山羊と戦争の果て

睡眠欲求

第一章 山羊

軍服

フェレンツは入隊の列に並んでいた。勇ましいほどの大男やそれとは真逆の細身の男まで様々な人間が列に並んでいた。一人、また一人と軍服を受け取り列から離れていく。徴兵が始まり早二年が過ぎようとしていた。フェレンツの番が回ってきた。席に座っているのは立派な髭を生やした自分の父と同じ年齢ほどの男だった。胸には様々な形のバッジをつけていた。


「名前は?」


男が名簿を見ながら聞いた。今の時代にはふさわしくない紙の名簿だ。


「フェレンツ。フェレンツ・ロバート」


男は椅子の横に置いてあった段ボール箱から緑色の軍服を取り出した。


「名誉ある軍服だ」


彼はそう言いながらフェレンツに渡した。首元のタグにはハワードと書いてある。


「これハワードって書いてあるのですが」

「あぁすまない。気にするな」


男はタグをむしりとり何事もなかったように次に並んでいた男を呼んだ。フェレンツは、特に気にすることはなく外へ向かった。建物の外に出るといつもの顔ぶれが集まっていた。


「軍服受け取ったか?」


同じ軍服を持ったリチャードが言った。


「あぁ」

「俺の母さんは食べ物の心配をしてたよ」


ステイムが話を変えていった。彼の母親は少し心配性な面があった。


「でも勝った日の夜は大ご馳走って話を聞いたことがある」


どこか誇らしげにマズーが言った。フェレンツはその言葉を聞いて気持ちの高まりを感じた。どこかやる気に満ち溢れた、そんな気がしていた。


「そんなの楽勝だわ。ただ相手を撃って殺すだけだろ? 簡単なことだな」


ライアンが言った。彼は射撃訓練で上位を獲得していた。四人で心ゆくまで笑った。


「なぁこれから飲みに行かないか? 明日はもうここともお別れだろ?」

「いい考えだな」


飲み屋では同じ考えの若者で溢れていた。


「戦地に行く若者諸君よ!」


テーブルの上に立ちどこかの若者が叫んだ。


「明日、俺たちは戦地へ行き英雄となる。記念すべき日だ! 俺たちの愛国心で相手を打ち負かそうではないか」

「うおおお」


周りの若者が雄叫びをあげ、ビールを飲み干した。それフェレンツたちも例外ではなかった。


「頑張ろうな、友よ」


ライアンが言った。その顔は希望に満ち溢れていた。

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