未知


 ゴルディアーヌは造作もない容器を手から落とした。容器は地に砕けた。彼は、それを「美しい」とおもった。

 グルームは手作業を中断し、

「どうした」

「……未知の生命を感受した」

「何?」

「ここからそう離れていない。まるで霊的振動の塊だ。記録的な強度を維持しながら、少しずつ移動している……」

「どこに向かっている?」

「不明」

「そうか。しかしそれ程の霊的振動の持ち主が近くに現れたというのなら、一度は見学に行かないとな」

 グルームはうす笑いを浮べていいました。


 ついに彼らにとって未知の生命は少女の形をなして、「ただ好みの形を探して」いた。

 彼女を発見したゴルディアーヌは物陰からグルームとともに、彼女の様子をみました。

「本当にそこにいるのか?」

 グルームは目を凝らしました。

「いる」

「おれには見えないが……」

「いや、たしかにそこにいる。少女の形をしているが人間ではないだろう……」

 彼女は透明でした。小柄で、とても可愛らしい女の子でした。

「お前がそう言うのなら、本当にいるんだろう……。ゴルディアーヌ、おれはいままでこの目に見えるものが全てだと、そう思って生きてきた。しかしそれはおれの思い違いで、目には見えない生命や世界が存在した訳だ。こいつはおどろきだ。ゴルディアーヌ……、お前には世界がどう見えているんだ……?」


 グルームとゴルディアーヌは大きなエモノを見つけました。エモノはうっそりと立ち、まるで何かをそこで待っているようでした。

 霊的振動施条銃バイブレーションライフルをかまえて狙い、

「避けるなよ……」

 グルームは引き金を引きました。

 蒼い球体の霊的振動の塊は銃口から発し、尾を曳きながら、エモノ目がけて飛んで行きました。

 しかし、標的はうさんくさい動作でそれを躱し、ふたりの方へ、ずんずんと近づいて来ました。

「ヤバいぞ」

「見れば分かる!」

 接近されたグルームは、霊的振動施条銃を持った方の片腕を引きちぎられました……。

 グルームは、すぐさま痛み止めを肩に打ち込みました。

「ああ、チクショウ! 逃げろ、ゴルディアーヌ!」

 グラスは叫びました。

「しかし……」

 大柄な異相者はやはりうっそりと立ち――ふたりの挙動を眺めています。

「逃げろ!」

 ゴルディアーヌがためらっているなか、

「やめて!」

 どこからとなく姿を現した透明な少女が、あいだに入って止めようとしました。

 グルームはおどろいて四辺を見廻しました。

「何だ? 何がいる?」

 少女は両手を広げて、泣いていました。

「もうやめて!」

 大柄な異相者は、戦いは終わったとばかりに背を向けました。


 古い精霊が慕うような拠点で、ゴルディアーヌは起動しました。

「今日はどこへ行くんだ、グルーム」

 グルームは考え直したように、再び拳銃を頭部にあてがいました。

「ゴルディアーヌ。お前はもう自由だ……人間に旅することのできる宇宙のその狭さをせめて笑ってくれ」

「グルーム!」

 さし出す手の向うに、ゴルディアーヌの叫び声はひびわれて落ちゆきました……。



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