ダンジョンコアを取りに行こう
「一緒にパーティー組みませんか?」
「ごめん。パーティー組み替える気はないの」
「アドツベ観てます!」
「ありがとう! 近くに上げるから、よろしくね!」
「僕ら、20階層で活動してるんだけど、色々教えてあげようか?」
「そうなんだ。すごいね。じゃっ」
キラキラスリースターズ+俺といういつものメンツは、ダンジョンコアを探しに第一階層に戻ってきたのだが、アドツベに動画を上げていて、さらに先日、未探索領域を発見したという記事も出たおかげで有名人になっていた。
スライムを流れ作業とスライムを使ったウッドマンの倒し方についても、たくさんのお礼を言われていた。
あの動画を考えたのは俺だけど、裏方はなんと辛いことか。
ちなみに、俺が上げた素手でスライムを倒す方法だが、怪我人が続出したせいでフェイク動画認定され大炎上となった。
こちらはこちらで、なんと辛いことか……。
「おじさん、気づいてる?」
こちらを見ずに、一点を向いて小さな声で話しかける悠。
そう声をかけられ、少し驚いてしまった。
「あぁ、何組かが俺たちをつけてるな」
俺たち――正確には、俺と悠だが――が攻略していたのは第四階層で、今回は第一階層に戻ってのスタート。
未探索領域を発見した奴らが第一階層に戻ってきたとなれば、
つけてきている奴らは、そのおこれに与ろうと――もしくは抜け駆けしようと考えている奴らだろう。
「えっ、なにそれ?」
「…………」
しかし、悠が言っていたのは俺が考えていたこととは違っていたようで、「何それ怖い」と言いたげに俺の顔を見てきた。
「分かるよ、おじさん。後ろの岩の所と、木の影だよね」
アゴに手を置き応える涼子。
さすが、これからレベル(仮)を上げようとしている奴は違うな、と思ったのも束の間。
ドヤ顔で俺を見ながら「分かるよ。そういう年ごろだもんね」という雰囲気を出す涼子に。
そもそも、岩も木の影もここにはたくさんある。
「私には周りにどれだけ人が居るとか分かんねーけどさ。その秘密の場所に行くなら、なるべく早く移動した方が良いんだよね?」
「あぁ、そうだ。せっかく、俺たちが発見した未探索領域のお宝だからな。他人に見られなければ見られないだけ、宝の価値が上がる」
朱音の問いに答える。当たり前のこと。当たり前の話。
しかし、それを再度確認した悠と涼子の2人は急にピシッとして歩き出す。
「そうだ。早く行かないとね」
「そうだよ。おじさん、早く」
そうは言っても、未探索領域の入り口がどこにあるのか分からないし、そもそもこの階層にもあるのか分からない。
それに、
□
未探索領域を探し始めてから2時間近くが経過した。
その間にこの階層の主戦モンスターであるスライムは何体も倒したのだが、目的の未探索領域の入り口は一向に見つからない。
戦闘の混乱に乗じて
向こうも暇じゃないことを祈れば、その内、諦めると思うのだが、いつになるのか分からない物を待つというのも面倒くさい。
「ふぃ~、疲れたぁ~」
どすっ、と獣道の脇にあった倒木に腰掛ける悠。
「おじさんの魔法で探せないの?」
歩き疲れた不満を隠すことなく、悠が言う。
「もうやってるよ」
飛ばしているのは探査魔法。
基本的にモンスターを探す魔法なのだが、ちょっとした使い方の工夫で他と違った部分を察知することができる。
しかし、見つからない。
「んじゃぁ、もうここには無いってことで次に行った方が良いんじゃね?」
「そうだね。これだけ探しても見つからないってことは、無いって考えた方が良いかもね」
朱音の言葉に、悠が頷き賛成した。
そもそも、これだけ広いダンジョンを数時間歩いた程度で探しきれると思ってはいない。
だが、目的も無しに歩いて悠たちのやる気がなくなっては本末転倒。
昨日は、レベルアップしてバズる動画を撮ろう、なんてことを言っていたが、俺の目的はそんなことではない。
レベルアップはその通りだが、俺の目的は悠たちを最強のレベルアップゴリラにして、下層に挑めるようにすることだ。
収入が見込めるようになったので、このまま行けば遠からず俺は一人でダンジョンに潜れるようになるだろう。
そうすると、彼女たちのカメラマンは必然とできなくなる。
人気が出始めたとはいえ、キラキラスリースターズは駆け出しの冒険者の域を出ていない。
そこでレベルを上げて最下層攻略組に組み込むことができれば、同じく実力のあるカメラマンが殺到するって寸法だ。
そして俺は晴れてカメラマンという職から解放される。
良い考えだと思わないか?
