千なる黒山羊の閨で
第60話 黒と黒の戦い
「
マツリカと三間坂シィの戦いは空中戦で幕を開ける。
革命器・薄墨丸を抜き放ち、黒球を召喚。すぐさま迎撃態勢を取る。
DDDMの受付嬢であるはずの三間坂シィが突然襲ってきたことも驚いたたけれど、それに戸惑うよりも先に、マツリカは腹の底から上ってくる嫌悪感、忌避感、生物的恐怖によって戦闘態勢を取った。いや取らされた。
『ガガ、ピー! 配信を始めマス。配信が開始されまシタ。チャンネルの登録をお願いいたしマス。本日のゲストは、人気女子高生探索者、庭マツリカさんデス』
三間坂シィの周囲を飛び回る撮影ドローン及び、コメント表示用ドローンがマツリカの方を向く。元々は視認性を高める為に、赤や金など派手な色で塗られたドローンだった。が、今は全機漆黒だった。金属の光沢は無く、光を逃がさないねっとりとした黒のドローン。プロペラなど回っていない。それなのに、重力など存在しないかの如くゆらゆらと揺れる。
それが、マツリカの周囲に飛来するのだ。
COMMENT――――――――
onair-now
-マツリカちゃんキター!
-jk! jk! jk!ヽ(^o^)丿ヽ(^o^)丿
-わっふるわっふる
-美少女狩りじゃー!
-やれー、ぶっちめろー、ぶったおせー
-美少女剣士をいたぶる展開、ふふふ、正直勃〇しちゃいますお(^ω^)……
――――――――――――――――
コメントドローンには、いつもの配信のように悪ふざけじみたコメントが流れるけれど、決定的に違う点が一つ。明確にマツリカを敵として認識していた。
―――――――――――――――――
-庭マツリカってさ、実際、キモくない? アイツ言動おかしいよ
-それよ。違和感あったな。穴掘りのついでに偶然助けられただけだろ。それが勘違いしちゃってさ。弟子? 完全に押しかけだったよな
-アサヒニキも迷惑がってたぞ
-有名配信者と接点できたからって、必死乙
-おい言ってやるなよ。人気が欲しかったんだよ。
-実際雑魚だったしな。美少女JK配信者とか言われて調子乗ってたけどケルベロスごときに殺されかけてたし
――――――――――――――――――
「くっ――!」
次々と飛来するドローンを切り捨て、黒球で撃ち落としながらも、なぜかコメント欄が目につく。戦闘中にあんなもの読んでいる暇などないはずなのに、勝手に目に入ってくるのだ。
「ああ、うっとおしいですよ! 黒球、フォーメーション伍!
黒球を集め、突っ込ませる。一斉攻撃を浴びたコメント表示ドローンはたまらず爆散し、地に落ちる。だが次の瞬間、残骸は液体に変じ沼となり、そこからまた新たなドローンが生まれた。
――――――――――――――――――――
-雑魚ざぁこ
-アサヒニキが居なきゃやっぱ弱いな~www
-ダンジョンに制服着てきてるのが、あざといわ
-なんなん黒セーラーって(笑)
――――――――――――――――――――
「くそっ!」
こいつら、京都でお師匠さんたちが戦ってたのと同じもの!
