綿毛ちゃんと夜の子の恋

はる

茉莉花は完璧

 茉莉花は完璧な少女だ。明るい、うねるような茶髪に、利発そうな瞳。肌はぬけるように白く、口元はいつも微笑んでいる。私は彼女の月のようなものだ。目立たず、大人しくじっとしている、彼女の蔭。私がそう思っていることを茉莉花は知らない。

「柚希、音楽室行こ〜」

 茉莉花がそう私に言った。きらきらした瞳に私が映っているのだろう。

「いいわよ」

 椅子を引いて立ち上がる。茉莉花は弾む足取りで、私の隣を歩いている。

「柚希、今日も可愛いねぇ」

 頭を撫でられる。私はその手をさりげなくかわした。

「そんなことないわよ」

 じっと見つめられる。

「柚希は可愛いんだよ」

 茉莉花は私のことを高く買いすぎだわ。

「さ、授業に遅れるわよ」

「可愛いって言ってるのにー」

 むーと膨れながら私の隣を歩く少女。幼いんだか大人なんだか分からない子。そんな彼女のことが好き。

 ふわふわな髪が歩くたびにぽわぽわと跳ねている。茉莉花に手を伸ばせば、触れられるのだろうか。全くそんな気はしないけど。

 少し先を歩く彼女の背を、そんなことを思いながらぼんやりと眺めていた。

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