第3話ミニゲームって枠



「もし、もしもよ、これがゲームの世界なら、ステータスって見られるのかしら」


 ステータスと声に出してみたら、シュッと現れた。

 ゲーム世界のウィンドウが杏璃の目の前で展開した。


 名前 :ミルフィーユ

 レベル:1Lv

 種族 :人

 スキル:息吹Lv1

 特記 :引継ぎヒロイン


「やっぱり! ミルフィーユ! 私がやってたゲームじゃない! ヤバ! 主人公ってもう安定のチート持ち!

 っと、引継ぎヒロインって? 何? 

 あ! もしかしてセカンドシーズンのヒロインって事?

 あたしがやり込んだゲームの中に入ったって事なら楽勝じゃない!」


 それなら、と、RPGあるあるで建物の中の物を物色しては壊していった。

 これどっかのドラマの中でやってたけど、普通に器物損壊だ、と。


 そして見覚えのある魔具も見つけた。

 ブレスレット状の魔具で、魅了魔法が掛かっている物だった。

 これがあれば攻略はぐんと楽になる。

 そう思った杏璃が手に取った途端、トラップの様に、恐ろしい姿の魔物が現れた。


「貴様! それを持って行かせるわけにはいかぬ!」


 魔物は魔法を放って来たが、杏璃は手にしたブレスレットのすぐそばにあった羊皮紙のスクロールを見つけた。


「きゃぁ! 逃げなきゃ! ゲームでこのブレスにトラップなんか無かったわよ!

 っと、そうだ、こっちの移動魔法の魔具も!」


 確かダンジョン攻略とかで、入口に戻ったり建物の外に出るためのアイテムだった。

 間一髪、羊皮紙を広げると、移動魔法が発現し杏璃の体はその場から掻き消えた。




 移動魔法で来た先は見覚えのある街だった。

 そう、チュートリアルで進める始まりの街。

 その中ではゲーム通りに進んだ。

 その辺のNPCと思われる街の人と話をして、王城までたどり着き、メイドとして働く事で国王の甥っ子に当たる公爵をまずは攻略することになった。

 ここまでの流れはゲームの始まりと同じだった。

 

「王城のメイド募集に応募しに来ました」


「進んで奥の試験を受けない」


 ミニゲーム的な試験が始まり、チュートリアルでNPCと話した内容がそのまま出されて、試験を合格した。

 配属先はもちろん、王族の給仕係で攻略対象に順に出会って行くって筋書だった。


「おう、新入りだな?」


 調理場の料理長に声かけられて、いよいよ最初の攻略対象、ザッハトルテ・モンブラン公爵様との出会いが始まると、杏璃はワクワクニヤニヤしながら返事をした。


「謁見室で公爵様がお待ちになられているから、このお菓子とお茶を運んで侍女長に渡してくれ」


「はい! かしこまりました!」


「元気がいいな」


 料理長に褒められて、これぞ乙女ゲームと言った心持でトレイに乗せた敦夫お茶と、お菓子をカートで運んだ。

 本来なら侍女長に渡さねばいけないのだが、ゲーム内ではその侍女長が見当たらず自分で運ぶヒロインがお茶を公爵にかぶせそうになってやけどする所を助けられる、と言うシチュエーションだったはずだ、と杏璃は思い返していた。

 

「そうよ、そこで涙を流しながら、公爵に助けを求めるんだわ!

 異世界から来て右も左も分からないヒロインとして」


 この先の展開を予想して杏璃は謁見室の前の扉に着くと、侍女長を探すことなく扉を開けて中へと入った。

 そしてその姿を見ていた他の侍従たちが、急いで侍女長を呼びに行ったことを、杏璃はまだ知らなかった。


 だってゲームの中だから! 何しても大丈夫! それが根底にあったからだった。



 

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