第7話 作戦会議
「ほおー。はあー。うわあー。」
プラム王女はヒヨコ丸内部の操縦室を見て、しきりに感心していた。金色の綺麗で大きな目が好奇心いっぱいで爛々と輝いていた。
(こういうところは普通の子どもにしか見えないがなあ。)
「ボタンとかレバーとか、触らないでくださいね。」
「もうさわったぞ。」
『煙幕展開!』
モニターに白い煙が映り、みるみるその量は増えていった。
「煙幕中止! 光学迷彩中に煙幕をはる意味ない!」
『だって、ボタンを押すから。今のも請求書にいれておきますからね。』
俺は王女の顔色をうかがった。
「かまわぬ。わが王国をとりもどしたら、いくらでも好きなだけの代金をはらってやる。」
王女は副操縦席の上でふんぞり返った。ヒヨコ丸が小音で俺に話しかけてきた。
(良い金ヅルですね。よく手なずけましたね。絶対に離さないでくださいよ。)
(わかってる。)
両親を奪われて故国を追われた子どもを金ヅルとは違和感しかなかったが、営業である俺は心を鬼にするしかなかった。
「それに、金だけではないぞ。最高の報酬もあるからな。楽しみにしておけ。」
「最高の報酬?」
「目の前におるではないか。」
王女は座席の上で細い足を組み、くくっていた髪を解いた。
「どうだ?」
「はあ…。」
俺はこみあげてくる笑いを必死でおさえた。ヒヨコ丸も無音で耐えているに違いなかった。
王女の精一杯の背伸びに俺は真剣に向き合わなかったが、それが彼女の逆鱗に触れてしまった。
「お主、今、笑ったな。」
「い、いえ。そんな、滅相もないです。」
「我は真剣なのに。もういい!」
王女はリクライニングシートを最大限に倒すと、横になってそっぽを向いてしまった。
しばらくしても王女の機嫌がなおる様子がないので、不安になった俺は話題を変えようとこころみた。
「それにしても、お客様はいったいどうやって弊社のことをお知りになったのですか?」
王女は跳ね起きると、俺に折りたたんでいたA4くらいの紙を差し出した。
「これだ! このチラシを拾ったのだ! まさかこんな便利なサービスがあるとはな。」
チラシはカラー印刷でヒヨコ丸の写真がでかでかと載っていた。俺はチラシを読み上げた。
『困難な野望の実現や、強大な敵にお困りのみなさまに朗報です! 弊社が無敵の戦車でお客様をお助けいたします。親切な営業員が同行いたします。明朗会計。料金のお問い合わせやお申込みはこちら…』
『僕、かっこよく撮れてるでしょ。えへへ。』
俺の入った会社はこんなあやしいチラシをあちこちの異世界にばらまいているのか、と思うと俺はおおいにあきれた。
そう思っている自分もあやしいチラシにつられて戦車屋に就職したことを思い出し、俺は自分を恥じた。
「半信半疑だったがな。お主らが実際に来てくれたので心強いぞ。」
『その通りです。火縄銃すらないこのファンタジー系異世界において、対戦車ロケットさえ通用しない僕は神のごとく無敵です。』
いばりくさるヒヨコ丸にむかついた俺は意地悪が言いたくなった。
「大事なことを忘れてないか? こういう世界にはたしかモンスターもいるし、強力な魔法とかもあるだろ?」
王女もうなずいた。
「たしかにな。ヒヨコ丸と申したか。この金属の箱はかなり頑丈そうだが、大丈夫か?」
『僕を誰だと思ってるのですか? 最新鋭の重装甲機動強襲戦闘車輌ですよ。魔法もしょせんは精神の力で生み出される火や電撃などの物理攻撃です。僕の可変複合装甲には通用しません。精神攻撃も完全に無効です。僕の攻撃にいたっては…』
「わかった、わかった!」
ヒヨコ丸の長話にウンザリした俺は、ポカンとしている王女に話をふった。
「ところで、どこへ向かっているのでしたっけ?」
「あ、ああ。森林王都ライプチッヒの手前、要衝マントバ台地だ。わが王国を奪った魔王・ダークエルフ連合軍が布陣しておる。」
王女は言うのも汚らわしいという様子だった。
「布陣?」
「うん、実はもう戦線布告はしておいた。」
「そ、そうですか…。で、敵軍の数は?」
王女は腕組みをして考える姿勢になった。
「そうだなあ。まあ少なく見積もっても10万くらいかの。たいしたことないであろう?」
俺は正気を保つのが困難になってきていた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます