第20話 ショゴスプレイ、再び

「い、やぁあぁ!? うねうねが、うねうねが絡みついてぇ!」


 ―――――――――――――――

 -シノンちゃんの触手プレイキタ―――!!

 -ちょっと男子ぃ! エッチなのは駄目……あ、治療行為でしたねこれ。ならおっけい!

 -シノンちゃんめっちゃスタイルええから、凌辱りょうじょくシーン映える。おっぱいくっそでかい。あ、治療行為でしたね。わかってますよハイ(正座)

 -ワッフルワッフル、ワッフルワッフル!

 -めっちゃエロい、めっちゃそそる

 -奉仕じゃ、奉仕の時間じゃ――!

 -ぐちょねちょにしたってや(*´ω`*) 

 -あれは治療行為……、そう治療行為ですから大丈夫、大丈夫……ですよね?? (クレチャ10,000円)

 ―――――――――――――――


「ひ、ひぃぃい! なんですかこれ!? こわい、やだ、やぁあ――、あ、あああ、うぁあああ、く、うう……」


 ショゴスプールに投げ込まれたシノンちゃんは拘束されて、不定形ゼリーの中に沈んだ。バタバタと逃げようともがいているが、あっという間に全身を覆われる。


 今気づいたが、腰には迷宮宝具っぽい剣が下がったままだな。あれを抜かれると危ないか? いや大丈夫だな。パニくってそれどころじゃなさそう。もともと瀕死だったし、抜いても大した抵抗できないだろ。


「ん、んんんっ!?」


 そんなことを思っているうちに、シノンちゃんの口に触手がぶち込まれた。

 叫ぶこともできず口もふさがれて涙目だ。うーうー唸っているが、体は全く動かない。ショゴスたちのなすがままに、粘液の中、揺蕩たゆたう。

 

 ん、ショゴスたちの様子がなんか変だな。

 動きを止めて、ちょっと考え込んでるか? ――と思ったら、針みたい器官が、シノンちゃんの首筋に突き刺さった。


「いぎゅっ!? い、いい~~~!!?」


 おお、痙攣けいれんしてるなぁ。

 あ、白目むいた。落ちたか。早かったな。


『あ、あれ、大丈夫なんですかアサヒさんー? 彼女、泡吹いてましたけどー……』


 めちゃくちゃ心配そうな顔をしているシィさんにも説明しなくちゃな。

 あれはショゴスが神経毒をぶち込んだ結果だ。重症だと判断した場合、奴らは対象を眠らせる。その時に使うのが、麻酔に似た毒だ。


 もちろん安全だ。治療が終わったころには副作用もなくすっかり抜けていることだろう。その間、体はやつらのなされるがまま。それこそ腹の中までメンテされる。古き神に作られた奉仕種族は伊達じゃない。終わったときには身体のダメージは嘘みたいに消えているはずだ。

 

「懐かしいですねぇ。あのショゴス麻酔は本当に効きがいい。採取したものを地上で実験しましたがね、あの地球上最大のシロナガスクジラですらも一撃で昏倒しましたな」


 そういえば、体が無事だったころのドクターは、探索者部隊の医務いむ担当だった。深淵を旅するついでに、いろんな素材を集めては人体実験してたっけな。


 ショゴスは本当に深淵の癒しで、体液は治療に使える薬になるし、あの麻酔も戦いに使える。俺にショゴスの鳴きまねを教えてくれたのもドクターだった。


「なぁドクター、どれくらいかかると思う?」

「そうですなぁ。内臓に、特に肺にダメージがいってましたからな。半分以上腐っている。なので、全治2時間ってところですかな」


「結構かかるな……。あと肺だって? 彼女をやったのはツァトゥグアじゃないのか」

「違いますな。それまでに我々は襲われたのですよ。風の精ですな。彼女と他の探索者が応戦しましたな。結果はおして知るべしですが」


 風の精……?

 深淵アビスの空を飛び回るそれならば知っている。だがあいつら相手に死にかける? そんなの……


「ドクター、あんたまたサボっただろ」

「ふむ。なぜに?」

「あんたがいたら、こうはならんだろ。わざと手抜きやがったな。人死んでるんだけど」

「人聞きが悪いですな。私には私の思惑があったのですよ。思ったよりもあの子が使えなかったにすぎませんな。それに殺られたのはツァトゥグアにですな。私には関係ない」

「目的のためなら何でもやるの、止めたほうがいいぜ」

「偉大なる成果のためには、倫理など鼻を拭いたちり紙ほどの価値もありませんな」

「そういうとこだぞ、そういうとこ……」


 二年前とちっとも変わらないドクターに顔をしかめる。犠牲者も出てるってのに。本当に最悪な人格をしてやがる。


 曽我咲シノンは曽我咲インダストリのご令嬢で、ドクターは研究員かつ、彼女の師匠だという。ショゴスの中で身体をいじくられ、ビクンビクンと跳ねる彼女を眺める。


 あの子もずいぶん苦労してるみたいだな。


 ―――――――――――――――――――

 -●REC (●ω●)

 -すげー、SFみてぇ、玉虫色できれい

 -眠れるスライムの中の美少女

 -水槽の中の女の子って、ニッチだけどいいな。培養中って感じ

 -新たな性癖の扉が開く

 -裸なら最高だった

 -それじゃ、一般回線で流せない気が……

 -アウトじゃないのがすでにあたおか

 -曽我咲の社長、この放送見てたらDDDMつぶされるんじゃね?

 -DDDMなんでもありすぎるよぉ

 ――――――――――――――――――――



 ◆◆◆

 


「ひどいですわ、ひどいですわ、こんなのってあんまりですわ!!」


 2時間後、ショゴスから解放された彼女は涙目で俺を殴りつけていた。


「なんで、なんで、説明してくれなかったんですの!! 怖かった! 私すごく怖かったんですよっ!!!」


 治療のためだったという説明はしたが、納得してもらえない。

 先にしとけって話は分かる。だけどな、わりと急がないとヤバい容体だったし……。そう思いながら、ちらりとドローンのコメント欄を見る。


 ――――――――――――――――――――――

 -お師匠さんは、私の時も説明なかったです。たぶんそういう趣味なんです

 -確かにマツリカちゃんの時も嬉々として眺めてたな

 -アサヒニキサイコパス説

 -女の子が怯えてる姿が好きなんだろ

 -勃〇してそう

 -女の子殴ってそう

 -ゲスい

 -最低? いや、視聴者的には最高だ。あ、殴るのはやめてあげて

 -ニキは殴らんだろ。優しいよ彼。ただ変態なだけで

 -視聴者サービスは完備やな。ニキの放送はこれからも見るわ

 ――――――――――――――――――――


 さんざんな言われようだ。

 しょうがないじゃん。ショゴス責め見てると癖になるんだよ。怯え顔がサイコー。


「そ、それよりもだ。シノンちゃん洞くつに入る前に襲われたんだって? そいつのことを教えてくれないか?」


 ―――――――――――――――――

 -ニキが逃げた!

 -否定しない、やっぱっコイツ変態やわ

 -もうバレバレやで。2時間ずっと眺めとったしな

 ―――――――――――――――――


 ええいうるさい。


「大事なことなんだ。何に襲われた? どんな形してた? 色は何色だった?」

「そ、そんなの今はどうでもいいじゃないですか? それよりも、それよりも~~~っ」


 怒り心頭のシノンちゃんを落ち着かせながら、俺はいう。


「いや、大事なことなんだ。なんでかっていうと――」



『いた、いたいた板多々多々た』


『イタよ、イたヨ! 弱イ弱イ人間た血だ』


『怯えええっえっえ、恐れぇっえっえっえ、地に伏せてぇ~~~』


 げらげらと

 声が

 降ってくる



「ひ、ひぃ! いや、いやああ! あの声、あの光、――空に、空にぃ!!」



 天を見あげたシノンちゃんが、そそる怯え声を出して絶望していた。今日一で、ぐっとくる悲鳴だった。

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