4-3

 旦那様に私の失敗した料理を持って行かれたことにより、思わず床に四つん這いとなってしまいました。


 旦那様が気を使って、私の、手料理を……。

 お優しいので、無理してでも食べますよね、絶対。本当に、自慢の旦那様です。


「奥様、安心してください。味は美味しいかと思いますよ。見た目はまた練習しましょうか」


「二口女さん……。はい……」


 その場に立ち上がると、二口女さんも立ち上がり、ご飯をよそい始めました。


 私はお皿を洗おうと思います。


 スポンジを手にし、桶の中にあるお皿を洗おうとすると、なぜか二口女さんに止められました。


 また失敗すると思われているのでしょうか。

 大丈夫ですよ、お皿洗いなら出来ます。


「こちらは大丈夫なので、お茶と白米を七氏様にお届けいただいてもよろしいでしょうか」


「え、よろしいのですか?」


「はい、お願いできたら嬉しいです。また明日、一緒に料理を行いましょう」


「ありがとうございます!」


 二口女さんがたすきを取ってくださり、白米とお茶が乗っかっているお盆を渡してくれました。


「行ってらっしゃいませ」


「ありがとうございました」


 浅く腰を折り、暖簾を潜り廊下に。

 旦那様の部屋に一直線です。


 転ばないように気を付けながら歩いていると、すぐに旦那様の部屋に到着。

 中に声をかけると、旦那様の声が返ってきます。


「うむ、お疲れ様だ」


「いえ……。私は、迷惑をかけただけで終わってしまいましたので…………」


 中に入り、旦那様の机に持ってきた白米とお茶を乗せます。


 あ、箸が旦那様の手に握られていました。

 天ぷらのお皿を見てみると、サツマイモがなくなっております。


 しっかりと食べてくださって嬉しいのですが、無理してないのか本当に不安になります……。


「顔が青いが大丈夫か?」


「い、いえ!! あの、無理してないですよね? 旦那様」


「何をだ?」


「天ぷらです……。失敗してしまったので、味がいかがなものかと」


 不安がそのまま口から出てしまいました。

 でも、不安なので仕方がないのです。


 旦那様が優しすぎるので、美味しくなくても口では美味しいと言ってくださる気がします。


「うむ、華鈴かりんよ、こっちに来い」

「え、はい―――きゃ!!」


 旦那様に手招きをされたので近づくと、手首を左手で優しく包み引き寄せられ、膝の上に座らされました。え、何故?


「あ、あの?」

「ん-? ほれ、食ってみろ」


 旦那様が菜の花を一口サイズに切り、私の口元に近付けてきました。


 振り返り旦那様を見ると、笑みを浮かべております。

 下から見上げているので、黒い布で隠れていても、顔下半分は見る事が出来ました。


「自分で食えばわかるだろ? 食ってみろ」


「わ、わかりました」


 これ、旦那様からの”あーん”ですよね? 


 緊張で心臓が鳴り響いております。

 ですが、せっかくの機会、逃すわけにはいきません。覚悟を決めます、頑張ります。



 ――――――――パクッ



「どうだ?」


 私が食べると、旦那様が自慢げに聞いてきました。


 口の中でしっかりと噛んでいると、菜の花独特のほろ苦い味が口の中に広がり、癖になりそうです。味だけなら、美味しいかもしれないです。


「うまいだろ? だから、不安になるな」


 私の頭を撫で、旦那様が私の顔横で一口サイズの菜の花を食べました。


「…………旦那様、お食事、私の前で………」


「ん? 見たかったんじゃないのか? 我の食事姿」


 あ、もしかして、お買い物に行った時のことを言っているのでしょうか。


 確かに見たかったのですが、まさか本当に見せていただけると思っていませんでした。

 しかも、まさか旦那様の膝の上で食事姿を見る事が出来るなど、幸せです。


「ありがとうございます、私は幸せです」


「大げさだな。これくらいの願いなら、いつでも叶えてやるぞ。だから、遠慮なく言うのだ」


「あ、ありがとうございます。あ、あの、でしたら、一つ、いいでしょうか」


「お、さっそくか? 言ってみろ、遠慮はいらん」


 顔を覗き込んでいた旦那様の方に向き、先ほどまで私が考えていたことを打ち明けます!


「私、今よりもっと旦那様のお役に立ちたいのです。何か、私でもできることなどありませんか?」

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