第2話 選定クエスト




 

 ハンターは基本的にギルドでクエストを受ける。

 そしてそのクエストにはランクがあり、下から一般選定クエスト、専門選定クエスト、上級専門選定クエストの三つがある。

 ただこの三つよりも上に特殊選定クエストと呼ばれる国家レベルの武力または機密を扱うクエストがあり、今回の案件はまさにそれだ。

 だいたい何故団長はこんなやばいクエストを持ってきたんだ?

 もしかして悪質なイタズラとか?もはやそれの方が嬉しいまである。



「まぁまぁ落ち着けって、これはただの少女の護衛だよ、だいたいランクで言えば一般選定くらいだろう」

「いやいや王族ってさっき言ってたじゃないですか!」

「え、そんなこと言ったか?覚えてないなぁ」


 そう言って団長は俺からわざとらしく目を逸らし下手くそな口笛を吹いた。

 しかし王族の護衛か……普通に考えて危険があるし断るのが正解だよな……。

 でも報酬は絶対いいよな、ここは話だけでも聞いてみる価値はあるかもな。


「団長、受けるか受けないかは別として報酬金ってどんなもんなんですか?」

「え、報酬?そりゃあ一般選定だからな、たいしてでないぞ、ただギルドからは少ないかもだが護衛対象者からの恩賞とかはあるかもなぁ」


 団長は俺達から目を逸らしたままそう言った。

 何が一般前提で報酬が出ないだ、恩賞もらえる時点で護衛対象者が偉い人なのは間違いない。

 そもそも上級専門選定くらすじゃ恩賞なんて基本もらえないし……。

 

「団長、純粋に気になるんだけどこの依頼断るとどうなるの?」

「ん?それはな軍曹、この依頼は破棄される」

「破棄だって!おいユウキこの依頼受けようよ」

「え、急にどうしたんだよ?」


 団長から自分達が断ると依頼が破棄されると聞いた軍曹は、何を思ったのか依頼を受けようと言ってきた。

 

「だってこれじゃあせっかく困ってて依頼来てくれた人を追い返す事になるんだよ、そんなの可哀想だよ」

「あ、ま、まぁそうだな」


 軍曹はまっすぐな目で俺を見てそう言った。

 いや実際その通りなんだけどさ、こっちも死ぬリスクとかあるわけだし、つか今回はその確率は結構高いと思う。


「団長!受けます、俺たちその人を護衛します」

「おい!何勝手に受けるとか言ってーー」

「おお!よく言ってくれた軍曹、私も厄介ごと……ゴホン、この可哀想な案件を受けてくれて嬉しいよ」


 そう言って団長は軍曹の方をポンと叩いた。

 なんか受けることになってしまった……。


「それじゃ詳しい話は明日するからまた来てくれ〜」


 そう言って団長は足早に去っていった。

 うーん、なんかヤバい案件を抱えてしまったな。

 

「お前さぁ少しは怪しいとか思わなかったわけ?」

「なんで?困ってる人がいたら助けるのは当たり前だろ」

「そりゃそうなんだけどさ」


 自信満々にそう言う軍曹。

 軍曹には悪いが今回の案件には何か裏がある気がするんだよなぁ。

 


ーー翌朝



「よぉ……ってなんだお前一人か?」

「軍曹はこの時間教会に行ってるから、俺一人で来ました」

「そうか、まぁいいや話を始めるぞ」


 翌朝、俺がギルドへ行くと団長とその横に15歳くらいの少女が俺を待っていた。


「団長、その子が護衛対象ですか?」

「おう、エリシアさんだ」

「エリシアと言います、この度は依頼を受けてくれてありがとうございます」

「ユウキです、よろしくお願いします」


 団長に紹介されるとエリシアさんは深々とお辞儀をした。

 綺麗な緑色の瞳に艶やかな髪、顔立ちも良いし気品もある。

 言われれば王族っぽいけど、服装は町娘って感じがするしこれなら意外と気がつかれないかもな。


「おいおい随分淡白な挨拶だな、もっとかましていけよユウキ」

「いや、初対面なんてだいたいこれくらいでしょ、つかかますとかなんですかそれ?」

「まぁいいわ、エリシアさんそんじゃあとはこいつの指示に従ってね」

「はい!」

「え?」


 そうして団長はギルドの奥に行ってしまった。

 

「あの、この後はどうするんですか?」

「……ちょっと待ってください、考えます」


 団長が去り、エリシアさんが俺の方へ寄ってきてそう訊いてきた。

 この後?いやいや知らん、マジで知らん。

 どうする団長追っかけてちゃんと説明してもらえるように頼むか。

 つか説明を始めるとか言ってなんも説明なしってなにこれパワハラ?


「とりあえずエリシアさんはここで待っててください……ってエリシアさん?」


 気がつくとエリシアさんはいなくなっていた。

 っておいおいどこいった。


「た、助けてー!ユウキさん!」

「げへへ、エスタリア王国第三公女ゲットだぜ」


 声のする方を見ると大柄な男にエリシアさんが攫われていた。

 おいおい開始早々ゲームセットとか勘弁しろよな。


「魔力解放ー速力強化韋駄天


 俺はエリシアさんを追うため身体強化の魔法を発動させた。

 韋駄天は速力強化魔法の一つで、瞬間的に自身の速度を通常の4倍にする魔法である。

 韋駄天のお陰で俺は、すぐにエリシアさんに追いつくことができた。


「ユウキさん!」

「うわっなんだよお前」

「それはこっちの台詞だよ」


 追いつくと俺は大柄な男の前に立ち道を塞いだ。


「へへ、なんだお前お嬢さんの護衛か?」

「断るつもりではいたけど、結果的にそうなった者だ」

「なんだよお前も押し付けられた口か、そこは同じだな」


 とりあえず動きは止めた、次はこいつからエリシアさんを引き剥がさないとな。


「魔力解放ー引力支配グラビティ

「な、なんだこれ引き寄せられる」


 グラビティは対象を設定し、その対象を引き寄せたり、吹っ飛ばしたりできる魔法である。

 

「エリシアさんを返してもらうぞ」

「ぬわっ」


 対象をエリシアさんに設定したので、うまく大柄な男からエリシアさんだけを回収する事に成功し、大柄な男から回収したエリシアさんを俺は両手でキャッチした。


「あ、ありがとうございます」

「ちょっとここで待ってろ、あいつを捕まえてくる」

「え、はい」


 キャッチしたエリシアさんを地面に置いて俺は眼前の男に向き合った。


「おっさんはどこの誰だ?」

「言えねぇな」

「なら吐かせるまでだ」


 俺がそう言うとおっさんは腰からナイフを取り出した。

 はぁ、なんか嵌められてる感じするけどここは戦うしかないよなぁ。


 

 

 

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同郷の異世界人 神崎あら @takemitsu

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