50cmの同居人はオーナーを甘やかしたい。

鳥路

第一話:おかえりなさい、オーナー

真っ暗な夜の道

靴音を小さく鳴らし、住んでいるアパートの階段を登っていく

最上階の突きあたりの部屋。そこが私の住んでいる部屋だ


慣れた手付きで鍵束から自宅の鍵を選び、静かに鍵を開ける

いつも通り、真っ暗な廊下に向かって「ただいま」を告げると、玄関廊下とリビングの明かりが勝手に点灯して、奥から小さな足音が聞こえてきた


「おかえりなさい、オーナー!」

「・・・む?なぜ靴も脱がず、私の方をじっと見つめているのですか?」

「ドールである私が動き回ることなんて、今日に始まったことではないではありませんか」

「・・・ふむ。確かに異様な光景ではありますが・・・。そろそろ慣れてください」

「さあ、靴を脱いで部屋着に着替えてくださいね」

「貴方のスーツ姿も素敵ですが・・・家でくつろぐのに、仕事の空気は邪魔ですから」

「あ、お弁当箱と水筒。忘れずに持ってくるのですよ。絶対です」

「忘れたら、明日のお弁当は用意してあげませんからね?」


靴を脱いで、そのまま自室へと向かう

鞄から弁当と水筒を、スーツから部屋着に着替えて廊下に戻ると、小さな彼女は私が脱いだ靴を並べながら待っていた

「おまたせ」と声をかけて、戻ったことを知らせると、彼女は嬉しそうに顔を向けてくれる


「ちゃんと、お弁当と水筒を持ってきましたね。いい子です。よしよししてあげます」

「・・・」


ひょい、ひょい、とジャンプする彼女は、不服そうに私を睨んでくる

理由はわかっている。わかっていて、文句を言われるのを待っているのだ


「むぅ・・・貴方、私の身長が何センチなのか忘れているのですか?」

「メーカー情報では50cmです。靴を履いているので多少の差こそありますが、それでも貴方との身長差は100cm以上あるのですよ!だから・・・ひゃっ!?」


彼女が言葉を続ける前に、私は廊下にしゃがみ、彼女の体を持ち上げる

しゃがみ続けるのもありではあるが、私がきつい

こうして持ち上げたほうが手っ取り早い上に、楽なのだ


「・・・急に持ち上げないでください。びっくりするではないですか」

「あら?今日はいつもよりお疲れのようですね」

「顔を見たらわかりますよ。何年一緒にいると思っているのですか?」


小さな手を私の顔を伸ばし、優しい笑顔を浮かべてくれる


「よしよし・・・今日もお疲れ様でした」

「お仕事、大変でしたよね。いつもありがとうございます」

「お風呂・・・は、身体の都合で駄目ですが、それ以外は全部、私「アイレ」におまかせください!」

「今日も沢山、貴方を癒やしてみせますからね!」


身長50cm。座れば片手の手のひらに収まる小さな女の子

そんな彼女に甘やかされる人間の「私」

今日も、小さくて面倒見のいい彼女と過ごす夜が幕を開けます

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