第2話乙女ゲームって枠




 倒れていた場所の名称は、分からずじまいだった。

 と言うのも、それなりに広さのある街道と思わしき場所だったが、人通りが無かった。

 半日? 自分の腹時計と感覚では半日、その場所に留まってみたが、誰一人通る子は無かった。

 本当は三時間ほどだったが、退屈過ぎで半日と、決めつけていた。

 着ていた服装も、どうも、大分古い時代っぽいワンピースで、どこかに自分のスマホが堕ちて無いかと探したが、どこにも見当たらなかった。


「仕方がない。 どっかに川なんか無いかしら?」


 自分の容姿を早く確認する必要があった。

 口では異世界転生と言ってみたものの、実際にピンク色の髪は不安にしかならなかった。


「公衆トイレとかあったら鏡で確認したいけど、見渡したところどっかの田舎の道で舗装もされてないし。

 建物一つ無いって事は、バス停とか駅なんかとてもじゃないけど無いって事よね?」


 もしかして家の抗争に巻き込まれて、拉致られて捨てられたのかもしれないと思い始めていた。

 

「拉致られたんなら、臓器売られてそうだけど……」


 五体満足で髪の毛の色だけおかしい女になってると胸を撫でおろした。


 とにかく!とその場から街道と思われる道を歩けば、どこかしらには着くはず!と杏璃は歩き出した。

 街道から少し外れた脇道になぜか妙に引かれて進んで行った。


「お腹はすくし、街道っぽいから当然川なんか無いし、気になる脇道に入ったら何かあるかと思ったのに、はぁ~散々だわ。

 捨てるにしても、あ、捨てたんなら森とか林とか崖下とかか、なら、まだ親切な方だったわね」


 ポジティブだった。

 杏璃の強みと言うか長所でもあったが、短所でもあった。


「スマホがあれば位置なんてすぐ分かるのに、拉致犯はご丁寧に服まで着替えさせて、スマホも捨てたってわけね」


 誰だか分からない拉致犯に怒りをぶつける言葉を吐きつつ、とにかく歩くとやっと、日が暮れた所で壁の前を歩く人影を見つけた。

 脇道を引き返すことなく奥へ来たら見えて来た壁だった。


「なにあれ、何の建物かしら?

 あ、人がいるみたい!」


 俄かに人がいた事で安堵感を覚えたが、その人の格好に立ち尽くした。

 壁の前を行ったり来たりしている人物は男性で、その手には槍を持っていた。


「嘘、やだ、」


 日が暮れるところでかろうじて見えていた人影が、近づくにつれて夜になりつつあるところで見えた姿だった。


「槍って何よ?」


 日本の平和な世界で生きて来た杏璃には驚きしかなかった。

 ただ、ヤクザだった実家のせいで暴力沙汰には慣れっこではあった。


 段々と深くなる闇に紛れる様にして、槍を持った人物に近づくと、音を立てないようにして背後から首を絞めた。

 女性の力でも、首の頸動脈を締めれば呼吸が出来なくなって、気絶させることは出来る。

 更に締め続ければ殺すことも可能だった。


 崩れ落ちる男を支える事は難しくて、膝がガクンとなった所で締めている腕をはずさずにそのまま体が倒れ込むに任せた。

 落ちた事を確認して、壁伝いに歩いて行くと大きな城門と言えるような扉が見えた。


「まるっきり映画かゲームの世界じゃない……、これ、見覚えがあるわ。

 まさか、よね」


 扉の存在に杏璃は想像した事が、現実だったのでは?と思い始めた。


「異世界って言うか、ゲームの世界? 

 ちょっと怖いけど、誰かいるなら電話でも貸してもらって」


 扉の前に呼び鈴らしきものは無く、ノッカーを叩くしかなかった。


「ここまで凝ってると引くわ」


 誰も出てこない。

 廃墟なら、と恐ろしさもあったが、中へ足を踏み入れその中で自分の姿を確認することが出来た。

 ピンク色の髪の見た事ある女性が、今の自分の姿だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る