第4話Ep6.活動報告/天宮寺


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【活動報告】


日時:四月二十六日


作成:問間覚


相談者:三年四組 下野春介(漫画研究部部長)


相談内容:

 三週間前に部員AとBが喧嘩して以来ふたりの仲が険悪になっている。部全体に影響が出てきているので仲直りさせたい。


結果:

 喧嘩した原因はAの尊敬する人物を連想させるキャラクターがBの作品内で悪役になっていたから。後日話し合いの場を設け、Aは謝罪、Bはそのキャラクターが活躍する作品を描くことで決着した。


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 漫画研究部員が退出するのを待って、カイが口を開く。

「でも、俺、なんか納得いかないんですけど。天狗が悪役になってただけでそんな怒ります? そういう漫画とかアニメは世の中にいっぱいあるじゃないですか。それにいちいち怒ってるんですかね、カオル先輩は」

「カオルくんだって、世の中の作品すべてに怒ってるわけじゃないと思いますよ。……たぶん。今回は『ユウヤくんが』そういう作品を描いたからあんなに怒ったんでしょう。本人は言わなかったけど、やっぱり普段彼が描くラブコメのことはかなり意識しているようですし。シュンスケ先輩が言ったみたいに思うところはあったんでしょうね。――だからなおさら、怒ってしまった」

「その、派閥? ってやつです?」

「――そうですね。もう彼らが生まれる前の話とはいえ、十数年前まで天野は天宮寺派閥の一員だった。他のどれでもない、天宮寺の。それなのに、ユウヤくんは頭首である天宮寺を悪役に据えた漫画を描いた――。この辺りに住んでいないとよくわからないかもしれませんが、僕にはカオルくんが怒る気持ちもわかりますよ。ユウヤくんもそれに気付いて漫画を取り下げたし、燃やして処分するかあんなに悩んだんでしょう」

「ふぅん? そんなもんですか」

「そんなもんですよ」

「――その、天宮寺って、なんなんですか?」

 ふたりきりの教室は妙に静かだ。ジンゴ先輩がいたらもっと明るいのになとどうしても思ってしまうが、いないものは仕方がない。

 その静かな教室の中で、サトルの言葉はさざ波のようにぞわぞわと小さく響く。

「……御三家って知ってます?」

「みずとほのおとくさの――」

「違います」

 カイの言葉を即座に否定する。いつもならここでため息をついたり薄く笑ったりしそうなのに、先輩の表情は変わらない。

 眼鏡の奥の瞳の考えは読み取りづらく――、逆に自分の思考は全て見透かされている気分になる。

「きみも知っておいた方がいい。この辺りで御三家と言えば、みっつの有力者の家系とその派閥の総称だ。そして、中でも――」

 夏に向かってだんだんと日は伸びていて、まだ六時前後のこの時間は普段ならもっと明るいはずだ。けれど今日に限って曇り空で、雨が降るかもしれないとカイは思った。

 サトルは指を一本立てる。その肌は妙に青白く浮いて見える。

 それを薄い唇に近づけて。

 ろうそくの火を吹き消すみたいに――、微かな声で。

「『天宮寺には近づくな』。これが、彼らに対していちばん使われている言葉です」

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