VR手術は基本料金無料

ちびまるフォイ

お花が咲いて、子グマがあふれるかわいい現場からは以上です

「うう……! い、いたい……っ!」


「大丈夫ですか! もうすぐ病院へつきますよ!」


救急車からストレッチャーに載せられ病院へと担ぎ込まれる。

手術室に入ると、周りには大量の手術器具が並べられていた。


「お、俺はどうなるんですか」


「これから緊急手術です。

 けれど、あなたには2つの選択肢があります」


「選択肢?」


「お医者さんを呼ぶのと、セルフ手術するのとでどちらが良いですか」


「はぁ!? そんなの医者を呼ぶに決まってるでしょ!? こっちは素人ですよ!」


「医者を呼ぶとすると、手術まで時間がかかります。

 その間にあなたの生存率はどんどん下がるんです」


「そこは常駐しといてくださいよ……」


「一方でセルフ手術の場合、まだ症状が浅いので手術難易度は低い。

 あなたでも手術できるうえ成功率は高いです」


「いや、それでも……」


「医者に頼りますか?」


「そりゃそうでしょう」


「ちなみにセルフ手術の場合は無料です」



「やっぱりセルフでいきます!!」



「セルフひとつ入りましたぁ!」


看護師の言葉に周囲は慌ただしく動き始める。

局所麻酔により患部の痛みはなくなってセルフ手術の準備が始まる。


「ゴーグル装着しますね」


「え、な、なんで!?」


「まあいいから」


目に大きなVRゴーグルを付けられた。

ゴーグル越しに外の景色も見えるが、ところどころファンシーな見た目になっている。


自分の腹部からはなぜかお花が咲いている。


「ほら、血が苦手な人もいるじゃないですか。

 そのゴーグルでセルフ手術でも抵抗感ない見た目にしてるんです」


「な、なるほど……。でもこれで本当に手術できるんですか?」


「大丈夫ですよ。もうすぐ繋がります」


「……?」


すると、ゴーグル越しの風景に自分ではない手が半透明で映し出される。


『こんにちは。私は執刀医のBJだ。

 私の手はゴーグル越しに見えているかな?』


「あ、は、はい」


『これから君は自分で手術するわけだが、

 ゴーグル越しに見える私の手の動きをそっくりマネればいい』


ゴーグルに映る半透明な医者の手に、自分の手の位置を重ねる。


『その調子だ。手術は難しくない。私に合わせて進めれば大丈夫』


「が、頑張ります」


視界に映る手が見たこと無い手術器を手に取れば、

自分のその手に合わせて同じ器具を手に取る。


執刀医の手の位置や動きを完全にトレースして手術を進める。


「なんかすごいですね……。こんな手術方法があったなんて」


『VR手術のおかげで我々医者の負担も減ったんだ。

 もう昔のように病院で寝泊まりする必要もない』


「でもこの手術も無料なんでしょう?

 お金ももらわずにどうやって手術しているんですか」


『ああ、それはーー』


医者がいいかけたときだった。

ゴーグルの全面に【DANGER】の赤い文字が流れる。

看護師の焦った声が手術室に響く。


「バイタル異常値! このままでは危険です!」


「え、ええ!? なにかミスしたんですか!?」


『ミスはしていない。だが人間のカラダは常に予測不可能なんだ。

 急いで傷口をふせがなければ君は死ぬ』


「さっきまであんなに穏やかだったのに!」


『VRでは患部から子グマが溢れているように見えるが、

 実際の現実では出血がすごいことになってるんだ』


「えええ!?」


『だが、執刀したのが私で本当によかった。

 私なら君を確実に救うことができる。それは間違いない』


「よ、よかった……安心しました。よろしくおねがいします」


『ああ、任せてくれ。それじゃ手術の続きをはじめよう!』



そういった瞬間。


ゴーグルに映る画面にデカデカと大きな広告がたちふさがった。




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医者はバカンス先でゴーグルを外した。


「先生、VR手術をされてたんですか」


「ああ。こういう小さな営業が大事なんだよ」


「それで有料会員は増えたんです?」


「それがいまだにゼロなんだ。

 有料への案内も完璧なタイミングなんだけどなぁ」


「それは困りましたね。ところで先生」


「なにかな?」



「手術室にスマホ持ち込みできましたっけ」



一方、セルフ手術室では

子グマが溢れて冷たくなった患者だけが横たわっていた。

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