元勇者だけど、お金が無いのでキラキラダンジョン配信系美少女パーティーに寄生してお金を稼ぎます
いぬぶくろ
異世界帰りの元勇者
「おっ……おぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッ!!!!」
満月の空に響く咆哮は、嬉しさをこらえきれずに上げたものだ。
コンクリートのマンション。
夜中にも煌々と光り輝くコンビニ。
危険が全くない世界で、たるみ切った道を行く人々!
ここ数年、全て俺の世界から切り離されていたものだ。
「こうしちゃ居られねぇ!」
今いるところは、俺が
そして、これから向かうのは俺の
築55年でトイレは共同、風呂はなしというまさに時代錯誤な存在だったが、田舎から上京してきて文無しな俺に借りられる最高の城だった。
ヨタヨタな服を着ていて見た目からしてダメな雰囲気を醸し出している俺の姿だが、こう見えて
もちろん、魔王を倒して晴れて
角を曲がって角を曲がって、ウッキウキに駆けて次の角を曲がれば俺の城――。
「俺の城ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!」
角を曲がったら、オンボロな俺の城が鎮座しているはずなのに、今は重厚な金網とコンクリートで固められた要塞みたいな建築物が立っていた。
しかも、周囲一帯に建っていた民家も全てなくなり、要塞の一部となっていた。
どこを見渡しても記憶に残っているオンボロアパートの面影はなく、全てが嘘だったんじゃないかとすら思えてくる。
もしかしたら、元の世界に帰ってきたと思っていたのに、まだ
それでも、一縷の望みをかけて要塞の前で警備をしている兵士に問いかけてみる。
「すっ、すみません。ここって、むちゃくちゃ古いアパートってなかったですか?」
俺に問われた兵士同士、顔を見合わせると少し困った顔をした。
「どうでしょう? 我々も途中で来た者なので
「だっ、ダンジョン!?」
聞きなれた言葉であり、聞きなれない言葉でもあった言葉に驚き、兵士たちが守るゲートの先を見ると、見慣れた入り口があった。
「なんでダンジョンが……」
□
「
両手を股に挟んで暖をとる。
夜、俺の家がダンジョンによって消滅していたから帰る場所がなくなってしまったので、俺は今、泣く泣く公園のベンチで横になっている。
そして今は冬。
しかも、3か月後とかではなく10年経ってからの冬。
家に連絡をしたいけど、スマホは
公衆電話もどこにあるのか知らないし、そもそもお金がない。
「くっそぉ……。
流れる走馬灯ひとつひとつに目を向けてみると、何度か情けな死があったような気がする。
まぁ、生きているんだから死んではいないんだけど。
「兄ちゃん、そろそろ飯行こか」
「うっす」
声をかけてくれたのは、公園近くの橋げたに居を構えている段ボーラーの三澤さんだ。
今の俺は、ダンジョンに挑むために上京したが失敗が続き、ついに文無しになった憐れな若者ということになっている。
かくいう三澤さんも出てきた年齢は違えど、同じようにダンジョンに挑んでいた人らしく、同じ境遇(という建前)の俺を気にかけてくれたのだ。
それに、飯と言えどゴミ箱を漁るんじゃなくて、近くの広場に炊き出しを貰いに行くだけだ。
ありがとう炊き出し。
異世界人の観点から
「まだたくさんありますので、三列になって並んでくださーい」
広場につくと、年配の男女に高校生くらいの子たちが炊き出しと、その列を整えていた。
「見ろ、あそこ」
三澤さんにアゴで指した方を見ると、ニコニコとした笑顔で高校生くらいの女の子3人が配膳をしていた。
「あの子たちが、なにか?」
質問すると、三澤さんは「知らんのか?」と逆に驚いていた。
「あの子たち、まだ駆け出しの冒険者だっていうのに、ダンジョンで得た金で俺たちみたいなやつに炊き出しの寄付をしているんだ。」
「へぇ~」
高校生くらいと言えば15歳以上ということで、
そもそも、ダンジョンは国が管理し、それに挑む冒険者たちを冒険者ギルドが一括管理している。
分け隔てなくダンジョンに挑ませては死者が増える一方なので、まずは体が成長したであろう13歳を皮切りにギルドに登録できるようになっている。
俺は呼び出された年齢が年齢だったから特に制限には引っかからなかったけど、初心者冒険者はだいたい同じ年齢で固まることが多いので、その点に関しては羨ましくもあった。
「さぁ、日本の明るい未来はあの子たちに任せて、俺たちは今日を生き抜くための糧でも貰いにいくか」
「うっす」
腹が減っては戦ができぬ、とはまさによく言ったもの。
昨日は予想だにしなかった出来事にうろたえて、今朝は今朝でひもじさと寒さで心が折れそうになっていた。
だが、温かいご飯で腹が満たされれば、悪かった考えが少しは好調の兆しを見せる。
家は失われてしまったが、こっちは手に職があるといっても過言ではない元勇者。
ダンジョン攻略ならお手の物だ。
「よし。ダンジョンに潜ろう」
「そうか」
ハグハグと俺の隣で飯を食っていた三澤さんは、俺の決意に工程でも否定でもない生返事をしてきた。
「……ダンジョンに
「へっ?」
免許証だと……?
俺の表情から全てを察したのか、三澤さんは「ハァ……」とため息を吐き、俺に向き直った。
「お前みたいな、まだ挫折が浅い人間は
血走った目で見てくる三澤さん。
マジで怖いぞ。
「だいたい心が折れるのは、免許の更新手続きをする時だ。優良
三澤さんはポケットに手を突っ込んだかと思ったら、中袋を裏返して笑った。
「
なんと世知辛い世界だろうか。
先立つものが何もないせいで、俺は今唯一、輝ける場所であるダンジョンがずっと遠くにある。
「なっ、なんとか、救済措置できなものは……」
「能力を測定して、高い出力が出せれば国の施設で訓練することができるらしい。現に、あの子たちもそういった奴だ」
「じゃっ、じゃぁ、俺もそれに」
一縷の望みが叶う瞬間だった。
「それが無料で受けれるのは14歳だけだ。それに、それで能力が分かるような力を持っているなら、ダンジョンですでに活躍しているよ」
「ガハッ」
クリティカルヒットな言葉に夢も希望も打ち砕かれた。
「まっ、夢を見ずに、俺たちは地道にやっていくしかねぇんだわ――ん?」
〆に入ろうとしていた三澤さんだったが、俺たちの視線の先に落ちる影に気づいて言葉を止めた。
それにつられて俺も顔を上げると、そこには冒険者であり炊き出しの配膳をやっていた女子高生の一人が立っていた。
「あの、初めましてですよね?」
「えっ、えぇ……」
どちらの意味で?と思ったが、どちらの意味でも確かに初めてなので頷くに留めた。
「アンケートをやって欲しいんですけど、今って時間ありますか?」
「あぁ、はい。問題ないですよ」
「じゃぁ、お願いします」
バインダーに挟まれたアンケートを受け取り、内容を確認する。
『えぇと……お名前は、
カリカリと書き進め、質問部分に行くと質問が一瞬、滲んだ。
しかし、それは俺だから気づくか気づかないかの一瞬で、特に悪意ある物ではなかったので、そのまま書き進めていった。
一通り書き終わり、バインダーを女の子に返すと、女の子は可愛らしくお辞儀をするとサッと戻っていった。
あとに残るはムサイ男が2人だけである。
「帰るか」
「うっす」
一瞬感じた春の風に吹かれ、俺たちは帰路についた。
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