とはいえ、肝心のダンジョンコアが見つからないのであれば、俺の計画も水の泡となってしまう。
「なぁ、この階層にフェアリーリングってあるか?」
突拍子もないことを聞いたわけではないのに、3人は少しだけ空を見て俺を見た。
「フェアリーリングって、キノコの輪っかのこと?」
「それか、不思議な草木の生えていないぽっかりと開いたサークルというか――」
涼子の質問に、俺もフワフワとした回答をする。
俺だって便宜上、フェアリーリングって言っているだけで、実際に妖精が作っているのを見たことがない。
いや、
広いダンジョンで似たような場所がどれほどあるのか分からないが、3人は俺が言った場所と記憶が一致する場所を思い出しながらうんうんと唸り、そして数分の後、「あっ」と朱音が声を上げた。
「前に弁当を食べていたところ。あそこって、変に開けてなかったか?」
「あぁ、あそこ!」
「そうだ、そうだ」
どうやら、記憶に一致するような場所はあったようで、その旨を伝えてくれた。
「大きさは? 結構、大きい?」
「大きいっちゃ大きいけど、ただの広い場所って感じだから、もしかしたら違うかも……」
「いや、今はそれで良いんだ。何にもヒント無しに探すのも、そろそろ疲れてきたしな」
「なら、いいけど」
3人とも知っている場所なので、俺が
今まで当てもなく歩いていたようなものなので、目標ができた3人は急に元気になり前へ前へと進む。
俺はと言うと、周囲に探知魔法を飛ばし誰も居ないことを調べる。
この階層に居るような冒険者が俺を出し抜けるような腕があるとは思えないが、
□
「ここだよ」
――と紹介されたのは、ダンジョンへ入るためのゲートからさほど離れていない場所にある森の中だった。
「予想外だったな……」
「違った?」
「いや、全く問題ない。予想通りの良いフェアリーリングだ」
フェアリーリングとしては申し分ない物で、この点は良かったのだが、いかんせんゲート――つまり人通りが多くて困る。
「久しぶりだからできるか分からんが――」
虚空から槍を取り出し、自分が針となりカリカリと槍を使って円を描く。
「3人とも、この円から少し離れて」
俺が虚空から槍を出したのに驚いていた3人は、素直に円から離れた。
それを確認し、足元に槍を刺す。
「
魔法を詠唱すると、先ほど槍で描いた円にそってキラッキラッと光の粒子が噴出したと思った次の瞬間にはパキッという軽い惨劇音が聞こえ、地面に円状に亀裂が走った。
「何が起きた!?」と3人が驚くよりも早く、俺の足元が円状に沈みだし、そして地下に呑まれていった。
「ちょあっ!? おじさん、大丈夫なの!?」
「あぁ、全く問題ない。崩れるかもしれないから、あまり身を乗り出すなよ」
俺のすぐ頭上、落ちてきた穴から覗き込む3人の影に注意を促す。
「おっさん、驚かせんなよ」
「そうだよ。死んだかと思ったじゃん」
「悪い、悪い」
良い娘たちじゃねぇか。
お兄さん、涙出ちゃうよ。
心配してくれる3人に感動しながら降りた先の周囲を見渡すと、まさに予想通りの場所に出た。
「よし、当たりだ。一人ずつ、降りて来てくれ」
「降りて来てって言っても、こんな高いところ降りれるわけないじゃん!」
高さはせいぜい30メートルくらい。
高いといえば高い――いや、俺目線で考えるのはよそう。
高いものは高いんだ。
「ちょっと待ってろ」
槍を虚空に入れ、代わりにロッドを取り出す。
ロッドの端を地面に突き刺すと、如意棒とばかりに今入ってきた穴に向かって伸びていく。「支えておくから」
魔法使いだということは信じてくれたのに、支えているという俺のことを信じてくれないのか、朱音と涼子が「これでもか」と言わんばかりにロッドを蹴ってくる。
ちょっとやそっとで曲がるような軟な代物でないし、レベルの低い女の子蹴られて外れるほど俺の握力は低くない――が、パラパラと頭上から土が落ちてくるのでやめてほしい。
「じゃ、降りるから!」
言外に「ミスったら殺す」というニュアンスの含まれる言葉を頭上から受けながら、3人が消防士よろしく降りてくるのを待つ。
悠、朱音、涼子の順で降りてきたのだが、一人くらい頭の上に勢いよく落ちてくると思っていただけに、全員が軽やかに着地をするのを見て素直に驚いた。
さすが、冒険者をやってるだけある。
「すごい。地下にこんな空間があるなんて」
涼子が地下に広がる空間を見て驚く。
「アタシらが昼飯食ってた所の下に、こんなのがあったなんてな……」
「灯台下暗しってな」
全員が地下に降り、安全圏まで移動したことを確認すると、穴を塞ぐために再度土魔法をかけ――ようとした瞬間、陽光に照らされて、洞窟の奥の通路からキラッとした光が視界の端に見えた。
「ッ!!」
カカンッ!
