悪魔 “ジュヴァル” 神父ユダゴン

 神父は神妙な面持ちで話を始める。彼は“ユダゴン”と名乗った。

「もともと、悪魔はこの地にいなかった、比較的おだやかな国の穏やかな地方だったんです」

 シスターエンリルが遠慮なく、そして何とも美しい姿勢でコーヒーをいただいた飲み干すので、真ねしてノレアものんだ。その視線はなんとも、その顔色をうかがいながらも、恍惚とした憧れに満ちていた。


「しかし、昔は娯楽もなく、閉鎖的な村々が多い中にあって様々なあしき祭りや悪しき遊びが流行した、魔女の真似ごとをする子供たちや、悪魔を使わせる遊びをするこどもたちなど、その中にあって、かつてのこの城にたっていた屋敷を“魔女の住む家”として人々が忌み嫌っていたことも、納得できない話ではなかった」


「魔女狩り」


 エンリルが口をはさむと、神父は深く納得した。

「ええ、ちょうどその時期と一致します、かつて彼女―“魔女オリエラ”―がそこに住んでいたのは、最も彼女は、世間からの評判はよかった、ただ、奇妙なしぐさや人づきあいが苦手、奇妙な本をあさる趣味があったこと以外は」

「奇妙な本というと?」

「なんてことはない、よその国の詩集ですよ、そうしたものさえ、異端として扱われたのが当時だったのでしょう、閉鎖的な国でしたから」

 

 神父は続ける。

―ですが教会のしめつけが厳しくなると、魔女狩りは実行されました。そこには当時の協会の信頼の失墜や内部の事情が関係していたのは明らかでしたが、それでも人々はその出来事を受け入れた。異端を裁き、この“精霊ニア教”が強くなることだけが、当時の信者にとっての“救い”でしたから。


それで、人々はこの村のその女性“オリエラ”を魔女としてさしだしました。オリエラは、一切の抵抗もしなかった。あとになってわかったことですが、彼女は流行り病に侵されており、抵抗の能力もなかったようなのです。


さらに、もともと教会がこの村に目を付けたのは子供たちが妙な遊びや悪魔の召喚の儀式をしていたからですが、この村の少女たちを守るために、オリエラは自ら、疑いのついた子供たちのために率先して、魔女であることを異端審問官に吹聴していたといいます。


ノレアが質問する。

「つまり、身代わりになったと?」


「ええ、ですが、もっと恐ろしいのはこの後です“魔女”として処刑された彼女は、その死後にあらゆる悪い噂を立てられました、村の人々は、怖れる故か彼女の恩をわすれて、あらゆる悪い噂や伝承を流し、それを、新しく生まれた子供たちは信じた……、そしてあるとき、子供たちが悪魔召喚の儀式をして、悪魔に“オリエラ”を召喚させた」

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