エルフ系配信者
「こんにちは、エルフでっす」
「はぁッ!?」
カメラの前、挨拶した瞬間の開口一番に隣の女エルフから怒声が上がった。
「ちょっと、ちょっと、おじさん。『エルフです』ってなに!?」
そう。
隣に居る女エルフは姿変化の魔法がかけられた
まさに、両者ともエルフになった形だったが、挨拶が気に入らなかったのか、涼子がキレた。
「エルフはエルフだろ……」
「じゃぁ、おじさんは挨拶する時に『こんにちは、人間です』って言うの!?」
「言わないよ」
「でしょお!?」
さっきまでコスプレではなく、魔法でエルフになったことで顔もそちら寄りになって喜んでいたのに、このキレっぷりだ。
しかし、服まで変わらないのでブラウンのビキニ&パレオを持って来てもらって、なんちゃってエルフ装束にしてもらった。
そして、場所はダンジョンの10階層で撮影を行っているため、先ほどの挨拶まで終始、「こっ、こんなところ見られたら恥ずかしい」とか周りに人が居ないか心配していたというのに。
「じゃぁなんで、『エルフです』ってふざけた挨拶にしてるの!?」
「なら、どんな挨拶なら良いんだ?」
「そうね……」と涼子はアゴに手をやり考える。
「私は、モーラトニの森の恵みを受けるウルララ族の者であり、アレッザにしてイコラスの子、ウィニタ」
バーンと効果音が付きそうな構えで自己紹介?をする涼子エルフ。
いや、舘山寺・ウィニタ・涼子。
「うっ、ふふふ――」
「どうよ」と言わんばかりの真っ赤なドヤ顔をする涼子。
「涼子は、長耳族風の自己紹介のことを言っていたのか」
「なが……えっ?」
「ちなみに、俺の自己紹介のやり方はハイエルフな」
「なっ!?」
さっきまで赤面ドヤ顔をしていたのに、今度は頬っぺたを膨らまして
忙しい奴だ。
「なっ、なんなの、『俺の自己紹介はハイエルフな』って。私だってハイエルフの自己紹介なんだから」
「いや、違うぞ。ハイエルフは高慢ちきだから、
それを踏まえて、涼子の丁寧にどこの森に住んで、どの一族に属していて途中はよくわからなかったけど、誰の子供かと紹介するのは耳長族のやり方だ。
あいつら、認めた相手には丁寧な対応をするが、丁寧過ぎて逆に面倒くさい紹介をしてくるんだよな。
しかも、間違うと結構な確率で怒るし。
「だから、俺の『エルフでっす』は正しいって訳だ」
「ぐっ……、なんでこう、おじさんの言うことって一見、正しいように聞こえるんだろう……」
それは、俺が経験豊富だからだぜ。
でもそれは言わない。
だって、言っても張り合ってきて面倒くさいことになるだろうから。
「納得いったところで、さっさと撮影しようか。今回は、『簡単にエルフになろう』がテーマだ」
「ぐぬぬ」と可愛い顔を悔しさに歪めている涼子に言うと、すぐに涼子の頭に疑問符が浮かんだ。
「エルフになるって、
「それなら、ただの変装じゃないか。ただ顔を変えるだけなら、別に弓道部の涼子にこだわらないわけだし」
いや、食いつきが絶対に他の2人よりも良いって考えて、今回の話に誘ったんだけど。
「ほほう。弓道部の我の力が欲しいと」
「弓が引ければ、誰でもいいんだけどな」
「んな!?」
「きぃぃぃ」と怒り出す前に、涼子の目の前に弓を二つ出現させる。
一つは、簡素な作りの弓らしい弓。
そしてもう一つは、持ち手の部分が細くなっているところ以外、装飾とカラーリングが派手な弓を取り出す。
「あなたが選ぶのは、この質素な弓ですか? それとも、この豪奢な弓ですか?」
ニッチャリと笑って涼子の前に差し出すと、涼子はすかさず豪奢な方に手を伸ばそうとして、ふとその手を止めた。
そして、俺の顔をじっと見つめる。
「ホラ、どうした? 早く取ってくれよ」
質素な弓か豪奢な弓。
金の斧と銀の斧の一説のようなやり取りだが、それはウィニタ・涼子も分かっているだろう。
迷っている涼子を、ニチャッとした顔で嗤っていると、涼子は俺の顔をキッと睨みつけ質素な弓を手に取った。
「それで良いのか?」
「良いもなにも、こっちがハイエルフの弓ね。ハイエルフは自然に生きる者。豪奢な弓は、違うわね」
ドヤッ、と笑う涼子。
「じゃぁ、これ」
そういい、矢を渡すと、涼子は何も言わずに弓につがえ射る。
さすが、最近は行っていないとはいえ、経験者である。
「高慢ちきが、質素な矢を――」
「あーーーーーー! あーーーーーーー!!!! 聞こえないぃぃぃぃぃぃぃい!!!!」
目出度く
「不思議……。今日初めて手にしたのに、すっごく手に馴染む」
「鳴弦の儀でもしているんだろうか?」と思っていたけど、どうやら違ったようだ。
まぁ、実際、その役割もあったのか、さっきからモンスターに出会うことなく歩けてはいるんだけど。
「そんで、これから何すんの?」
「やっぱり、エルフ
「ゴブリン! やたっ」
ゴブリンといえば、初心者冒険者に狩られているイメージだけど、あいつら一個体だけだったらそれほど問題ないけど、集団戦ともなれば離れした冒険者でないとかなり危険だ。
それだけ、知能が回る敵である。
十階層に居る点から見ても、ダンジョンの敵としてスライムやモッシュロンダーの上位に位置するモンスターであると言える。
「あっ、でも、ゴブリンと戦うなら前衛が居るんじゃない?」
「鋭いな」
俺たちエルフ(仮)が持っている弓矢は後衛も後衛だ。
涼子が言うようにゴブリンと戦うなら、足止めをしておいてくれる前衛――盾持ちなどが必要になってくる。
「――でも、近づけさせないくらい射ればカッコいいと思わないか?」
「思う!」
ふんす、と鼻息あらく涼子は言った。
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