誤爆から始まる新たな関係

武 頼庵(藤谷 K介)

前編

※前書き


この物語は少し長くなりそうなので分割して掲載します。

少し未執筆期間があるのでリハビリがてら執筆している作品です。


作品内容的には『あるかも? ・ないかも?』になってるかも?(笑)※










 どこの学校にでもいるのが『マドンナ』と言われる存在で、それは主に容姿であったり成績であったり、はたまたずば抜けた運動能力であったり、一つでも人よりも抜きン出ているモノが有れば、それらを持っている女の子を憧れからか『マドンナ』という名詞が付く。

 そのマドンナにも○○のマドンナなどと、前に異名が付くこともあるが、得てしてそれは誰もが納得する名が付くので、本人はどう思っているかは別にしても、誰もがそれに異議を唱える事は無い。


 などというくだらない事を考えているのは、自分の横をすたすたと何も言わずに通り過ぎて行った一人の女の子の背中を見ながら思ってしまった事なのだ。

 

 時間はまだ朝の7時半を少し過ぎたばかりで、朝陽がちょっと頑張り始め、日差しを眩しく感じる中、地毛のままでも綺麗な栗色で腰にかかるほど長い髪が歩くたびに少し揺れる。揺れるたびにキラッと輝くその後ろ姿だけでも、何となく彼女が『マドンナ』と言われている事を納得させられる。


 そんな彼女の名前は前島瞳まえしまひとみ。両親は日本人なのだが、母方の先祖に欧州の血が入っていてその先祖返りからか前述した通り、髪は栗色で顔は小さくも纏まっており、瞳がやや大きく少しだけあおみかかっている。色白で運動など苦手そうな雰囲気を持っているけど、実はけっこう活発な方でバスケを小さい頃からしている。勿論勉強もできるし、気さくで話しやすい性格なので、その容姿等から学校ではモテモテである。


――ただ、俺以外には……という言葉が付くけどな。

 俺はすたすたと前を進んでいく後姿を見ながら小さくないため息をついた。


 俺が通う学校は、少しだけ勉強ができる人達が通う学校なのだが、自分でも選んだことを後悔するほどに、授業の内容が進むのが速い。

 周りは涼し気な顔をしながら授業を受ける景色を見ながら、俺、城田和真しろたかずまは大きなため息をついた。


「ちょっと……」

「はい?」

 授業中に声を掛けられるのは泣かない事なので、声を掛けて来た人の方へと顔を向ける。


「授業中にため息つかないでよ」

「えぇ~……そんなこと言われてもな……」

「うざっ」

 フンッ!! という感じに顔をそらす声の主こそ、学校のアイドル的存在その人である。


「こんな人が私の――」

「なんだよ?」

「え? あ、いや!! なんでもないわよ!!」

「そうですかぁ……」

 と、いう様な会話は時々ではあるけどする事が有る。


――いつからこんなことになったのか……。まぁ、あの時からなんだろうけど……。


 そもそもの話なのだが、実の事を言うとこのマドンナさんとは小学校時代の幼馴染なのである。とはいっても家が隣通しというようなこともなく、たまたま住んでいた場所が近所さんで通う学校が一緒だった。そんな関係ではあるのだが、近所であるからこそ時々は遊んだり、帰りが一緒になる事はあったけど、勿論そこには他に友達も一緒だったし、二人きりでなんて遊んだことも一緒に帰った事もない。


 更には小学校卒業と共に、地元の公立学校へとそのまま進学した俺と、私立の中学校へと進学した彼女と別々になった事で、俺達が普段会う事は無くなった。

 帰る時間がたまたま重なったり、朝の通学時間がたまたま重なったりでもしない限りは、顔を合わさない。併せても会釈するくらいでほぼ会話は無いまま中学生時代を過ごした。


 そんな事もあって、高校生の受験では少し頑張って入った学校で、まさか再会するとは思ってもみなかったのだ。しかもその再会の仕方が最悪だったからなのかとも思う。



 

――高校へと入学したその日。

 新しいクラスメイト達はほぼ知らない顔しかいない。勿論自分が通っていた中学校からも同じ学校へと進学してきた人もいるけど、他のクラスの子だったりするので、ほぼ初対面みたいなものだ。


