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「役に立ちたい? 我のか?」
「はい。私はいつも旦那様に幸せを頂いているので、ほんの少しでもお返ししたいと思いまして……」
本当に、私はもらってばかりなのです。
今の服も、お食事も、生活も、人生も。
みんな、旦那様が私に送ってくださったものなのです。なのに、私は何も出来ておりません。
お食事もうまく作れませんでした、頭が悪いのでお仕事のお手伝いも出来ません。
家事などは女中さんの皆様がてきぱきと行ってしまうので、私が入る隙間がありません。
そもそも、私が手伝おうとすると、旦那様の奥様という事でやらせていただけないのです。
これでは、私は昔の私と変わりません。
周りから蔑まられ、邪険に扱われ。何も出来ず、周りから捨てられる。
そんな、昔の私には、戻りたくありません、捨てられたくありません。
私を寂れた神社に置いてけぼりにし、捨てた血の繋がりがある本物の家族にされたみたいにされるのは……。
それだけは、絶対に嫌なのです!!
「…………ふむ、なるほど。では、一日一回、今いる我の部屋に来てもらっても良いか?」
「え、一日一回ですか?」
「もちろん、一回だけでなくても良いぞ。最低一回という意味だ」
な、何故なのでしょうか。
来ても、私はお仕事のお手伝いは出来ません、邪魔をしてしまわないかものすごく不安です。
「嫌か?」
……はっ!! 私が曖昧な返答をしてしまったので、旦那様が落ち込んでしまわれました!
「い、嫌なわけがありません。ですが、よろしいのでしょうか? お仕事の邪魔をしてしまわれないか不安なのです」
「それは問題ない、仕事は早めに終わらせる主義だ。それでも、期限がギリギリの物があれば先に言う。だから、もし何もなければ一回は来ることだ、良いな?」
「あ、はい!」
それは私にとっても願ったり叶ったりなのです!
今までは行きたくても、遠慮してしまい行く事が出来ませんでした。
旦那様とのお話タイムが増えます!!
またしても、私がまた幸せを貰ってしまいました。
これではお返しになりません、どうしましょう。
「あ、それとな」
「はっ、はい!」
「我の部屋に来る時刻は、華鈴に任せるぞ」
「…………へ? だ、旦那様が呼んでくださるのではないのですか?」
「いや、我は呼ばん。自ら我に会いに来るのだ」
「え、へ? へ!?」
こ、これは、どうしましょう!!!!
※
旦那様とのお約束は、次の日から発動されるようです。なので、私は今、旦那様の部屋に向かっております。
今の時間は昨日、ご一緒にお夕飯を食べた時間と大体同じ頃。
外は夕日が沈み、夜空が綺麗に輝いております。
実は、お昼頃にも行こうとしたのですが、どうしても旦那様にお声をかける事が出来ず、断念してしまいました。
私なんかが旦那様のお仕事を邪魔してはいけない。そう考えてしまい、どうしても声をかける事が出来なかったのです。そして、今回もです。
昨日がたまたま今の時間が空いていただけで、今日も空いているとは限りません。
邪魔をしてしまったら、集中をきらせてしまったら……。
でも、お約束をいきなり破るのも絶対にあってはならない事です!!
頑張れ、華鈴!!
ガラッ
「ひゃぁぁあ!!!」
い、いきなり旦那様の部屋へと続く襖が音を立て開きました。
そこには、黒い着物を緩く着ている旦那様。
顔には、いつものように黒い布を付けております。
「華鈴よ、そこに何時間いるつもりだ?」
「す、すいません。邪魔をしてはいけないと思い、声をかける事が出来ませんでした……」
「いつでも良いと言っておるのに。ほんと、我の嫁は可愛いな」
廊下で縮こまっている私の頭を撫で、流れるように私の手首を掴み、部屋の中に引き入れてくれました。
「あの、本当にご迷惑ではありませんか? お仕事の邪魔をしてしまっては本末転倒なのですが…………」
「うーむ、まずその性格をどうにかせんといかんかもしれんな」
「え、す、すいません。なにか私、旦那様に不快な思いをさせてしまったのでしょうか……?」
どうしましょう、旦那様を困らせてしまうだけではなく、悩ませてしまいました。
「そういう所だ」
「っ、え、そういう所…………ですか?」
私のおでこが、旦那様の人差し指で押さえられてしまいました。
この指の意味と言葉の意味、分からないです…………。
「もっと自分に自信を持て。華鈴は、我が認めた女だぞ? こんな別嬪な嫁を貰う事が出来て、我は幸せなんだ。ぬしの旦那様にここまで言わせているんだぞ、もっと自分に自信を持っても良い」
自分に、自信をもってと、言われましても…………。
ここに来る前の生活が、今の私を雁字搦めにしてしまい、怖いのです。
余計な事をしてしまうと、昔親から放たれていた罵倒と同じことを、旦那様から放たれてしまうんじゃないか。
そう考えてしまい、本当に、怖いです。
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