マツリカは理解する。ドローンの群れの奥でニタニタと笑う、三間坂シィ。三間坂シィだと思っていた者。その正体が何であったのか。
「みんなを騙してたのですか!?」
コメントのせいだろうか。苛立ちが止まらない。冷静になれない。
「いえ、いえいえいえー。そういうわけではないのですよ。そうじゃないんですよー。私はちゃんとDDDMのお仕事をしていましたよー。ただ別の仕事も平行してやっていたと言うだけでー。あ、ドローン減って来ちゃいましたね。もう少し追加しておきますねー」
彼女が指を弾くと、背中から新たなドローンが出現する。
マツリカも覚えていた。あのドローンは確かに、探索者になった初日にシィがくれたものだ。その時もああやって、どこからともなく取り出していたけれど――。
「それ、明らかに人間の力じゃないですよね……。シィさんは、今までの私たちが接していたシィさんは
「はい。私は三間坂シィですよー、今までもずっと。これからもずっと。虚神ナイアルラトホテプでもあるというだけでー。ほら、私ってよく言われるじゃないですかー。マツリカさん知ってますー? 会員さんがよく言う、私の悪口」
「なにそれ……?」
「『君、裏ボスっぽいね』とか、『催眠術使える?』とか『一番いい時に裏切りそう』とか。――今がその、一番いい時なんですよー」
ねとりと。ひんやりとしたものが足に触れる。
いつの間にか、眼下に黒い沼が忍び寄っていた。それがマツリカの足をからめとっている。
「このっ!」
足元を切り払う。黒沼は消滅する。だが。
「次は、うえから参りまーすー」
ドローンの急降下。とっさに放った黒球で相殺。だが態勢は大きく崩れている。
「まだまだー、ドローンは無限にありますよー」
「う、ううう――ッ!」
相殺、相殺、相殺。次第に押されていく。
―――――――――――――――――――
-わっふるわっふる!
-ぬーがーせ、ぬーがーせー
-ドローン自爆攻撃最高だな
-配信とかじゃなくて、これで魔物狩ればいいのになー
――――――――――――――――――—
次々に叩き込まれる攻撃にマツリカは徐々に追い詰められていいた。
ドローンはマツリカのそばで爆発する戦法に変えたらしく、破片が容赦なく彼女の身体に食い込んだ。黒セーラーがあちこち破れ白い肌が露わになっていた。その肌にもいくつもの血が滲んでいる。痛い。熱い。いくつか火傷もしている。
でも、まだ――。
「あ、壁が」
後退を余儀なくされたマツリカの背が、異界と変じた病院の壁にたどり着く。囲まれた、これ以上下がれない。
「あらあらあらー、もう終わりですかぁー? 案外早い決着で。やはり弱いですねぇ。幻想器以外はいまいちですー。もう少し善戦してくれると思ったのですがー」
「うる、さい! パクパク!」
実のところ、これを待っていたという面もある。三間坂シィは追い詰められたマツリカに対し無防備に歩を進めていた。一撃必殺の間合いに入ったことを確認し、前方に向けて駆け出す。
先制とばかりに黒球を貪食モードで放った。すべてを喰らい虚無に落とす薄墨丸の本領だ。黒球が
「このぉぉおおお! 黒刀、一閃んん――――!!」
薄墨丸の存在浸食の力を全開にしつつ、刃を走らせ、その刀身がシィの身に届く――!
「あららー、止まっちゃいましたねー。そりゃそうですよー。その力、私のですよー?」
乾坤一擲の一撃は、三間坂シィの肩口に打ち込まれたはずだった。だが止まっている。浸食は無効。相手も同様の力を持っているから。刃とシィの間の空間に闇が凝っている。
「じゃあ、お返しですー。私がー、たべちゃいーますねー」
シィが両手を広げるとが生まれる。その闇がマツリカを飲み込もうとするとき――。
「かーぜーと共に――ィ、
「て、りゃああああああああ―――――――――――――――!!」
風が吹いた。風。ドクターの暴風だ。それに乗って、もう一人の革命器の使い手、曽我咲シノンが突っ込んで来る。
鞘に納めたショートソードは、白銀。それが尋常ではない光をはなつ。
それは深淵にて彷徨う木偶と化した、大いなる存在。虚神と対をなす上位存在。旧神とか、光の巨人とか呼ばれているモノ。ノーデンス。その力を借りた剣だ。
「マツリカさんが戦ってくれたおかげで、たくさん溜めれましたわ! わたくしの
異界の廊下。直線距離にして100メートル。それをロケットのごとくかっとぶ曽我咲シノンは見る間に三間坂シィに肉薄する。
革命器
「てりゃああああああ!! 往生なさいましぃぃいい!!」
「シィさん、動いちゃ駄目ですからね!」
マツリカがシィをつかむ。シノンが迫る。
ほとばしる光の剛剣が、三間坂シィの身体を両断したのは次の瞬間だった。
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