 そんな中でひときわ目立つ容姿をした女の子がいた。少し前まで中学生だったとは思えないくらい大人びて見えたその女子は、誰かに見られているという事も気にせず、ただただ前をしっかりと見すえて、真面目に話に聞き入っていた。


 そんな存在が放っておかれるはずもなく、まずは学年中に知れ渡っていく。学年が同じでもクラスが違えばそんなに噂される事が無いと思っていたのだけど、時間が過ぎれば過ぎるほど、その存在は男子ばかりではなく女子からも話の端々に出てくる頻度が増えていった。


 更に彼女の事はことあるごとに注目されて行く。運動に関しては部活の中で、勉強の事では貼りだされる成績上位者として、しかも性格も良いらしく、その人柄に関しても良くない事を聞かないくらいに噂は広がって行った。


 そんな下地を積む様な一年間が過ぎ、二年生へと進級する季節がやってきて、クラス発表の名前を見にいった時には、その噂のマドンナと同じクラスになったと喜んでいる奴がいる中、俺も自分がどこになったのか喜ぶ人込みを掻き分けながら見にいくと、そのマドンナと同じクラスになっていたことを知る。


――おぉ!! あの子と一緒か!! 楽しくなりそうだな!!


 などと思っていたことが有りました……。

 現実は先ほどの会話からも分かる通り、他のクラスメイトにはかなり優しいのに、俺に関してはやたらと棘がある。


「なぁ……」

「…………」

「なぁってば――」

「何よ。話しかけないでよ」

「まだ怒ってんのか?」

「…………別に」

 こんな感じで、話しかければ話しかけたで、答えはしてくれるものの、『あなたとは話す事はありません』という様な感じで返される有様である。


――はぁ……。誰か席変わってくれねぇかな……。

 俺は俯いたまま大きなため息をついた。


「…………」

 黙って俺の方へと視線を向けている存在には気が付かないままで。






「和真」

「ん?」

 昼休みになって、購買へとパンを買いに行き、そのまま中庭のベンチで食べようと腰を下ろしたところに、一年生の時から友達になった東康太あずまこうたが弁当を片手に持ったまま話しかけながら近づいて来た。


「いっしょにいいか?」

「あぁ……もちろん」

 弁当を掲げてニコッと笑う康太に、座っていた場所を少し開けるように移動しながら答える。

 

「お前さぁ……」

「ん?」

 初めは他愛もない事を話しながら食べていたんだけど、そのうちにクラスメイトの誰と誰が付き合っているなんて話になり、マドンナはという話になり、ちょっと間をおいて康太が俺を見ながら話しかける。


「マドンナと何かあったのか?」

「え?」

「いやほら……お前にだけその……」

「あぁ……」

 クラスの中で俺だけがマドンナから冷たいというか、突き放されているような言動を取られているから、心配してくれているのだと思うが、実は面白半分な気もする。


 あまり人に言っていない事。マドンナと言われる女子と俺との関係をどう説明しようか迷う。


――まぁ、ちょっと誰かに聞いてもらった方が少しは楽になるかな……。

 そんな思いが湧いてきて、俺は康太に実は幼馴染といえる存在であることを話した。


「ん? でも何であそこまで……」

「あぁ……実はな――」







それは俺がクラス分けを見た後で、教室へ続く廊下を歩いている時の事――。


「あ、あの!!」

「ん?」

 声を掛けられたことに少し驚きながらも、声をした方へと振りむいた。その相手は俺の本当に数歩下がったところにいたのだけど、その相手を見た瞬間に声を出せなくなった。


「えっと……」

「…………」

「ひ、久しぶりね!!」

「…………は?」

 そんな声を掛けて来た相手というのが、何を隠そう学年の、いや既に学校のマドンナとも言われ始めている女子、前島瞳その人であった。


「え? 久しぶり? え?」

 俺はこの時、目の前にいる女の子が学年のマドンナとか言われている事は知っていたし、結構な頻度で先輩後輩から告白されているという噂も聞いていたことから、その存在が現実としているという事は知っていたけど、実際に彼女の名前は知らなかったのである。


「えぇ~っと……ごめん。誰かと間違えてないですか?

