空拳のイーゼル
蓋世の魔王
プロローグ〜変わりたいと思ったの〜
「いらっしゃいませ。一名様ですね?ご案内致します」
私の名前は「イーゼル・アインホルン」。
とある進学校に通う15歳の女子高校生だ。
現在は高級レストランで接客のアルバイトをしている。
「お待たせ致しました。ラァキウのステーキです」
趣味はアニメやゲーム全般。
学校では孤立気味で、クラスの人と関わる時は回されるプリントを受け取る時に会釈する程度。
何か用事があってクラスの皆に話し掛けられる時は、
「あ、え~と」、と。
明らかに私の名前を憶えていない素振りを見せられる影の薄い存在。
友達はあまり居ないけど、というか一人しか居ないけど、それ以外は至って普通の女子高生だと思う。
そんな私だけど、一つ問題があるとすれば退屈な事が大嫌いで飽き性だという事。
特に同じ事の繰り返しが凄く苦手で、一つの教科の勉強を一時間もしていると飽きてくるし。
アルバイトに至っては30分も働いてると嫌気が差してくる。
そんな性格が災いして、学校に行って、アルバイトをする。
そんな繰り返しの日々に億劫としているのだ。
私は楽しい事が好きだ。
つまらない今が、死ぬほど嫌いだ。
端的に言えば、私は将来的に自分が楽しいと思える事を永遠に繰り返す日々を送るという、我が儘を貫き通したい。
かと言ってやりたい事や明確な目標なども無いので、そんな自分に鬱々として長く続くであろう退屈な将来に絶望する負のループ。
中学生までは大人になったら楽しい日々が待っているかもと漠然とした考えを持っていたが、高校生になった今だからこそ分かる。
何かが訪れる事を待つのでは無く。
自分から何かを成さない限り楽しい事は絶対に訪れないと。
私は変わるべきだ。
でも、楽しい事ってなんだろう?ゲーム?アニメ?
私は退屈な日々に身を投じていたせいで、何が楽しいかと思う事も分からなくなった様だ。
◇◇◇
――そんな悩みに打ち拉がれていたある日、私の元に転機が訪れた。
「お会計837ヴァルトになります」
「電子マネーでお願いします」
ドーナツを食べたりジュースを飲みながら海をのんびり眺めていると、忙しい日々から解放された様で大好きだ。
私はこの時間の使い方を趣味の一つとしているのだが、ある時、ふと目線を移すと美しい女性がトレーニングウェアを着た姿で浜辺をランニングしている姿が目に入った。
太陽光の反射でキラキラと輝く美しい金髪長髪に、頭上には光り輝く光輪。背中には大きな光色の翼が生えている。
あれは「天使」と呼ばれる種族だ。
そんな女性が急に立ち止まり、軽やかなステップを踏み出しながら海に向かって拳を構え、その右腕を使ってパンチを繰り出した。
――その瞬間、海が割れ、天に大きな風穴が空いた――
まるで、
そのパンチにより生み出された衝撃波は凄まじく、鼓膜を貫く破壊音が浜辺に鳴り響き、底の見えない暗闇が覗く大きな風穴が空いた海は、やがて雄大な水音と共に戻り、砂浜に大きな津波を発生させた。
同時に、ガラスがひび割れた様に宇宙を覗かせる風穴を開けた天は、聞いた事の無い異様な音と共に元の姿へ戻っていった。
世界の終わりを見ている様だ。
「す、凄い……!」
その一撃を見た私は、恐怖心よりも好奇心が勝り、気が付けば「天使」の女性に向けてダッシュで足を進めていた。
「あ、あの!すいません!」
息を必死に整えながら声を掛けると、「天使」の女性は不思議そうな表情で返事をしてくれた。
「……はい?」
接客のアルバイト以外で人とマトモに話す機会が無いから、何をどう聞くべきかとあたふたしてしまった。
呼吸を整えて落ち着きを取り戻した私は、疑問に思ったことを開口一番に聞くのだった。
「あ、あの凄いパンチって、一体どんな物なんですか!?」
「……これは、「転移ボクシング」の「右ストレート」と呼ばれるパンチです。まぁ、私もまだ勉強中なのですが」
「転移……ボクシング……」
ボクシング……ボクシングか。
なんだろうか、心に響くこの感じ。
ワクワクして、キラキラして、この気持ちは……!
凄く楽しそう!
「あ、いきなり声を掛けてすいませんでした!」
「……お役に立てた様で何よりです。では、先を行きますので」
「は、はい!ありがとうございました!」
もしも、私があの凄いパンチが出来る様になったら。
もしも、強い事を誇れる自分になったのなら。
「見つけた……私がやりたい事……!」
そう考えると心の底から楽しさが溢れ出し、私は進むべき道を確定させたのだった。
――私は今から、プロ転移ボクサーを目指す!
さぁ、私の楽しい人生の幕開けだ!
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