第6話

数日後、出水いずみから連絡がきて自分の両親から取材の承諾をもらうことができたと伝えてきた。

葵陽は出水と河合に日時と撮影場所を告げツジリにも電話で伝えて後日来るように話をした。千駄ヶ谷のレンタルスタジオで設置が終わり二人を待っていたが来るのが遅いのでスマートフォンに電話をかけたが通話中だった。

三十分ほど経ち出水から電話がかかってきてもうすぐで着くので待っていてくれと告げてきた。その後二人がスタジオに入ってきて遅れた理由を尋ねると衣装に迷っていたと話していた。


「ここのスタジオにも貸衣装を用意してあるよ。見るか?」

「せっかく用意していただいて申し訳ないんですが、僕らこの制服が良いんです」

「あと半年くらいでこの制服も着なくなるし自分たちの青春っていうか、もう一生着れなくなるならこの方がいいって決めました」

「わかった。じゃあバッグを置いてカメラの前に来てくれ」


葵陽は十数枚ほど撮ったあと河合からリクエストとして別の場所に撮影できるか来ていたのでどこかと聞くと学校がいいと返答してきた。念のため彼らの通う学校の担任に連絡を入れると短時間でなら良いと返事が来たので車で学校へ向かった。

到着して彼らが葵陽とツジリの手を引いて階段で三階に上がっていき、誰もいない教室に入り窓側の席に着いて急ぎ早に撮って欲しいと言ってきた。数枚撮ってから葵陽は彼らにある提案を持ち掛けた。


「椅子じゃなくてその机の上に二人で座って向き合ってキスしてくれないか?」

「ちょ……葵陽。誰か来たらどうするのよ?」

「いいっすよ。河合もいいよな?」

「うん。お願いします」

「撮っていくよ。最初お互いの額を合わせて見つめったのを撮りたい。……そう、そのまま向いていて」

「……ふっ、何か照れる」

「良いよ、いい画だ。そのまま見つめ合って……出水くん、河合さんの頭を撫でで数秒見た後に君からキスをしてくれ」

「僕からですか?」

「うん。……いいね、優しく河合さんの唇に手で触れてそれからまたしてほしい」


茜色の空の上から瞑色めいしょくの夕陽が重なり合いその光が窓辺に差し込むなか、彼らは愛しくキスを交わしていく。葵陽は何枚かシャッターを切っていき彼らが照れながら交わす深愛の影をカメラに収めていった。

撮影が終わると出版社でインタビューをしたあと駅までともについていき、彼らが改札口を抜けて電車に乗った後そのまま見送っていった。

ツジリも自分の会社に戻ると告げてきたがもう少し話がしたいと問いかけると久しぶりに夕食でも取らないかと言ってきたので簡潔に済ませたと思い立ったので、近くに構える輸入食品を扱うスーパーマーケットへ買い出しに行き再び会社に戻ってきた。


「何の弁当にしたの?」

「私はナシゴレン。葵陽は?」

「茄子とアスパラのペンネ。そんなに腹減っていないから軽く済ませたいと思ってさ」

「そういえば、ご飯って自分で作っているの?」

「時々。繁忙期は夜中過ぎに帰ることもあるから今日みたいにスーパーで買ってくることが多い」

「そう……」

「何気になる?」

「私といた時にはそれなりに作って食べさせていたからさ、偏食していないかなって思って」

「そんなに気にしなくても食えてるものは食えている」

「スイーツは相変わらず別腹でしょう?」

「そうっすね、この間久々にパフェ食って来たけど色んな意味で満たされた」

「贅沢者ね。私なんかそこまで甘いものに執着しないから食べれる人ほど白目むいちゃうな」

「それって馬鹿にしているだろう?食える時にこそありがたくいただいておかないと後悔するからな」

「ホントおっさん女子よね」

「それは……傷つくな……」

「またそう落ち込む。人って何年経っても変わらないものよね。あなたは甘党で私は辛口で……」

「あのさ、去年別れた旦那とはなんかあったの?どうして別れた?」

「まだ聞くの?」

「たった一年で別れるなんてツジリじゃないなって思ったんだ」

「向こうが二十代の若い子と浮気した。私はお飾りだってはっきり言われたし。君のように棘のある言葉しか出ない女性は優しさの欠片もないって」

「随分言われたな。何の波長が合って一緒になろうって決めたんだ?」

「身体の相性かな?」

「いい大人が何を言う。学生じゃあるまいし……。ちゃんと話し合ってから籍入れるだろう?」

「籍は入れていなかった」

「じゃあ事実婚?」

「うん。籍入れると相続とか面倒なことがでてくるからその手間を省きたかった」

「俺の時は面倒だったか?」

「私達の時は示談したでしょう?もう忘れたの?」

「覚えているよ。結果としてお互い忙しくて休みの日とか出かけられなかったし。行きたい所も行けなかったしさ」

「そんなに遠出とか必要だった?」

「もちろん。二人とも運転できるんだから日帰りでも出かけたかったよ。まあ出版社っていう業界だし、簡単にはうまくいかなかったもんな」

「私は今の仕事が好き。一生辞める事はないと思う」

「海外にいたのって大学卒業してからだろう?どの辺だった?」

「オレゴン州のポートランド。当時は治安も良かったし、自宅からも会社が近かったから住みやすかった」

「あそこって割と街並みも綺麗だもんな。当時の人たちとは連絡取っている?」

「それが全くない。あの頃の方が競争心剥きだしだったし、仲良くしていても表面しかなかったものだよ」

「日本とは考え方も違うもんな。文化の違いか……」

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