「え?」

 同じクラスだったわけでもないし、まして話なんてしたことが無かったので、俺は誰かと間違われていると思い、そう問い返したのだが、そんな俺の返事を聞いた彼女は大きく目を見開くと俺の顔をジトっとした目をして睨みつける。


「あ、あの……」

「あなた……」

「はい?」

「城田……和真……君でしょ?」

 ジトっとした目を向けたまま、俺の目の前で腕を組む彼女。


「そ、そうだけど。え? どこかであった事ありました……け?」

 返事をした瞬間に目の前の女の子がプルプルと震え出す。

 そして――。



「ばかぁ!!!! あんたなんて嫌いよ!!!!」

 廊下中――校舎中かもしれないけど――に響き渡るほどの大きな声でそう言い放つと、ドスドス!! という擬音が聞こえてきそうなほどの勢いで教室の中へ一人で歩いて行ってしまった。


「え? なに? 俺、何かした?」

 その後に俺は一人取り残されたのだが、廊下にいた人たちからの冷たい視線が体中に突き刺さった覚えがある。そして一人とぼとぼと静かに教室へと入っていった。


 その後に行われたホームルームにて、彼女の名前が判明する。しかも自分にも聞き覚えがある名前であった。



――という事が有ったんだよ。

 

 康太に少しばかり前の出来事を話し終えて俺はため息をついた。


「なるほど……。という事は、マドンナちゃんは忘れられていると思ったって事か?」

「う~ん……どうなんだろう? でもまぁ俺に怒っているのは間違いないんじゃないかな……」

「そうなのか……ふむ……」

「?」

 俺の話を聞いて康太は何やら考え事を始める。


「そういえばな……」

「ん?」

「マドンナちゃん、今までの告白を全部断ってるらしいぞ」

「へぇ……やっぱりモテモテなんだな」

「まぁそうなんだが……」

 康太が俺の方をジッと見つめる。


「なんだよ」

「いや……。まぁそういう事なら仕方ないよな」

「……康太、席変わってくれないか?」

「だめだ!! くじ引きは公平に行われたんだからな!!」

 俺は大きなため息をついた。

 実現在、マドンナが隣の席にいるのは本当に偶然なのだ。進級してから既にGWが過ぎて、クラスの人達にも慣れた頃だからという理由で、急に始まった席替えのくじ引きで、窓際一番後ろを確保できたのは嬉しかったのだが、俺の隣の席を引いたのが、そのマドンナ様だったのだ。


 もちろん男子たちからはうらやましがられもしたし、不正を疑われたりもしたが、先にクジ引きで席がきまっていたのは男子なのだから、不正も何もあったもんじゃない。酷い言いがかりである。


――それからがまた地獄なわけだけど……。

 何が地獄かというと、男子からは嫉妬などを向けられるし、隣りからの『話しかけないで』オーラが凄いのと、そのマドンナ様が俺に対する対応を見た女子達が、俺を遠巻きにし始めた事だ。地味に精神をがりがり削って来る。そんな毎日を最近では送っているのである。



 ようやく授業が終わり家についてゴロンとベッドに寝転んで、一人ため息をついているとスマホの着信音が鳴った。


 それはクラスの中で班になっている人達で作ったグループの物で、実の所その班というのが席の順という事になっている。つまり同じ班にはあの前島瞳がいる訳で、その班長も前島瞳である。


 何かあれば班長からのメッセージが送られてくることになっているのだが、俺は班の事に関してならば何かあれば勿論話に加わる。ただの連絡ならば返事をしただけで終わるのだが、この日送られて来たものは修学旅行に関するものであった。





 何なく決まって行く事を流し読みしながら、俺は大きなあくびをかみ殺す。


――ねむぃ……。

 この日はどのように行動していくかを話し合ったのだが、俺はだんだん眠気に負けてきてしまう。

 そして返事が出来なくなる前に、スマホを操作し、返事を書き込んだ。


『君が好きなように決めて良いよ。俺はそれに従うから』

――よし!! もう限界だ!! ねむ……。

 そのまま俺は夢の中へと落ちて行った。









『君が好き』





 しっかりと確認することもなく送ったそのメッセージが、今後どんな影響を及ぼすのかなんて、夢の中にいる俺には想像さえしていなかった。

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