神ガカリ

真っ逆さま

第1話 十三人目の呪い編  聖 空夜

   十三人目の呪い編


     聖 空夜


「止めてくれ……、助けて……。もう二度としないから……。君のことをイジメないから……。だから……ロッカーにボクの身体を引きずり込むのは止めてくれッ‼ 空夜君!」

 泣き叫び、憐みを請う声から逃れるよう、ボクは耳をふさぎ、目を閉じた。

 ミシミシ……、ピシッ!

 骨がくだけ、皮膚が裂ける音――。

 教室の後ろ、カバンを入れておくロッカーに、丁寧に、一人ずつ十二人が収まっている。

 無論、人が入ることができるスペースではなく、無理やり押しこまれ、粉骨砕身という言葉がぴたりとくる。

 死んではいない。あるロッカーからは呻き声が上がり。あるロッカーから飛びだす腕は、助けを請うよう手招きをする。顔が外を向くと、目玉がぎょろぎょろと動くのが見えた。

 最後の一人も泣きじゃくっていたが、やがて一瞬の悲鳴の後、静かになった。

 ボクを虐めていた十三人――。殺してやりたい……そう思ったこともある。でも彼らがロッカーの中にいるのをみて、憐みすら覚えた。でも、もう取り返しがつくことではない。

 ボクが彼らを〝匣〟に収めたのだ……。


 ボクは、箱は箱でもブタ箱にいた。取調室――。

「君が十三人をロッカーに詰めこんで、半殺しにした極悪犯かい?」

 そこに男が一人、入ってきた。

 顔全体を凹凸の少ない、のっぺりとした真白なマスクで覆う。目や口すら開いておらず、声がくぐもって聞こえる。

 警察官には似つかわしくない上等なスーツだが、ポケットに手をつっこみ、不遜な態度で見下ろしてくる。

「心臓を潰さないなんて……几帳面なんだね、君」

 ……そこ?

「ボク……じゃありません」

「分かる! 分かるよ~。自分が為したことでも、信じたくないことは、否定したくなるよね。でも、素直に認めないと、ここから出られないよ」

 こいつも他の警官と同じ……。

「おいおい。物騒なモノは引っこめてくれ。私は君の味方だよ」

 白面の男は、ボクと目を合わせず、背後をみるようにしてそういった。

「君自身が、いじめっ子に手を下した……とは考えていない。人間業でできることではないからね。

 でも、君にとり憑く〝神〟がそれを為した場合、それは君のせい……と言えるのでは?」


「……カミ? 悪魔では?」

「何かがとり憑く……との自覚はあるんだね。それが分かっているなら、十分なんだけど……。誤解はよくないね。

 とり憑くモノが君にとって有益なら、それは〝神〟だよ。君の望みを叶える代わりに、献身や奉仕、お布施などを求めてくるのなら、それは須らく〝悪魔〟だ。

 つまり、この世界にあるすべての宗教が奉じる〝神〟とやらは、ほとんど悪魔なんだよ」

 挑発的に、白面の男はそう言った。

「君は、君にとり憑く神との付き合いを学ばないといけない。鬮学園でね」

「くじ……学園?」

「おっと、自己紹介がまだだったね」

 白面の男はポケットから手をだすと、そこに名詞があった。「私は学校法人・鬮学園の教師、御代木 箔――。君をスカウトに来た」


「また……学校に通えるんですか?」

「そうだよ。むしろ、君は色々と学ばないといけない。神との付き合い方、向き合い方を……。

 だからさっさと罪をみとめ、仮釈を得て、こんなところからはオサラバしようじゃないか。神をこんなところに縛りつけておくのは、不敬の極み――。だよ」

 白面の男――、御代木は、ボクにとり憑いたモノがみえた上で、それを〝神〟と呼んだ。

 ボクには化け物にしか見えないし、ボクを前科者とし、友人や家族すら失ったけれど、それを『有益』だという。

 怪しいけれど、ボクには他に選択肢がなかった。だから通うことにしたんだ。学校法人・鬮学園に……。

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