きく変わることはなかった。もちろんジョナスさんには報告したけれど、分かってたかのような反応をされた。
「収まるところに収まったな。跡継ぎが決まって安心だ」
なんて言われる始末だ。もう本当にジョナスさんには一生敵わないだろうと思い知らされた。
これからの人生どうなるか分からないけれど、レオと一緒に乗り越えたいと思う。私は貴族の道を外れてしまったけれど、後悔や未練はなくなった。これからはブラウン宝飾店のソフィアとして胸をはって生きていこう。
「ソフィア、今度二人でほかの国に買い付けに行こう」
「えぇ、どこまでもお供します」
レオの手を取ると温かいぬくもりを感じた。
この手を離したくないな、なんて思ってしまった。
【完】
ここまで読んでくださってありがとうございました。
本編はこれにて完結となります。
連載中の星、ハート、フォロー等ありがとうございました。
この後番外編として、四話ほど予定しています。
もう少しだけお付き合いください。
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