祈夏

夏空汐

祈夏

つま先でさざなみを蹴る娘らがかつて波間の泡だった頃


海と成る、この身がいずれ消えゆけばおいでとまねく潮騒のまま


打ち寄せた静かな波にくすぐられ舞い上がる砂のひとつがわたし


海上で波打つひかりの粒が生む橋を渡ればきみに会えるか


我々を呼びし汀の鏡面はいつかに開くおかえりの門


砂と海の境界の泡立ちが弾ける頃に深く眠ろう


きみが眠りにつくときまでに薔薇色の真珠になって永久を待つから


砂浜に誰かがつけた足跡の内へと月が落ちてゆきます


そのドアの隙間から夏は来ないのに良く知る海のさざなみが鳴る


ゆく船が生む雲のごと白波に立つわれは天上に遊べり


ソーダ水の弾ける音に包まれて耳奥で波の火花が燃ゆる


この肺が膨む速度で揺らぎ浮く銀の鱗に月を垣間見


指で梳く髪の先から砂と潮ざらり、心臓の右のいたみ


まどろみて後部座席で潜水を始める夜に内包されゆく


逝く夏の送り火として散らしたる火花は精霊たちのまたたき


墨染めのたそがれだけが記憶する昔日の理想郷は夢跡


外房の列車に揺れるおやすみの乙女たちへ、いま健やかであれ


週の真ん中で飛び乗る寄りみちの終着点に望むは渚


祈り満つ葉月の朝にひかり降る、誰しもに祝福があらんと


ふつと蝋燭を吹き消す唇の形が問うた祈りのありか

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祈夏 夏空汐 @shio_oO

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