幼き恋の運命
蔵樹紗和
第1話 桜-花びら-
止むことなく落ちてくる、たくさんの桜の花びら。この道が鮮やかなピンクに染まっている。
ここの桜並木は私、
***
8年前。
「はるま君!! こっちこっち!!」
「まってよー、さくらちゃん!!」
桜の絨毯の上で走り回る、私と、「はるま君」。私たちはいつも一緒だった。学校から帰るときも、宿題をやるときも、遊ぶときも。一緒にいると、とても楽しかった。
——はるま君が、この町を離れるまでは。
ある日の学校での帰りの会。先生が、はるま君を前に立たせた。
「皆さん、今回、はるま君がご家庭の事情でお引っ越しをすることになりました」
「「「え……」」」
クラスメイトたちの声が詰まる。もちろん私も。そんなこと一度も聞いたことがない。だから、帰るときについつい言ってしまった。
「なんで……なんで私におしえてくれなかったの!?」
「なんでって……」
「もう、はるま君なんてしらない!」
私は、勢いよく走り出す。困った表情をしているはるま君を放っておいて。私は、全速力ではるま君がいなくなってしまうという現実から目を背けるように家へ逃げ帰ったのだった。
そして、はるま君が引っ越す当日。私たち一家は、はるま君一家を送り出すため、玄関の前に立っていた。
「元気でいてね。遥馬君」
私の母親が目線をはるま君に合わせてにっこりと笑う。私は、はるま君の顔が見たくなくて、うつむいていた。
はるま君が、こちらを心配そうに見ていてくれている。気づいているのに、気づいていないふりをする私。ずっとうつむいている私を見て、はるま君は一歩近づいてきた。
「さくらちゃん……」
「……」
「これ、持っていて」
「?」
私の顔の目の前に、小さな桜の枝が差し出される。そろそろ桜が落ち始めている桜の枝。あの桜並木の枝なのだろうか。私はこのときはじめてはるま君の顔をちゃんと見た。
「元気でね」
「あ……」
私に枝をしっかり握らせると、そのままはるま君は何も言わずに車に乗り込んでしまう。まだ、私は何も伝えられていないのに、はるま君は離れていってしまった。
私には、それがずーっと心の中で引っかかっている。辛いからなのか、涙が止まらない。どうしてもはるま君とは離れたくないという小さな気持ちがあったのだろう。桜の枝を握ったまま、私は母の胸の中で泣きじゃくった。
***
私は、高校生になった。今になってもあのとき感じた気持ちに、名前をつけることができないでいる。8年も経ってしまったからだろうか。この時期にならないと、彼との日々は思い出さない。
一人でだって、うまく笑える。生きていける。いつもそんな気持ちを胸に、この桜並木を通るようにしていた。——そうしないと、あのときのことを思い出して、また泣いてしまいそうだから。
「
「ううん。何でもない」
私の隣にいるのは、中学からの友だちで、今も同じクラスの
私は、
「そう。良かった」
「さくらちゃん!」
後ろから声をかけられる。聞いたことのない声だ。なぜ私の名前を知っているのだろう。
私は、後ろを振り向く。すると、ここにはいないはずの人物がいた。
「はるま……君?」
「そうだよ! さくらちゃん!」
そう。そこには、あのときの2倍くらいの身長になり、声も低くなったはるま君——
つづく
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