ロッドを回し、飛翔体を弾く。
音こそは硬質だったが、地面や壁に落ちたそれたゲル状になり粘性を持ち地面に落ちていった。
「注意しろ! 階層ボスだ!」
「えぇっ!?」
「マジかよ……」
「そんなぁ……」
小さな悲鳴を聞きながら奥の通路を睨みつけると、そこから通路と同じくらいの大きさをしたスライムが現れた。
「あの針は、スライムの一部だったか。考えたな――」
いや、居たっけな?
違う。
居たら怖いよなって話を、仲間と話したことがあっただけだ。
「悪いが、あれを3人に相手さすのはリスキー過ぎる。あれは、俺が潰すぞ?」
「賛成!」
「異議なし!」
「早くして、怖いっ!」
3人から了承を貰い、スライムを睨みつける。
スライムの様子からして、こちらを侮っているの明白だった。
理由は、のそのそと動いてくる歩みにキレがなく、ひどく緩慢だからだ。
もしかしたらレベルが低いからこういった状態になっているかもしれないが、裏ボスとしては優秀なんだろう。
今回は相手が悪かったが――。
「3人固まって、飛んでくる針に気をつけろっ!」
指示を出し、縮地の要領でスライムの間合いへと飛び込む。
「
「攻撃される」と理解した瞬間、素早い動きでスライムは自身のコアを端まで動かすが、大きな体とは言えコアの可動域には限度があり、俺が放つ炎の精霊の熱と衝撃波はそのような小さな枠にはとらわれない。
内部から炎に蹂躙されたスライムは、大きく、そして醜く膨れ上がり、最後には破裂した。
「う~ん……見事」
流れるような討伐に、ヌルイ生活を送っていたにしては腕が鈍っていないことを再認識し、自画自賛する。
「あっ、なんか出てきた!」
自画自賛しながらも探知の魔法で周囲を索敵し、他にモンスターが居ないことを確認していると、背後から3人が沸く声が聞こえた。
そちらを向くと、前回、悠と見たようなダンジョンコアが空中に浮かんでいた。
「こりゃ、幸先が良い」
フェアリーリングの下には、魔素が強い空間が広がっていることが多い。
悠が2人にダンジョンコアを説明しながら、誰が触るのかもめているのを見ながら、次なる一手を考えた。
□
「あら……」
某所にある一室で、目を閉じ、コーヒーの香りを楽しんでいた女性が空間を見上げて小さく声を出した。
「どうかしましたか?」
反応したのは初老の男性。
政治家然とした格好と雰囲気を放つ男は、この国の総理大臣。
そして女の方の格好は、白を基調としたどこか聖職者然とした格好をしている。
「いえ、今、魔法を感知しましたので」
「魔法ですと!?」
「えぇ、一瞬――ですが」
そう、一瞬だけ、女は魔法――というか魔力の瞬間的な出力上昇を感知した。
それだけでは魔法とはいえず、モンスターが死に際の馬鹿力を出した時にも出てしまうような、魔力の上昇。
しかし、人為的になされた物のような気がしないでもなかったので、ふと声にでてしまったのだ。
だというのに、この国の政治を担う長は壊れんばかりの喜びようだった。
その間抜けな姿を見て、オイレン・ビューターはニッコリと笑顔を浮かべた。
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